真理_草加

王子様、草加雅人。

 草加雅人。仮面ライダーカイザに選ばれた王子様。テニス、乗馬、フェンシング。
 彼は王子様になろうとしていた。かつて自分を救ってくれた女の子・園田真理をお姫様に据えた自分のための王国を築きたかったのだ。
 けれども、『仮面ライダーファイズ』はおとぎ話ではない。王子様がどれだけ頑張ったところで、お姫様が「手に入る」ということはない。それが園田真理のような、かつていじめられっ子だった草加を救ってしまうような強い女の子ならば、尚更だ。王子様がお姫様にしたがる女の子というのは、往々にしてお姫様に向いていない。王子様はただ弱いだけのつまらない女の子を本当に好きになったりはしないからだ。

草加「俺は必ず真理を”手に入れて”みせる……。真理は、真理はなぁ!俺の母親になってくれるかもしれない女なんだ……俺を救ってくれるかもしれない女なんだ!」
『仮面ライダーファイズ』第23話「偽りの友情」
真理「私も戦う。皆が戦ってるなら、私も一緒に」
草加「真理。気持ちは分かるけど、君は今のままでいいんだ。今のままでいてほしい。ずっと、”普通の女の子”のままで」
『仮面ライダーファイズ』第22話「雅人の告白」

 草加にとって真理は手に入れるものでしかない。いじめられていた草加少年を救うような女の子がそうやすやすとモノになるはずなどないのに、草加はそれを無視して自らを王子様に設定し、真理を手に入れようとする。孤児である草加にとって母親が「手に入れるもの」になってしまっていることと、王子様的な「お姫様を手に入れる」という理屈がぐちゃぐちゃに絡まって本人もこの理屈を懐疑する余裕すらないのだろう。
 他の女性キャラが戦いに関わっていくなかで、真理だけを「普通の女の子」として隔離しようとするのは、彼の歪な支配欲と王子様欲求の発露だと言える。園田真理という女の子は少なくとも中型2輪以上の免許を持ち、バイクで一人旅をするような女の子なのだ。そんな彼女をお城の中に閉じ込めておくことがどうして出来るだろう。草加雅人は現実世界の園田真理を理解することを拒んでいる。自分の頭の中にいる、お姫様の園田真理と、現実の園田真理との間で苦しんでいる。

草加「はっきり言ってくれ、真理。君の正直な気持ちを、聞かせてほしい」
真理「……」
草加「何も言えない……俺が傷つくから……それが君の答えか?」
真理「ごめんなさい」
草加「木場のことを想ってるんだったら、無駄なことだぜ。ヤツと君とはうまくいかない。絶対にな!」
真理「何よそれ。関係ないでしょ」
草加「いや、俺は君のためを思って言ってるんだ。君を守りたいから……!」
真理「余計なお世話よ」
(草加、立ち去ろうとする真理を無理矢理掴んで引き止める)
草加「なぜわかってくれない!?君には俺が必要なんだ!俺に君が必要なように!」
真理「ちょっとやめてよ!放して!放してってば!」
『仮面ライダーファイズ』第23話「偽りの友情」

 草加雅人は「園田真理を救う(お姫様にする)」という身勝手なロールモデルを自身に課し、達成することによって、何より自分が救われようとしているのだ。

草加雅人とサイドカー

 草加の乗るバイク「サイドバッシャー」は仮面ライダーには珍しくサイドカー付きだ。2人で乗る前提のバイクだ。けれど彼は真理をバケモノとの戦いに巻き込むことを良しとしないため、サイドカーの中にはいつも変身ベルトが収まっている。もし草加のサイドカーに最初から最後までずっと真理が乗っていたなら、彼はもう少し真理と違う関係になれたのかもしれない。

