日記 11・4

 観覧車には800円で乗ることが出来る。コスモクロック21。一人で乗りに来た。楽しくなりたかったから。この前買ったかわいい革靴を履いて。買ったばかりの革靴はまだ硬くて、足が少し痛む。夜の観覧車は、皆が乗る。帰り際に皆で観覧車に乗る。45分待ちの長蛇の列は、男女二人組か、家族連れか、友達数人で来ているかのどれか。ついこの間まであんなに暑かったのに、観覧車を待つ野ざらしの階段は、もうひどく寒い。お腹が冷えてしまって、げっぷが止まらない。こんなに寒いのに、皆たのしそうで、嬉しい。こんなに色んな人がいるのに、大体誰もが嬉しそうな顔をしているのは、ちょっとすごいと思う。当たり前と言えば、当たり前だけど。
 観覧車ってほんとうにでかい。ほんとうにでかくて、ピカピカしてて、無意味。生産性という言葉の対局にあるみたい。こういうただただでかくて、美しいもので世界がいっぱいになったら楽しいのに。
 ゆっくりと降りてきたゴンドラの扉を、スタッフの人がカシャンカシャンと手際よくロックを外して開けてくれる。僕は止まることなく動き続けるそのゴンドラに、少しふらつきながらゆっくりと乗り込んだ。
 ゴンドラの中では、録音された女性のガイド音声が流れていた。ランドマークタワーがあるとか、でかいホテルがあるとか、そういう話。ちょっと煩わしいかもしれない。光ってて、でかくて、きれいなものが窓の外にあるということが分かれば、僕にはそれで良かったのだから。骨側の窓を見ると、白い骨に緑、赤、青、ゆっくりと映ってく。釣られた物体に乗っている確かな重力の感じがずっとあって、なんだかふわふわしてる。ところどころに空いた網張りの空気穴から冷たい空気が吹き込んできて、寒い。
 こうして目や肌に映ったものを思い出して言葉にしようとしてみたけれど、うまく思い出せない。元々言葉じゃなかったものを書くのは、あまり得意じゃないみたい。僕は人見廣介のようにはなれないな。とにかくいい気分だったよ。
 15分で一周して、またもとの場所に戻ってきた。例によってスタッフの人がカシャンカシャンとロックを外した。躓かないようにぴょんと降りて、順路に従って観覧車のもとを去った。
 コスモワールドには統一感が無い。それはつまり、テーマ性とか無くて、何の脈絡もなく、雑に、十数年駆動しているピカチュウの乗り物があるってこと。子供の頃、デパートでも見た。まだ丸かった頃のピカチュウの乗り物。中では一番最初の『めざせポケモンマスター』がチープな音でジャカジャカ鳴ってた。ここに座ってたら、ずっとこのままでいられるかしら。

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