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老後の幸福感は、10代までの価値観で決まるらしい

働き方改革が進められる今。みなさんの働き方には、何か変化が起こっているでしょうか? そもそも、どんなふうに改革されれば、みなさんはもっと豊かな働き方ができると思いますか?

このコーナーでは、「働き方」に関するさまざまな話題を取り上げて、「幸せな働き方って何だろう?」ということを考えていきたいと思っています。

■子どもの頃に大切にしていたのは「興味・好奇心」か?「お金・安定」か?

ちょっと面白い研究を見つけてしまいました。

イギリスの科学誌「The Journal of Positive Psychology」オンライン版に掲載されたもので、論文のタイトルは「Interaction of adolescent aspirations and self-control on wellbeing in old age: Evidence from a six-decade longitudinal UK birth cohort」、訳すと「青年期(思春期)の価値意識や自制心と、高齢期の幸福感との相互作用:60年にわたる英国の母集団観察による根拠」という感じでしょうか。

「思春期の時点で抱いていた価値意識が高齢期の幸福感を予測する ~60年以上にわたる大規模コホート調査によるエビデンス~」(日本の研究.com)
https://research-er.jp/articles/view/93022

簡単にいうと、若い頃にどんな価値観を持っていたかや、欲求や誘惑に負けない自制心があったかが、高齢期の幸福感にどのように影響を及ぼしているか、というのを60年にわたって研究したものだそうです。

その結果、

①若い頃の自制心(自己コントロール力)は、成人後の経済的な成功には影響があるけれど、高齢期に人生を振り返ったときの満足感にはつながっていない。
②高齢期の満足感は、それよりも「何のために自己コントロールをするのかという動機」に影響される。
③その動機が、「興味や好奇心を大切にしたい」(内発的動機)だと高齢期の幸福感は高まる。
④でも、その動機が「金銭や安定した地位を大切にしたい」(外発的動機)だと、幸福感はめっちゃ下がる。

ということがわかったそうです。

さてみなさんは10代のころ、どんなことに人生の価値をおいていたでしょうか?

内発的動機は、興味や好奇心を大切にするということなので、たとえばたくさん映画を見たり本を読んだり、新しいことを経験したりすることを好んでいたかということですね。

外発的動機は金銭や安定した地位ということなので、10代だと、少しでもいい学歴を手に入れて大きな会社・安定した職業に就こうという考えを重視していたかということでしょうか。

経済的な安定性は後者のほうが高いですが、おじいちゃんおばあちゃんになったときには前者のほうが幸福感を得られるとのこと……。死ぬ間際には幸福な人生だったと思いたいけれど、でもこの不安定な時代には現実的に経済的安定を求めてはいたい。ちょっとモヤモヤした気持ちにもさせられますね。

■大人でも、身近な子どもと向き合えば価値観が変わるかも?

この研究内容を踏まえて考えてみると、私の場合は比較的、興味や好奇心を重視する価値観を持って過ごしてきたように思います。

そうでなければ、高校生でプロレスラーになりたいと筋トレしまくったり、大学に行くなら文学をやりたいと日本文学科を選んだりはしなかったのではないでしょうか(就職のことを1ミリも考えていませんでした!)。

ただ、せっかく大学に行くならちょっとは有名なところに行って有名な教授に教えてもらいたいなとは思っていた気もします。あと、大学に入ってからは「学歴があれば就職はラクだろう」と高をくくってもいました。無料塾を始めるまでは、「自分のやりたい仕事に就いて成果を出して、経済的に安定した生活を送るためには、学歴は重要!」だと信じてもいました。

だから若い頃は内発的動機が強めではありながらも、外発的動機も結構持っていたと思います。

さて、私は老後に幸せを感じることができるのでしょうか。

研究結果では、成人する前の価値観が高齢期の幸福度に反映されるとあります。要は若い頃に身についた価値観をそのまま引きずって大人になる人が圧倒的多数で、それが金や地位だったりすると経済的に安定はしても、老後に自分をひとりの「人間」として考えるとさみしいことになるよという話だと思います。それが実際に裏付けられましたよ、と。

でも、大人になってしまっていたら手遅れ、ではないような気もします。大人になった今からでも価値観は少しずつ変えられるのではないかなと思うのです。

実際、無料塾や子ども食堂にボランティアとして関わってみたことで、価値観が変わったという人も大勢います。とりわけ無料塾では、「正社員になるのがいいこと」「学歴を得られれば幸せになれる」という考えを持っていた人たちが、目の前の子どもの幸せについて考え始めると「どうも、そればかりではない気がする」と価値観の変容を迫られることが出てきます。

しかも、これからの時代に子どもが幸せになる教育とは……なんて考えてみるとですね。将来のお金と肩書きのために必死に偏差値を上げるための勉強をさせて、結果今はまだギリギリそれで大企業に入れるとしても、その後企業がつぶれたり買収されたり、組織内でやりがいも感じられず心がつぶれたりという今の世の中を考えれば、もっと違うことに価値をおいておいたほうがマシなのではないかと思えるようになるのです。

大人になってからでも価値観は変わる。そのきっかけとなるのは、「現代の子どもの幸せについて、真剣に向き合って考えてみる」ことかもしれません。

ただそのためには、ここ10〜20年で社会がどう変わってきたか、そして今後5〜10年でどう変わっていくかを俯瞰して見る力をつけるということも、必要かもしれません。自分の子ども時代の古い価値観に縛られて、学歴命!と我が子のお尻を叩く親というのも、まだいるにはいますから。

■子ども食堂でのバスハイクが叩かれたという話

ちなみに、数日前にこんな話を聞きました。

ある子ども食堂が、地元のバス会社さんのご厚意で子どもたちをバスハイクに連れて行くことになったとのこと。それに対して、「子ども食堂でのバスハイクは贅沢だ」「お金の使い方が間違っている」などといった意見が多数寄せられたのだそうで……。

こういう意見を寄せた人というのは、きっと老後になって人生を振り返ると、さみしい気持ちになるんだろうなと思います。

「楽しそう!」「そういう企画やってみたいな!」「子どもたちも楽しめるだろうな!」とポジティブな気持ちになったり好奇心を刺激されたりするのではなく、ただ「貧しい人は、そうでない人が楽しんでいるようなことをしてはいけない」というように、お金でしか人の行動基準を決められない人になってしまっていたら……。

これはもう一生誰かと自分を比べて「私はまだこんなに貧しい!」と恨みがましい気持ちで生きていかなくてはならないですよね。そう思いたくないから、自分より貧しい人を叩いて溜飲を下げる。むなしい生き方だと思います。

でもそういう人も、バスハイクに同行して、子どもたちと対等な人間として一度向き合ってみたら、少しずつ考え方が変わるかもしれませんね。

大西桃子
1980年生まれ。出版社2社、電子出版社1社の勤務を経て、2012年よりフリーのライター・編集者として活動。2014年より経済的に困難を抱える中学生を対象にした「無料塾」を立ち上げ、運営。

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