草加のサイドカー

※草加のサイドカーにはいつも変身ベルトを収めたアタッシュケースが積まれている。そこには共に歩いてくれる誰かはいない。

ソロ「気付けよ、生身の女なんか乗せてるからマシンの機動性が落ちるんだ」
『忘却の旋律』第24話「それでも旅立つ君の朝」

 アニメ『忘却の旋律』ではサイドカー付きのバイクに生身の女の子・小夜子を乗せて走る主人公・ボッカと、自らの妄想から出てきた幽霊のような女の子を引き連れ、一人乗りのバイクで走るライバル・ソロとの戦いが描かれている。ボッカのサイドカーには生身の小夜子が乗っているから遅いのだが、小夜子が生身の、現実の「めんどうくさい女の子」だったことが後にボッカを助けることとなる。
 草加雅人のサイドバッシャーにはサイドカーが付いている。だが草加雅人の愛する園田真理とは、現実の彼女でなく草加の中で理想化されたお姫様としての彼女なのだ。幻想の園田真理、妄想の園田真理を見ているだけなのだ。その証拠に、草加はいつも大昔の真理の写真を持ち歩いている。「幼少期の自分をいじめから救ってくれた天使」たる園田真理の写真を。草加が手に入れたがっているのは彼が園田真理を通して見ている幻想のお姫様なのだ。だからサイドバッシャーはサイドカーというハンデを背負いながら、そこに生身の園田真理は存在せず、ただ虚しく重い鉄の塊が鎮座するのみである。

草加雅人の最期

「そういえば、あの少年の名前、忘れてしまったな。昔、私の姉さんがまだ幼い頃、川で溺れそうになったことがあってね。その時、姉さんを助けようとして川に飛び込んだ少年がいたんだ。」
「それで?」
「姉さんは運良く、近くにいた大人に助けられたんだけど、姉さんを助けようと川に飛び込んだ少年の方は流されてしまったんだ。」
「その子、死んじゃったの?」
「その少年の名前を、姉さんはすぐに忘れてしまって、冷たい人だなと思ったんだけど、今思い返そうとしてみたら、私もいつの間にか忘れてしまっている。」
「ねえ……ねえ。どうして今そんな話を?」
『少女革命ウテナ』 DUEL:39「いつか一緒に輝いて」

 草加雅人は誰にも看取られることなく死の瞬間を迎えた。白い灰となり消えた。勘違い王子様がお姫様に看取られることは決して無い。なぜなら、『仮面ライダーファイズ』はおとぎ話ではないから。

遠ざかる真理

『仮面ライダーファイズ』 第48話「雅人、散華」

死の間際、草加の視界から遠ざかっていく真理が見える。真理は「草加くん!」と必死で叫び、バケモノに襲われてピンチの草加を探しているのだが、草加は見つけてもらうことが出来ない。園田真理は草加雅人を見つけられないし、草加雅人は園田真理に見つけてもらえない。結局のところ草加と真理の関係とは、かくれんぼの成立しない寂しい関係なのだ。

巧 三原 海堂

『仮面ライダーファイズ』第49話「滅びゆく種」

 そして49話。草加が絶命した後で巧、三原、海堂が到着し、既に灰になった草加を発見するのだが、そこにもう真理はいない。いつのまにか場面から退場してしまっている。草加雅人はついに直接園田真理に看取ってもらうことなく、この物語は終わってしまうのだ。

 幻想のお姫様を愛し、現実の園田真理と幻想の園田真理を混同し、ついにはその混同に殉じてしまった草加雅人。
 嗚呼、だからこそ、君のその恋に恋する自己愛のために、草加雅人!僕は君を愛しましょう。幻想のお姫様のために殉死してしまう君を僕は愛しましょう。たとえ君にとって園田真理がメサイアストーリーを成立させるための道具に過ぎなくとも、君の読んでいる王子様とお姫様の物語が単なるおとぎ話に過ぎなくとも、君の真っ直ぐな自己愛を僕は愛しましょう。
 僕も君のように、変身ベルトを巻いて、戦って、戦って、灰になるまで戦って、死んでしまいたい。それこそが自己陶酔のバケモノたる王子様の本望というものでしょう?現実の女の子に忘れられたって、それがなんだというのでしょう?幻想の中で王子様はバケモノを殺した暁に、必ずお姫様から褒美のキスを賜るのです。君はそのキスのため、今日も仮面ライダーカイザとなって、バケモノを躊躇なく皆殺しにするのでしょう。
 僕たちはお姫様を棺に閉じ込めたまま、剥製のように朽ちることない凍りついた永久の唇より、キスを賜ることに致しましょう。

真理 草加


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