冬が嫌い。

 寒いじゃん。
 冬になれば、雪が降る。雪が降れば、雪かきをしなくちゃならなくなる。父親の機嫌が悪くなる。路面が凍って車の運転が難しくなる。父親の機嫌が悪くなる。ドストエフスキー登場人物は揃いも揃ってどいつもこいつも機嫌が悪い。寒いから。寒いから機嫌が悪い。
 僕はただ、自分なりに一生懸命雪かきしていたつもりだったんだけど、パパの虫のいどころが悪かったから、僕のやったことは余計なことになって、パパは僕の仕事をやり直した。こんなんなら最初から自分でやればよかった云々。そーすか。そんなこと言ったって雪は毎日降る。ママがパパのフォローに入って喧嘩してた。僕は翌日も両親に言われて雪かきする。やめときゃいーのに。
 冬はパパの車に乗りたくない。でもパパは自分が振り回してるの分かってるから償いにどっか連れてこうとする。路面が凍ってる。パパは自分の運転にすごい自信がある。パパの部屋には土屋圭一のドラテク本が何冊かある。でもパパがどんなに上手く運転したって、周りのクルマはトロトロおっかなびっくり走るしかない。日曜の公道にはバカの方が多いのだから、パパはまた少しずつ機嫌を乱していく。エキゾーストノートに隠しきれないフラストレーションが出てる。ぶろろんぶろろん。あーやだやだ。うんざりだな。
 寒いな。もうすぐ雪が降るよ。青森はもう降ってるだろ。東京は雪が積もらないね。いいところだね。でも家が冬向きの作りじゃないよね。寒いね。なんにも出来ないね。大丈夫?寒くない?あったかくしてね。風邪ひかないでね。鼻水出てるぜ。足の指が冷たいぜ。もっとちゃんとお布団を被って。さあ。あったかくしなよ。雪かきは雪の置き場所を間違えないようにね。アクセルは優しく踏んでね。冬は皆機嫌が悪いんだ。ドストエフスキーの小説みたいにね。気をつけなよ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?