2019のさよなら

 夏休みのドリルは答えを写したし、冬休みのドリルはまっさらのままだった。年賀状は出さなかった。だから僕の振り返り記事は年明けに出る。
 年末というのは集団幻覚だから、見ようとしなければ見えない。僕には訪ねることの出来る実家というものがあり、そこへ行けば誰かが勝手に年末の幻覚を見せてくれる。
 外は吹雪で、神社の周囲を除けば、誰も人がいない。午前中むき出しだったアスファルトは既に数センチの雪が積もっており、どこまでが道で、どこからが側溝なのか分からなくなっている。全ての境目が曖昧になって、線という線がぼやけている。あらゆる虚構が取り外された線の無い場所について想う(尤も僕がこうして何らかの解釈を与えることが出来る以上、そこには線引があり、虚構がある)。
 僕を苦しめるものが虚構なら、僕を救い得るのもまた虚構でしかないということに僕はなんとなく気づいている。でも僕は、虚構の外側、境目の存在しないカオス、名状不可能な何かに対して、強い憧れがある。その憧れが成就するということは、自殺が成立するということだ。虚構の終わりに辿り着くよりもよりも先に、世界の終わりに辿り着いてしまうのだから。雪が積もったままにしておけば、僕はいずれ下敷きになって死ぬ。だから僕は明日起きて雪に埋もれた側溝を復興する。生命活動を更新しなければ、こうしてあれこれとこねくり回すことが不可能になるリスクが高いから。僕はあれこれとこねくり回すことについて、それなりに気に入っているから、しばらくは確実にそれが享受出来る努力をすることだろう。

今年はアニメをいっぱいみました。えらい。

選ぶ、選ばれるということについて

・忘却の旋律
「君は勇者に選ばれた」「ロボットのパイロットに選ばれた」「君は」「君だけが」……「選ばれた」ということはいつも僕をドキドキさせるけれど、最終的な手綱を握っているのは誰なのか、ということが問題になる。「選ばれた」ということは、まだ手綱を握っていないのに、何か、ただそれだけで全部うまくいってしまうような、そんな甘美な響きがある。或いは、「選んだ」ということは、まだその意味が分からないうちから、なんとなく手綱を握っているような浮遊感がある。「選ばれた」「選んだ」というだけではだめで、世界を貫く矢には、もっと何かが必要なのだ。例えば、弓を引き絞るための、握力とか。バイクに乗る時、ぎゅっと腿でタンクを挟み込むための、握力とか。

・スタードライバー 輝きのタクト
昔、「主人公にはなれないもんなあ」と誰かが言ったことを、僕はずっと覚えていて、それが何を意味するのかずっと考えている。
ツナシ・タクトという少年は、分かりやすい真っ直ぐな主人公体質のキャラクターとして登場するのだけれど、最初からそうではなかったというところがスゴい。ツナシ・タクトは自分の運命を自分で選ばないということもかつて出来たのだけれど、そうすることで何かから疎外されていることに気づいてしまった。メランコリックに「僕は主人公にはなれないもんなあ」とヘラヘラやっているばかりでは絶対に分からないことがこの世界には存在している。むしろ「主人公になれない=自分の運命の手綱を自分で握っていない」と自覚してしまった時点で、道は2つしかない。自分でバットを振るか。振らないか。

・フリクリ
・トップをねらえ2!
・美少女戦士セーラームーンS『運命のきずな! ウラヌスの遠い日』
・キャプテン・アース
・桜蘭高校ホスト部
・文豪ストレイドッグス
・文豪ストレイドッグスDEAD APPELE

人間のフリをしている、ということについて

・孤島の鬼
乱歩の小説の方。世間的に表立って「バケモノ」と呼ばれてしまう異形の人達が割とワイワイ楽しい結末で、常人の形をしながら自身がバケモノであるという自己認識から逃れられなかった諸戸の対比が面白い。これはちょっとすごいよ。

・プロメア
正直どこから手をつければいいのか分からない。ただ僕にとってリオ・フォーティアがめちゃくちゃムカつくということだけは分かる。リオ・フォーティアは余りにも無邪気に自らの加害性を肯定することが出来る。リオ・フォーティアはプロメアと円満に別れている。ずるい。クレイ・フォーサイトはどうやってプロメアにバイバイすりゃいーのよ!?というところでまだ整理がついていないので保留。

・CROSS†CHANNEL
少年漫画的なセクハラ描写の使い方を工夫しようとしているけどそれが上手くいってないのがムカつく。黒須太一の加害性ないし加害者としての自意識と絡めてオシャレな感じにしたいんだろうなというのは分かるけど上手くはいってない。でも好き。「人間のフリ」というこの項の趣旨を端的に表したセリフを引用しておく。

