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「コロナで、みんなこうなったよね」は本当に正しい?

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■オンライン飲み会、実はそんなに流行ってなかった

先日、友人と食事をしていると、日本もだいぶオンライン化が進んできたよね、という話になりました。

「コロナで、みんなオンライン飲み会をやるようになったから、あえて集まらなくてもよくなったよね」

確かに、私はオンライン飲み会を結構楽しんでいましたが、ふと思いました。ほんとに、みんなそうなのかな? 考えてみると、いくつかの友人グループに所属する中で、オンライン飲み会をやったところとやっていないところがあったような気がします。

そこで調べてみると、リクルートライフスタイルの「ホットペッパーグルメ外食総研」が2020年6月度に行った「外食市場調査」では、こんな結果が出ていました。

2020年6月までのオンライン飲み会・食事会参加経験者……18.3%

世代・男女別に見ると、

20代 男性 38.5% 女性 40.1%
30代 男性 25.3% 女性 24.0%
40代 男性 14.6% 女性 12.3%
50代 男性 11.7% 女性 8.4%
60代 男性 10.1% 女性 5.8%
(有効回答数10,186件……首都圏5,115件、関西圏2,654件、東海圏2,417件)

私の感覚では、半数くらいの人は経験しているかなと思ったのですが、一番多い20代女性でも、半数にいっていませんでした。

この調査は6月時点のものですが、オンライン飲み会が広まったのは3〜5月。私もこの時期は頻繁にやっていましたが、5月終わりごろに緊急事態宣言が解除され、少しずつ人と会えるようにもなり、7月以降はまったくやっていません。

ですから、今現在で考えてみても数字はそう変わらないのではないかなと思います。

この結果を見てあらためて、「みんなこうだったよね、こうなってるよね」という話をするとき、視野が狭まっていないか考えないといけないなと思いました。

■私も、傲慢な「多数派気取り」のひとりでした

この「みんなこうだったよね」という思い込みの危険性は、低所得世帯の子どもを対象とした無料の塾を運営していて、私自身とても強く感じてきたことです。

私は、大学に行くのが当たり前と感じて高校までを過ごしてきました。両親とも大学に通っていたし、学校でも「大学に行く」ことを前提にして同級生たちとのコミュニケーションが成り立ってきました。

そういう家に育ったし、そういう家庭が多い地域だったし、進学校に入ったからです。もちろん、家に勉強机があることも、本棚があることも、毎日隙間時間を見つけて勉強をすることも、読書をすることも、当たり前のように感じていました。

社会人になってからは、自分のやりたいことを見つけて専門学校や短大に行く人もいるということは認識できましたし、上司の中には中卒という人もいましたが(最初の会社の社長が、中卒で野球をするために渡米したという人でした)、みんなやりたいことのためにそういう道を選んでいて、私はそこまで強い思いで大学を選んだかなぁなどと反省したりもしました。

また、私の周囲では大卒の人が9割くらいだったので、やっぱり大卒がオーソドックスだよね、と漠然と感じていました。

でも、この感覚はとても傲慢でした。

2019年度の大学・短大進学率は過去最高ですが、58.1%。全然9割には届きません。そして、この進学した約6割の人の中には、「大学に行くのが当たり前」ではない家庭に育って、とても努力をして、奨学金を借りて入学したという人たちもたくさんいるはずです。

進学しなかった人たちの中には、進学を望みながらも「うちは高卒で働くのが当たり前」という環境で育ち、進学を諦めた人たちもいるにちがいありません。そういう人たちが「いる」ということはどこかでわかっていながらも、20代までの私は、なかなか実態として感じることはできませんでした。

そして、30代になって、無料塾を開き、自分の当たり前が、いかに傲慢なものだったかを目の当たりにすることになります。

子どもたちの話を聞いて、寄り添ってみると、「大学行くのは当たり前」という感覚を持った人たちの傲慢さが、よくわかるのです。その当たり前の土俵に立てないこっちは何なんだ、頑張っても叶わないことを「自己責任」と言われる身にもなってみろ、と。

■「自分がいる環境が多数派」を疑ってみよう

冒頭のオンライン化の話に戻します。

柔軟に働き方を変えることができた会社、働き方が変わっても業績に支障を来すことがなかった会社というのは、多くあったと思います。

オンライン化がスムーズにできた企業にいる人たちは、「みんなオンライン化したのに、未だに出社させてる会社って、遅れてるよね」と思っているかもしれません。でも、それって、決して「みんな」ではないですよね。

ちなみに、東京商工会議所が6月、会員企業に調査した結果では、テレワーク実施率は67.3%(回答数1,111件)でした。東京23区の会社でも、7割に満たない実施率です。東京都が6月に従業員30人以上の都内企業を調べた結果では、57.8%(回答数2,034社)。大学・短大進学率と同じくらいですね。

さて、「みんなこうだよね」と思って大勢の人が物事を進めていると、どこかで不具合が出てくるものです。

学歴の話で言えば、高学歴の人たちが「普通は大学へ行くよね」という頭でいると、所得や家庭環境による格差はまったく埋まっていきません。そうじゃなく、進学を選べなかった人たちがどれだけいるのか、どういう思いでいるのかを知らないと、格差を埋めるための政策が作られていきません。また、社会の空気として、自己責任論が強まっていきます。

会社でも「今はこういうふうにするのが当たり前」という感覚で働いていると、そのうちきっと世の中のニーズを間違えてとらえることになっていくでしょうし、生きていく上で関わっていくさまざまな「働く人」たちの何人かを、無意識に傷つけることにもつながりかねません。

変化が激しい時期だからこそ、今自分が置かれる環境が当たり前のものだと思わずに、世の中の構図を俯瞰して見るということは、とても大切なことのように思えます。自分のためにも、自分の会社のためにも、ともに生きていく周囲の人たちのためにも……。


大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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