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絵本導入期の5要素【おと】

私の講演会の中で必ずお伝えしているのが
「待ちよみ」
「絵本導入期の5要素」
この2つの考え方です。
この2つの言葉はいずれも私が提唱しているオリジナルの言葉です。

今回は絵本導入期の5要素について、いつも話している内容をまとめてみます。

【絵本導入期とは?】
親がわが子に、「うちの子に絵本を読みたいな」そんなふうに思って絵本を読み始めるときを、絵本導入期といいます。
私はこの導入期はできるだけ早ければいい、赤ちゃんのうちに絵本のある生活を家庭に取り入れて欲しいと思ってます。
ですが、パパやママが絵本の魅力を知り、読み聞かせをしたいという気持ちを持つのが、例えば子どもが5歳になってからなら、5歳が導入期です。
5歳のお子さんでも、まずは導入期の絵本を読んであげましょう。

【5要素とは?】
絵本導入期のお子さんにとって、発達の面からも、この5つの要素が含まれた絵本を選ぶと、無理なく、心地よく、絵本の読み聞かせを楽しむことができます。
1つの作品に全ての要素が含まれているものもあれば、複数個合わさったもの、1つの要素のみのものもあります。
5つの要素は以下のとおりです。

①おと
②もの
③あそび
④せいかつ
⑤くりかえし

【おと】
おと=こえ
声に出して読んでもらうと気持ちがいい。
それを、耳心地がいいとも言います。
おと=耳心地の良さ
と捉えてください。

書店や図書館で絵本を選ぶときに、まずは絵に目がいきますよね。
もちろんその選び方でいいのです。
そこに、もうひとアクション、読んでみて
「読み心地」がいいのかを試してみるといいと思います。
耳心地のいい絵本は読んでいても気持ちがいいのです。

当たり前のことですが、子どもは耳心地の良いことを好みます。
だから、聞いて気持ちのいい言葉やリズミカルな文章を好みます。

私がいつも講演会で例にあげる絵本
「ぽんちんぱん」
柿木原昌弘 作
福音館書店

ぽん ちん ぱん
「ぽ」「ぱ」
どちらも両唇音で破裂音で子どもの耳がとらえやすく好む音です。
(マ行も両唇音、バ行も両唇音で破裂音です)
加えて、「ぽんちんぱん」と続けて、言葉として読んでみると、誰が読んでもリズムのある楽しい言葉になるのです。
「誰が読んでも」というのがポイントで、読み聞かせの技量などは全く関係ありません。

聞いて気持ちのいい言葉は、脳に残りやすく、それが語彙となって蓄積されていくのです。
私は良く講演会で、「ぽんちんぱん」を読み、聞いているママやパパに、「今日の夜、布団に入って寝る前に、ぽんちんぱんって言葉がなんでか頭にうかんで離れないですよ〜」なんて話をするのですが、
その感覚こそ、言葉が蓄えられている証です。

絵本の読み聞かせは子どもの語彙の量を増やすのに効果的だ。と聞いた親が、仕切りに絵本の中のものを指差して言葉を覚えさせようとしているのを何度も見かけますが、そんな事はしなくてもいいのです。

「ぽんちんぱん」が言葉として蓄えられることに何の意味があるのか?
そんな意味のない言葉を聞かせたり覚えさせたりするくらいなら、モノの名前をたくさん聞かせたら良いのでは?と考える人もいるようです。

実際、絵のカードを見せながら言葉を覚えさせると子どもはとても多くのモノを覚えて言葉を口にします。
それはそれで意味のあることでしょうから、教育として取り入れている家庭があるなら、それはそれで良いでしょう。

私は、絵本の読み聞かせによる心地よい言葉かけをする意味は、
「人の声を聞くのは気持ちがいい」と子どもに十分感じさせてあげることだと思います。
「人の声を聞いていたい」という気持ちは、言い換えれば、語りかけや言葉かけに能動的に耳を傾けるということです。
その習慣が人の話を聞く力となります。

「人の話をちゃんと聞きなさい」という躾のことばを
何回も繰り返して言うくらいなら、その分、子どもが聞いていたいと感じる言葉かけをたくさんしてあげればいいのです。
「あなたは何度言ったら人の言うことをちゃんと聞けるの?」と厳しく躾を繰り返していれば、大概の子どもはある程度言うことを聞きます。
これで育まれるのは「人の話を聞く態度」であって、
人の話を能動的に聞こうとする「聞く耳」が育っているのとはまた違います。

人の話に耳を傾けられるということは、共感・思いやりの気持ちを持つことに欠かせません。
自分とは違う考えや思いを持つ人の話を聞けるということがどれだけ大切なことなのかは皆さん理解されていると思います。
学びの基礎も話を聞く力によるところが大きいでしょう。

その第一歩が、絵本導入期の【おと】の絵本を読むことで、叶うのです。
赤ちゃんや小さなお子さんに話すこと、語りかけることが苦手な人も、わが家は子どもとの会話が少ないのではないかと悩む人も、絵本を読むことはとても簡単にできます。

絵本導入期にふさわしい絵本は、作り手側が小さな子の聞きたいという気持ちに寄り添って作ってありますから、読み手であるパパやママは気負うことなく、絵本に書いてあるとおり、わが子に声をかけるように読めばいいだけです。

自分にとって心地よい言葉をかけてくれた人を子どもは信頼します。
それが、パパやママ、身近な人であることが言葉獲得の成長の基礎です。

あともう一つ。
言葉には使われ方があります。どこでどんなふうに使われている言葉なのかを同時に子どもが知るのに、絵本を読んであげることはとても良いことです。
まだ知らない言葉や聞いたことのない言葉も、そこにある絵が助けてくれるので子どもは無理なく理解をすることができます。
これは子どもの性格によるところも大きいのですが、絵本を幼い頃から多く読んでもらえる環境にいた子は、文中に知らない言葉が出てきても「それってどういう意味?何?」などと質問してくることはほとんどありません。
読んでもらいながら、なんとなくこんなことか。という捉え方で絵本の世界にとどまる楽しみが身についているからです。
逆に言えば、幼い頃に親がいちいち本の中のことを説明したり質問したりする読み方をしていれば、子どもはそのような聞き方しかできなくなるのです。

使われ方には、意味だけでなくニュアンス、表現といったものも含まれます。
試しに「ぽんちんぱん」を読んでみてください。
多くの人は、弾むようなリズムで明るい声で読みます。
そういう楽しい言葉だからです。
読んでもらった子どもは、その「楽しく明るい」表現であることも同時に感じています。

長く絵本を読んであげる習慣がある家庭なら、様々な感情や考えが表現されている作品を親から子どもに読み伝えることができます。
そこには、作品が子どもに伝えるメッセージとともに、読んでいる親の感情も乗せることになります。
身近な親であるからこそ、子どもはその感情に敏感です。
人の心は、そばにいる身近な人の心に触れることで育つと私は思います。
本を仲立ちに、感情が行き交う読み聞かせは心を育てることにきっといいと信じています。

「ぽんちんぱん」に代表される赤ちゃん絵本を読んであげることが、その第一歩です。

絵本導入期に、【おと】=【声】の魅力を
たっぷり子どもに届けてあげましょう。
それは、紛れもなく、親から子への愛情です。

2020.3.4
待ちよみ絵本講師 内田早苗

【もの】【あそび】【せいかつ】【くりかえし】
についても綴ります。



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