君のはじめての友達はだあれ?

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「あの木は昔死んだ父より 再婚した母より ながいこと僕を見ている。そうして僕に優しい顔をしたり おこったり 語りかけたりするんだ」
(大島弓子『裏庭の柵をこえて』)

 木でもいい。ぬいぐるみでもいい。タオルケットでもいい。石ころでも結構。犬は……どうだろう。僕は犬はダメだな。犬からはやっぱり、それなりにはっきりした、僕の外側の主張を感じてしまうよ。そういう意味じゃ、僕は犬って嫌いだな。猫はもっと嫌いだ。人間はもっともっと嫌いだ。
 僕は幼稚園に行くの大嫌いだったよ。だって、あそこには他人しかいないんだ。ご飯は作ってくれないし、おもちゃも買ってくれない。そういう自分と同じくらいの背丈したこわい奴らの巣窟。それが幼稚園だよ。野蛮なとこだ。
 初めての友達は、水夫の格好をしたくまが描かれたタオルケットだった。海の色。水夫の白。くまの茶。それがパパとママの外側にいる初めての何か。水夫のくまは何も言わない。そんなことは幼稚園の子供にだってわかる。サンタのからくりにだって、僕は随分早くに気づいてた。皆嘘つきだと思ってた。だから幼稚園なんか行きたくなかったんだ。
 いつもちゅうちゅうって音が出るまでタオルケットを吸ってたんだ。もう吸えるものなんかそれぐらいだったし。とにかくタオルケットは何も言わない。僕のされるがままだ。穴が開いた時はガムテープで塞いだ。ママに頼んで縫ってもらったってよかったんだけど、自分で治したかったのさ。針は怖いし、そもそも大人は裁縫道具なんか触らせてくれない。だからガムテープで塞いだ。不格好な茶色。くまのそれとは随分違う茶色。ガムテープで塞いだとこはもうちゅうちゅうとは吸えないけど、僕はそれで満足だった。

 去年の年末。僕は何年かぶりに実家に帰った。
「それ、荷物になるでしょう」
「え、ああ、まぁ、そうかもなァ」
 僕は数年ぶりに手にとったタオルケットを、一度入れたリュックから取り出した。別に、何か他に必要なものがあるわけではなかった。
 君のはじめての友達はだあれ?

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