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エストニアの伝統手工芸を学びに〜Craft Camp in Estonia 2018 @Olustvere(後編)

前編はこちら

CraftCamp中のスケジュールは、2daysのクラス2日間、1dayのクラス×2日間、フィールドトリップ1日、そして初日のオリエンテーションと最終日のエキシビジョン。その他任意参加で、夜に希望者で集まってお酒など飲みながらそれぞれ好きな手芸をする交流の時間や、エストニアの手工芸や歴史文化を紹介するプレゼンテーションの時間、クラフトフェア、映画上映会などのレクリエーション、最終日の前夜にはマナーハウスでの食事会や現地ミュージシャンによる演奏など、クラフトに留まらずエストニアの文化を五感で体感できるような機会が多くあります。

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長いようであっという間の1週間。7月初旬、夏至過ぎの素晴らしい季節で、からっとした空気に過ごしやすい気温、夜は白夜でいつまでも薄明るく心地よく。この気候や環境だけでなく、このCraftCampやクラフトを愛する主催者・参加者のみなさんの醸し出す雰囲気の心地よさも魅力のひとつ。年齢や国を越えて仲良くなり、またリピートしたくなります。


授業② Estonian Folk Glass Beads Making

1dayコースのひとつが、エストニア伝統衣装の装身具などに使われる硝子ビーズづくり。Mulgi刺繍の建物とは異なる教室で、醸造施設の裏の階段を上ったところにある、可愛らしい配色の教室。

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この渦巻いている青いビーズが特徴的。かつて硝子ビーズのアクセサリーを多く身に纏っていることがステータスだったそう。

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この硝子棒をとかしながら、トンボ玉づくりのような感じでビーズをつくります。

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先生はとっても若くて美人!でも落ち着いた雰囲気で丁寧に教えてくれます。サングラスをしているのは、光や破片から目を守るため。

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元醸造所ということもあり、古い酒瓶や昔酒造りをしていた時の写真、機材などの展示も。

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出来上がったビーズはこんな感じ。あの渦巻きを巻くためにはまず硝子棒を熱して細く伸ばして、それをベースのビーズに溶かしながら巻き付けていくのですが、先生はさーっと上手にやっていて簡単そうにみえるけれどなかなか思うように上手く巻けず。

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授業③ Birch Bark Weaving

もうひとつの1dayコースは、白樺の皮編み。先生はいかにも物語にでてきそうな、木こりのような雰囲気のAndresとその奥さんImbi。奥さんが英語でアシスタントしてくれます。

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これは先生の作品。使い込まれた白樺の皮はしっとり落ち着いた肌触りで、身近に置いておきたくなるような質感。

2009年以前、エストニアでは白樺の皮織りの技術は殆どなくなりかけており、Andresはフィンランド、カレリアなど他の地域のものを参考に独自に学び始めたそう。

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6月〜7月頭が白樺皮の収穫シーズン。縦に切り込みを入れ同じ幅でぐるっと一周剥いだものを、同じ幅に切りそろえて使います。(先生はパスタマシーンを使うと便利!と言っていて納得)

エストニアでは、白樺はよく見かける籠や入れ物などの道具類の他、蒸留してオイルを取り出し、石鹸やバームなど薬用としても使っています。

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まず始めに作るのが、昔の子どものおもちゃとしてもメジャーである、シークレットボックス。取り出し口が分かりづらくなっており、中に何か小物を入れて取り出せるかどうか試すあそびに使われるみたい。剥いた白樺の皮の内側の面を外側にして組み立ててゆきます。折り目が付きづらい時には上記に当てます。

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そしていよいよ小瓶編み。細く同じ幅に切りそろえた白樺の皮を平織りのように並べ、底の方から編み立ち上げてゆきます。

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小さなピンチが大活躍!これを使うと使わないとではだいぶやりやすさと仕上がりが異なります。

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完成ー!編み方次第で様々な形状が生まれるのがおもしろい。


Field Trip to Setomaa

3日目には、エストニア手工芸に縁のある地へのフィールドトリップへ。これも4カ所行き先があって事前申込みの際に希望地を選べるのですが、わたしはロシアとの国境近く、エストニアの中でも独自の歴史文化を紡いできた(言語もかなり違うらしい)Seto地方へのフィールドトリップを希望。少し遠方になるのでいつもより早めの朝食を食べ、バスに乗って出発。

道中、ロシアとの国境が歪に引かれている所を通る道路を通過するということで、この道ではバスで通過するのはOKだけど降りて外へでることはできない(=ロシア国土へ違法入国することになるため)という地点を通過しました。バスの窓からちらっと見えたこのポールは、その目印。

