見出し画像

夫がパオパオチャンネルに泣いている―アラサーのモラトリアム

クリエイター・踊り手の「@小豆」が先日、YouTubeの個人チャンネルに「踊ってみた」動画をアップしていた。
それを見て、夫が突然泣き出した。
「あーずーかわいいよ…泣けてきた…」

わけがわからん。
確かにあーずー(@小豆の愛称)はかわいいし、私もあーずーのことは大好きだし、ソロ動画を上げてくれたことはめちゃくちゃに嬉しかったけど、泣くまでではない。
隣の夫を見てみると、普通に泣いている。
涙ぐんでるとかのレベルではない。普通に涙を流してぬぐっていた。
口あんぐり状態になりながらも理由を聞いてみると、どうやらそこには、並々ならぬ思いがあったようだった。

@小豆ちゃんは、ついこの6月まで「パオパオチャンネル」というYouTubeチャンネルで2人組のYouTuberとして活動していた。
相方は「ぶんけい」くん。以前は踊り手としても活動していた映像制作会社の経営者だ。
交際していない男女YouTuberというアイデンティティを活かし、いやらしさのないほのぼのした空気感で100万人以上のチャンネル登録者を獲得していた。
「もうお前ら付き合えよ」という愛のあるツッコミを受けながらアップされる、自然体な二人のゆるいいちゃいちゃコンテンツ。
私たち夫婦もドはまりしてしまい、朝、仕事のために家を出る前に、夜、夜食を食べながら、毎日のように夫婦で観ていた。

「パオパオチャンネル」が活動休止を発表したのは、6月末のことである。

理由は、「それぞれの夢・やりたいことに集中するため」だった。


@小豆は、クリエイターとして。

ぶんけいは、映像作家として、経営者として。

自分のやりたいこと・なりたい姿を見つけるために個人としての活動に集中すると決めた。

2人が話していたのはそういった経緯だったが、

きっとその裏には、なりたい自分と今の自分とのギャップや、年齢との葛藤や、相方への憧れや、コンプレックスとの闘いや、いろいろな思いがあったんじゃないかな、と、夫婦で話していた。

きっと、お互いに尊敬しあう気持ち、応援しあう気持ちも、大きな土台としてあったんだろうな。とかも話した。

話は変わるが、
モラトリアムというのはたいへんな労力を伴うものである。

人間たるもの、30歳にもなると
・自分のやりたいことを見つけてそれに向けてがんばっている
・自分のやりたいこととそれができていない状態との葛藤に折り合いをつけている
・やりたいことなんてないけど明日を食いつなぐためにがんばって働いている
・やりたいことについて考えたことなんてないし、これからも考えない
このあたりのどれかに当てはまるのではないかと思っている。
30歳にもなると、っていうか、別に何歳でもそうか。

「やりたいこと」を見つけたりそれを仕事にしたりすることが正しいかどうかという議論は置いておいて。
それが理想的だと思っている人の立場からすると、「やりたいこと」を見つけられていない状態はあまりにもストレスだ。

それを見つけるために、考えたり、行動したりすることは楽しいけれど、同時に、「まだ見つかっていない」という焦りや、見つけようとすることでの疲労も感じることになる。

しかも、なんとなく社会通念的に「オトナ」な気がする”30歳”という年齢が迫っている中で、それができていないとなると、そのストレスは数倍になる。

私は、いまそれと闘っている。

会社員をしながらライターを細々と始め、
何が書きたいのか、どんな書き手になりたいのか、いやそもそも自分は”ライター”になりたいのか、などと延々と考えている。そして、30も目前なのにこんなことをいつまでも考えていていいのだろうか、と、悩んでいる。

そして夫も、そのストレスと闘っている。

仕事はそれなりに楽しい、責任を伴う仕事も普通に任されるようになってきた、けれど、なんとなく自分はこのままでいいのか、もっとフィールドを広げなくていいのかという焦りもある、そんな中で、激務に追われて将来について考える暇もない。その間に年を重ねていくことに対するなんとなくの焦りと、それに物理的に向き合えない現状に悩んでいる。

@小豆は、これから、まっすぐに、そのストレスに向き合おうとしているのだ。
というか、もう向き合っている。

「パオパオチャンネル」の活動休止の動画を見て、
私たち夫婦が抱いた感慨は。
きっとそんな自分たちの悩みや葛藤を思い出しながら、
その悩みと葛藤に真っ向から対峙していこうとする@小豆への尊敬を感じながら、
その最大の理解者として「世界一応援してるよ」と素直に表現できるぶんけいへの畏敬のおぼえながら、
抱いたものだと思う。

冒頭で夫が泣いたのは、そういうわけだった。
「きっとあーずーは、表現者になりたいんだろうな」
ぼそっと言ってまた泣いていた。

@小豆は、昨日、個人チャンネルで再び動画をアップしている。
今度は、踊ってみたではなく、Vlog。
「自分がかわいいと思うものを紹介していきたい」と、これまで苦手だと言っていた動画編集を行いながら、自身の世界観を創出・表現しようとしている。

彼女がやりたいことをひとつずつ実現していく、大人のモラトリアムを応援しながら。
夫とわたしも、アラサーのモラトリアムを、またひとつずつ始めたい。


いただいたサポートは、もっと視界を広げるためのインプットに使わせていただきます。あと、普通にめっちゃ励みになります。