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・輪るピングドラム
「選ぶ・選ばれる」の項と迷った。でもピングドラムの「選ぶ・選ばれる」は自己実現の文脈よりももっともっと原初的な「世界そのものに生きていてもいいと言ってもらえるか」というところにあるから、アウトサイダーが人間のフリ=マトモなフリをして世界に選ばれているフリをしているという意味でこっちの箱に入っている。これはユリ熊でもさらざんまいでも一貫してやろうとしていることで、幾原邦彦は榎戸洋司がやろうとしている「選ぶ・選ばれる」とはまた別の「選ぶ・選ばれる」をやろうとしている、という感じがある。
あと男が歌っていたプロテスト・ソングであるところのARBの曲を、作中の女の子アイドルグループが歌って自分のものにしているのが本当に良い。ただでさえ政治的な文脈を含む歌を歌うことは忌避されることなのに、それを女の子のアイドルグループが歌っているという構図。そしてトリプルHのメンバーは既存の社会システムの故に引き裂かれてしまった「世界を革命するしかない」人達なのだ……。これがどういうことか分かるか?俺は今泣いているんだ。

・仮面ライダーファイズ
「選ぶ・選ばれる」と迷った。というのも乾巧はバケモノという「生きていてもいい人間」に選ばれなかった存在であると同時に、仮面ライダーという正義のヒーローにも選ばれているという二重に選ばれたキャラクターだからだ。ここに真理や啓太郎との疑似家族に「(生きていてもいいと)選ばれている」ということまで入ってくるので本当に分厚い。ファイズについて語りたいことはいくらでもあるが、どこから話していいのかよくわからない。時間をかけて手を付けていくことになるかもしれない。

人身御供について
・アキハバラ電脳組
最終局面でひばり達に「大人の仕掛けた人身御供に乗らない」という選択をさせているところがめちゃくちゃ良い。はっきり言って色々と穴が多い話で、パタpiが王子様の手から返還される(ひばり達が自分で取り戻すわけではない)というところでモヤモヤしたりもしたのだけれど、「大人の人身御供に乗らない」というただその一点だけで良い。実質天気の子。
劇場版もそのあたりちゃんと意識した上でやってて楽しい。
あと王子様関連の話。
ウテナは王子様をバッサリ裁いてしまうのだけれど、アキ電のそれは少し優しい。


「なあ、王子様ってなんなのかな」
「王子様は、お姫様がいるから王子様なのかもですね」
「クレインが王子様やったら、誰がお姫様なんや?ひばりかあ?」
「ひばりは…ひばりだよね」


ウテナは王子様の欺瞞を裁いてしまったせいで、王子様を好きなままでいる誰かまではカバー出来なかったのだけれど、アキ電は王子様に憧れている花小金井ひばりに対して「ひばりがひばりならいいんじゃない」という所に落とし込んでいるのが優しい。確かに王子様に恋するのはちょっと危ないけれど、ダメってわけじゃないのだ。赤い靴を拒絶する覚悟があるならね。

・天気の子
話自体はもうとっくの昔に他の色んなクリエイターがやってるから今更かよという感じ。オタクは黙って忘却とスタドラを見ろ。新海誠がやったということ、色んな人間が見たということに価値があると思っている。
俺たちのセカイ系が帰ってきたとか言ってるオタクは反省しろ。そもそもイリヤの空の時点で人身御供を綺麗事でラッピングして許されようとしていることのグロテスクさは既に語られているし、浅羽直之は「マモレナカッタ……」なんてメランコリックに酔ったりはしていない。やれることをやっている。浅羽直之は確かに引き金を引いている。浅羽直之はメロスの戦士だし、銀河美少年……にはちょっと届かないかもしれないが、ライブラスターのトリガーはちゃんと引ける。当たらないけれど。だがそれは穂高だって同じだ。浅羽直之は森嶋帆高に負けてない。ボッカにもタクトにもダイチにも負けてるかもしれないけど森嶋帆高には負けてない。日本に住む「普通の子供」として、これ以上は無いんだ。

 記憶にない叫びを上げながら、浅羽はトリガーを絞った。
 そのとき、榎本は目を薄く閉じていた。
 夕暮れと同じ色の銃火が弾け、重厚が跳ね上がって瞬く間に弾が尽きた。射線は榎本の右半身を舐めた。

 オタクに対する呪詛は無限に湧いてくるけれど、それでも僕は『天気の子』に出会えたことを愛する。本当に。

 今年は榎戸洋司イヤーでした。今まで見たくても見えなかったことが、この人の見せてくれる宇宙のおかけで、いっぱい見ることが出来た。でも本当のところ、僕は僕の力でそこに辿り着きたかったのです。自分一人の力でそこに辿り着くということは不可能だったと思います。それでも僕は、どうしても悔しいという気持ちが拭えないのです。そもそも僕は、榎戸洋司がやろうとしていることを完璧に理解などしていないし、それはあり得ないのだ。その隔たりが強く強く意識され、それが余りにも切なく、悔しくて仕方がない。一生かかっても、榎戸洋司の背中さえ僕には見えないのかもしれない。しばらくはこのことを頭の片隅に置いて過ごすことになる。いつか疲れて忘れるまでは。

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