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Seto地方はこのあたり。エストニアの東南、ロシアと国境を接する地域です。

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こちらはSeto地方特有の、深紅の糸で施された刺繍。縁の鮮やかなかぎ編みも特徴的です。

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デンマークの伝統刺繍でも習った、ホワイトワークの施されたハンカチーフ。白いリネンの生地に白いリネンの糸で刺繍を施します。生地を切って穴を開け、その周りを縢ってできた窓の内側に装飾を施す、繊細で美しい刺繍。

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続いては、エストニアの毛糸やそれで編まれた様々なミトンに会いに。

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色とりどり、様々なモチーフの五本指のミトンたち。数年前まだ編み物初心者の頃、指が分かれていないミトンを初めて編んでみたけれど、5本指分けて編むのはとっても大変そう。。CCに参加しているマダムたちは皆編み物上手で、さくさくと編んでゆきます。幼少期からの積み重ねが違います、尊敬。

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そして、ランチはMaagõkõnõ(エストニア語でポピー)という名前のオーガニックレストランへ。

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左手がレストランのマダム、右手が今回の旅のアテンドをしてくださっているバスガイドさん。二人ともお洒落〜

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屋内だけどテラスな席からの眺め。気持ちいい〜

窓際のテーブルには、食後にいただく珈琲のための古いカップが色々。昔のプリントが施された、少し昭和レトロ風にも感じられる素朴な可愛いカップたち。

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食事はこんな感じ。野菜中心でハーブが上手に使われていてどれも美味◎

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自家製の黒パンとディルバターも素晴らしく美味しかったです。お皿も可愛い。

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デザートと珈琲タイムには、アコーディオンのような楽器で奏でられるSeto地方の古い音楽を生演奏を聴きながら。民族音楽にも興味のある私にとってはとても幸せなひと時。

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続いてはSaatse Muuseumへ。民族博物館のようなところで、伝統衣装の他昔の暮らしの道具や設備を見ることができます。

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昔ながらの薪火ストーブキッチン。憧れ。

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学校の教科書や授業の道具。教科書もキリル文字、どんな内容の授業が行われていたのでしょうか。

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素朴な焼き物たち。美しいアースカラー。

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Seto地方特有の深紅の刺繍が施された伝統衣装。

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脱穀機など、古い農機具。

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ひまわり?!

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エストニア自体が旧ソ連支配下の時代も長くロシア文化の影響を少なからず受けていますが、ここSeto地方は目と鼻の先がロシアなのでより色濃く影響を受けつつ、その中で独自の言語や文化、音楽なども育まれてきました。社会全体でみればソ連がエストニアを支配しているという構造があり厳格なボーダーラインがありましたが、それぞれ国境ちかくに暮らすエストニア人とロシア人の人たち同士は仲良く交流もあり、闘いもなく互いに色々なものや文化を交換していたとのこと。

Seto地方特有の口承音楽セトレイロは、女性と男性とで分かれて、その場で言葉を考えながら歌を繋ぎ10分間ほど歌い続けるそう。現在はSeto語を話せる人やセトレイロを歌える人の数などは減少し、Setoの文化継承は課題もかかえているが、Seto Folk Festivalの開催など文化振興事業も行われているそう。

そしてロシアとのボーダー地点再び。みんなで記念撮影。

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その次には、ロシア正教会の教会へ。

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煌びやかで独特の内装。教会内の空気にも独特なものが感じられました。旧ソ連支配下時代は公共の場でSeto語を喋れなかったので、密かに家の中や教会で使われていたそう。

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旅の最後には、エストニアのSeto地方の伝統的な暮らしを守りながら自らの手で伝統衣装を作りつつ暮らしているKalaさんのアトリエ的なお家へ。

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こちらのKalaさんは、この家にある布物は生地を織ること、紐を織ること、レースを編むことから全て自らの手で作っているとのこと。どの手仕事も多くの時間と手間暇、確かな技術を費やすものだと思うけれど、どれも美しくそれをナチュラルに身に纏っているKalaさんは本当に素敵な女性でした。

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Seto地方の伝統衣装の装身具(アクセサリー)は、シルバーのボウルのようなものや古いコインをたくさん使ったものなど、ずっしりと重そうな装身具。肩凝りそう・・・

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キッチン。干し魚がぶら下がっています。

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長く濃密な一日でしたが、CCに参加していなかったら決して訪れることの出来なかった場所ばかりで、とても貴重で充実した素晴らしい一日でした。

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Night Program

毎日19〜20時の夕食の後、毎晩任意参加の何かしらのプログラムがあります。

こちらは、アートフェア。刺繍や編み物・織物等の手づくりの作品や、クラフト関係の本、素材などを実際に手に取って見ながら出店者の方(主にはCCの先生やその仲間たち)とお話しながら手に取って見たり、購入することもできます。

