「高校を出たら働くつもり」という子どもたち
働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?
このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。
■大学進学は当たり前じゃない
私は都内で無料塾を運営しています。無料塾に来る生徒というのは、ご家庭の所得が少なく、成績を上げたい、高校に行きたいと思っても塾に通うことができないという事情を抱えています。今は高校進学率は98.8%となっており、無料塾に来る中学生の生徒は全員が高校進学を目指します。ただ、その先はバラバラです。
「奨学金を使って四大に行きたい」という子は少なく、「手に職をつけるために専門学校に進学したい」「バイト代を貯めて、資格をとれる短大か専門学校に行く」「進学するお金はないし奨学金もつらいから、高校を出たら働く」、そんな子が大半です。
本当は、学力を上げることで達成感を得たり、そこから新たな目標を見出してもらったり、学ぶ意欲をもっと高めてあげたり、そんなことができればよいのですが……。
中学生のうちは、コミュニケーションを通じて意欲を高めてもらうことは可能ですし、学力を上げることも可能です。これまでの生徒の中には、偏差値が20上がった子もいますし、30点代が普通だった科目で80点が最低ラインになったという子もいます。でも、高校進学をしたその後、「働く」ということが身近に迫ってきている中で、
「大学という選択肢もある」
ということを自分事としてしっかり考えることができる子は、少なくなってしまうのです。
お金がないから大学は無理、と言われ続けて来た子。高校を出たらお金を稼いで家計を助けてねと言われている子。「大学生って遊んでるだけで、学費はすごくかかるし、行く意味ないよね」と、偏ったイメージを植え付けられている子もいます。「働かざる者食うべからず」という意識の強い家庭で育ってきた子どもたちにとって、大学へ行くというのは、わがままなこと、後ろめたいことのよう思う子も多いのが現状です。
■大学進学=幸せとも限らない
この現実に、私たちスタッフ側は、はじめは戸惑います。
学習支援をボランティアでやろうという人は、たいてい大学を出ており、さらに大半が大学に行くことは当たり前の選択肢として存在していた環境で育ってきています。私もそのひとりです。そうして戸惑い、こんなことを言います。
「大学に行ったら、就職の選択肢も広がるし、大卒と高卒ではもらえるお給料が違うし、一生のうちに稼げる額も違うんだよ」
つまり、大学に行くことがベストな選択だ、という頭で話してしまうのです。私も最初はそうでしたし、本当にそう思っていました。でも、最近は少し違ってきています。
大学に行きさえすればいい会社に入れるのが当たり前だった時代は、今もう終わろうとしています。これについてはここでは詳しく書きませんが、必ずしも大学進学が老後までの安泰な生活を約束するものではなくなってきていると思うのです。さらに、大学に行くことが本当にその子の幸せなのかということも、考えなくてはならない点だと思っています。
そうしたことを踏まえて、高校生になった教え子が就職という選択肢を考え始めたとき、どのような声をかければいいのか、今とても頭を悩ませています。
■選択肢を見せるのは大人の役割
なぜ頭を悩ませるか。それは、働くということに対して、彼ら彼女らはまだ本当に情報が少なく、考え方も狭いからです。この仕事がやりたい、こんな大人になりたい、そういう思いを持って高卒就職を考えている子は、あまりいないのが現実です。
「バイト先が雇ってくれるっていうから、そこに就職する」
「学校が紹介してくれる製造業のどこかで働く」
「今バイトで働けてるわけだし、どこかあるでしょ」
働くという選択をしたものの、その後どうなりたいか、どんなことを成し遂げたいかということが、なかなか考えられないのです。
非正規雇用の親御さんを持つ子どもの場合だと、特に「時給で働く」「日給で働く」というのが、働くことを考えたときに真っ先に出てくるイメージです。これが悪いわけではありません。
子育てをしながら生活をする大人、自分の好きなことをする時間を確保したい大人には、時給や日給という働き方はとても便利です。やりたい仕事が非正規雇用中心になっていることもあります。ライフスタイルに合わせて仕事を選べばいいのです。
でも高校生は、これからまだ自由にライフスタイル自体をイメージし、デザインすることができます。ですから、もっと広い選択肢を見せてあげたいと思います。中学から高校に上がるときには、「ここへ行きたい!」と願って、頑張ることができた。あの手応えを、次に訪れる人生の岐路でもう一度味わってほしいのです。
「この高校に来たら、こういう就職先しかないし」
といって、いくつかの少ない選択肢の中から選ぶのではなく、もっと先を見据えてどんな生き方をしたいかを真剣に考えたうえで、人生の土台を組み立てるように就職先を選んでほしいと思うのです。
うちはお金がないからこれはできない、そこに端を発してさまざまなことを選択肢から除外して、狭い視野でしか自分の生き方を捉えられなくなっていく、そういう狭さから解放してあげることはできないのか。傲慢かもしれませんが、これが頭を悩ませるところです。
心ない大人たちは「そういう家に生まれたんだからしかたない」「人一倍努力しないといけないのに、してこなかったのだからしかたない」と言います。
果たしてそうなのでしょうか。
世の中にたくさんいる大人たちが、自分たちの仕事を「こんな素敵な仕事もあって、あなたたちも目指すことはできるんだよ」と見せることができたら。どんな働き方も否定せず見下さず、それでいて「あなたの生き方には、こういう仕事も合っていると思うし、そこにたどりつくためにはこういう方法がある」と示すことができたら。
もっと真剣に自分の生き方、自分の理想と向き合い、何かに挑戦しようとする気持ちを、子どもたちにもたせることはできるのではないでしょうか。それは大人の役目ではないでしょうか。
大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。
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