街はプラットホーム

 今住んでいる街は門前町から発展した商店街が東西に貫いており、その周縁のアーケードがないゾーンにもいろいろな店がある。もちろん移り変わりがあり、消えた店もあれば新しく出来た店もある。

 かつてマニアックなアダルトビデオショップだったところの跡地には、和風モダンな作りで昼飲みをさせてくれるカフェバーが出来た。家から至近というのと、昼から深夜まで飲ませてくれるという懐の深さについつい通っている。お惣菜的おつまみの盛り合わせプレートとハイボールで1000円というセットがお気に入り。チーズや蒲鉾、ピーナッツの燻製などもあり、ウイスキーでゆっくり飲める。

 その隣の以前理髪店だったところは、改装してケーキメインの喫茶店になった。ケーキカフェではなく、9時からモーニング、11時からランチをやるところが喫茶店という感じがしていい。ケーキセットはコーヒーとケーキで700円くらいから。ミニ・ソフトクリームがついてくる。夏にはとても心地いいお店。

 この2軒と道路を挟んだ向かい側にあったうどん屋は、開業当初は年中無休で朝から晩までやっていたが、朝営業を辞めて、ランチとナイトタイム営業になり、週2日休むようになったと思ったら、いつの間にか暫く休業となっていた。最初はメイド喫茶だったが、いつの間にかメイドカフェバー、メイドうどん屋と変遷を繰り返し、最後にはメイドがいなくなってうどん屋になっていた。

 もともとこの街は麺類の店が多い。うどん屋、蕎麦屋、ラーメン屋、パスタ屋。うどん屋でも讃岐うどん、大阪うどん、煮込みうどんを出す店がそれぞれあるし、ラーメン屋も昔ながらの中華そば屋、つけ麺屋、混ぜそば屋、パスタ屋も本格的なパスタの店からあんかけスパゲティの店まで豊富に取り揃えている。焼きそばが食べたければお好み焼き屋、パッタイが食べたければタイ料理屋、中国の米麺屋に至るまで揃っている。麺類を選ぶには困らない。もっとも私は自分で作ってしまう方だけど。

 商店街のメインストリートから一本入った裏路地にある、古びた小料理屋の並びの中で唯一営業していた寿司屋は、奥さんの具合が悪くなったらしく暫く休業中になったままだ。カウンター8席、4人がけテーブル2つの小さな店構えだが、安くて旨い寿司でずっと通っていた。居酒屋感覚で何品か刺身に盛ってもらい、いくらおろしとゲソの煮付けでビールを2本飲むと、あとは寿司を一人前握ってもらって、腹具合で巻物を追加したりで、それでも5000円を超えることはまずなかったと思う。

 この街に通うのではなく、住むようになってからは、地元の事情を知ることが増えた。決して耳障りのいい話ばかりではない。かつて通っていた定食屋が大家の一方的な事情で店を追い出されることになり、閉めてしまった話とか、新興のお店と以前からのお店のトラブルに纏わる話、いろんなことを知っていくことになる。自分と関わるのかどうかはわからない、でも、この街で生きていくためには知っておいたほうがいい、知ってしまったら、傍観しているだけではすまないかもしれない、滑ってまとわりつくような人間たちの関係。積み重なったそれらを養分として、町は歴史となっていく。

 今度、私はこの街に住みたいという若いひとたちのサポートに関わることになった。うまくいくかどうかはわからないし、思いもつかないトラブルが多くあるだろう。この街がすべてのひとにとって住みやすい街だとも断言できない。ただ、やってくるひとたちがこの街のことを知り、そして楽しんでくれればいいなと思う。プラットホームで列車を迎え入れ、乗客の乗り降りを支え、案内し、そして列車を送り出す駅員のように。この街の明るい部分も暗い部分も、受け入れて暮らしていくための一助が出来ればいい。そういうふうに思って、今日もどこかの居酒屋で飲むつもり。


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