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草木染めの細いウールの糸。Mulgi刺繍用に購入。

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エストニアのミトンのモチーフがあしらわれた魚の編みぐるみたち。ちょっとシュールさもありつつ、何ともいえない可愛さ。

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映画上映会の夜。こちらは、「The Little Cormade」という、2018年に公開されたばかりのエストニア映画。旧ソ連支配下の時代、6才のLeeloという女の子が主人公の物語で、「すぐ戻るからね」という言葉を残してシベリアの刑務所へ連行されてしまった教師の母親の言葉を胸に、同じく教師の父親との暮らしやその中での心の葛藤などを描いた映画。静謐な描写の中、Leeloが森の木々に辛い胸の内を打ち明け相談しにゆく場面が印象的でした。

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こちらは、各地域の伝統衣装のプレゼンテーションの夜。

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散歩道

朝や休憩時間など、さまざまな時間に敷地内を散歩。木漏れ日が本当に美しく、ゆっくり深呼吸。感覚がひらいてゆきます

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天気がよく気持ちよかったので、森の中で刺繍。こちらは、個人的に以前から作っている、珈琲ネルの古布に植物や野菜のモチーフを刺繍した布製栞。

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目の前に咲いているカモミールみたいな花も刺繍。

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Dinner at Manor House

最終日前夜には、マナーハウスでのディナー。皆普段よりちょっとだけおめかしして参加。

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美しい佇まいの建築。

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皆で乾杯してディナーを楽しんだ後、主催者代表のAve より今年の参加者の内訳(どこの国から何人参加していたか)など発表があり、2014年のCC開始から連続や複数回参加している人たちなどをささやかに表彰。第1回目から毎年連続参加している方も数名いらっしゃいました!

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ミュージシャン Malva & Priks による、バグパイプとドラムのデュオライブ。フォークミュージックを現代風にアレンジしつつ、グルーヴィーで渋めかっこいいライブでした。

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音楽に合わせてみんなでダンス。

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デザートタイム。CraftCamp特製ビッグケーキ!

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終わってしまうのが名残惜しいけれど、本当に楽しく充実した日々でした。宿泊棟から見えるこの夕焼け空も見納め。

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Exhibition

最終日の朝には、皆の作品を並べてエキシビジョン。同じコースに参加していたみなさんも、他のコースに参加していたみなさんも、どんな作品に仕上がったのか楽しみ◎

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私の作品。他の人の作品と見比べると色使いがわたしっぽく、渋め。

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同じMulgi刺繍でも人によって全然ちがう仕上がりに。

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草木染めのコースやKihnu島の伝統模様ニットのコースに参加した方の作品。次回参加するときにはこの草木染めのコースはぜひ参加してみたい!と思いながら鑑賞。

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藍染めやHaapsalu地方のレース編みの作品。

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Gold Embroidery、シルバーアクセサリー、カード織りの紐の作品。この美しい昆虫模様が遇われた金糸刺繍にも興味津々。

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すみえさんの織物。さすが先生、美しい仕上がり。

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伝統衣装の織りベルト。

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最後には、みんな一人ひとり感想を述べて、Aveより一人ひとり名前が呼ばれて修了証の授与。

毎年参加している人も多いので、「ありがとう、また来年ね!」という感じでお別れして、Tallinnへバスで向かう人たちやそれぞれの経路で帰路に。

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文中にも何度も書いていますが、このCraftCampのウェルカムでアットホームな雰囲気は本当に心地よく、手を動かしながら互いの国やそれぞれの暮らしや仕事の話、参加のきっかけなど話しながら仲良くなって、エストニアの自然や歴史文化の中に浸って。ぐっとエストニアが近くまた大好きになってしまいました。来年も参加するぞ!と小さく心に決めて。


もしエストニアのクラフト・伝統手工芸やこの記事を読んでCraftCampへの参加に興味をもったら、英語ですがぜひCraftCampのページを読んでみてください。まだ落ち着かない状況下でもあり、遠く離れたエストニアのコースに参加することにハードルもあるかもしれませんが、本当に素晴らしい体験がまっているので是非参加してみてほしいです◎

2020・2021年は開催が見送られましたが、2022年は7/10〜16で開催される予定で、今年の年末2021年12月より申込み受け付け開始の予定です。もし何かご質問やご相談があればお気軽に連絡いただければと思います。

https://www.kultuur.ut.ee/en/craft-camp


前編含めて、長文読んでいただきありがとうございました。また翌年2019年に参加したCCやその他の旅路についても少しずつまとめていきたいと思います。












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