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エストニアの伝統手工芸を学びに〜Craft Camp in Estonia 2018 @Olustvere(前編)

エストニアやその土地に根付く手工芸に興味をもつようになったきっかけはまた別機会にするとして、もう3年前!の2018年に参加したCraft Campの話を。

Craft Camp(以後CC)とは、エストニアのViljandiという都市にあるViljandi Culture Academyが年に一度夏に開催する、エストニアの伝統的な手工芸を体験し学ぶことができる1週間のサマーコース。(2020/2021年は開催見送りに・・・来年こそは!)2016年にデンマークのSkals手芸学校へ留学した際に併せて訪れたEstoniaの地や文化に惚れ込んでしまい、エストニアでも何か手工芸を学べる場や機会がないかネットで探していたところこのCCを見つけて、翌々年のサマーコースに申し込んだのでした。授業は英語で行われ、海外からの参加もOK。日本語の情報はなく日本人が参加しているのかどうかも分からずでしたが、えいっと申し込んで参加することに。

会場のOlustvereは、エストニア第二の都市Tartuから少し西にある、芸術•文化的な都市Viljandiから更に少し北上したところにあり、それまで暫く滞在していたTartuからバスで向かいました。最寄りのバス停はこんな森の中で、他に誰も降りる人もなく周りに人気もなく、最初は少しそわそわ・・・と同時に、美しい木漏れ日やどこまでも続く麦畑、古く美しい石造りの建物に静かに心潤い感動を覚えるのでした。

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Google Mapを頼りに会場へ向かう途中若い女性に出会い(後に事務局長のMaritということが判明)CCの参加者であることを伝えると、受付の場所まで案内してくれた。多くの参加者はTallinnの空港や港からCC専用のバスで向かうことになっており(それを希望しない場合は自力で来る)まだ到着している人はまばらな様子の中、名簿チェックの後書類一式を渡され、ひとまず部屋へ。相部屋で申し込んでいたがここでデンマーク人の方と同じ部屋であることも判明し、何と他に日本人が参加していることも判明!これからどんな参加者の皆さんと出会えるのか、どきどきわくわく。

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CCはオンラインから申込みの際に、約30種類あるコース(1day/2days)の中から希望するコースを選び、申し込み状況によって希望通りになったりならなかったり。私は2daysはMulgi地方の古い刺繍のコース、1dayは硝子ビーズづくりと白樺の皮織りのコースを希望し、そのまま希望通り参加できることに◎


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こちらは会場のマップ。宿泊棟や食事棟、それぞれの授業が行われる建物は別々で、広大な敷地内あちこちに点在。元々は農業やテキスタイル、ホテル業などの職業を学ぶための施設や農場だった場所とのこと。森や池などすぐ傍に自然も多く、手仕事をするのにはとても素晴らしい環境。どこを切り取っても美しく絵になる。


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オリエンテーション

初日の夕方、まずはオリエンテーション。ウェルカムドリンクやフィンガーフードをつまみながら簡単なレクリエーションでリラックスして、円になって自己紹介。CCは2014年から始まり今回が5回目で、北欧など近隣諸国中心に参加者も徐々に増え、今回は十数カ国から30名ほどが参加。40〜70代くらいの女性が大多数を占めていました。始めから感じていましたが、例年リピートして参加している方々も多い様子で、先生方も参加者の皆さんもとてもフレンドリーでアットホームな雰囲気なので、少し緊張していたのもどんどん解れて、これからの1週間がとても楽しみに◎

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コーヒーブレイク

Skals手芸学校の時も頻繁にありましたが、手仕事には付き物のコーヒーブレイク(大事)。今回のCCでも午前中・午後の授業の合間にコーヒーブレイクのスケジュールが組み込まれていました。今回のCCの中でとても素晴らしいと感じたことのうちのひとつが、このコーヒーブレイクで使うマグカップのシステム。このマグカップは磁器に一つひとつ異なる可愛らしいイラストが描かれているのですが、これらは障害のある方々が一つひとつ手描きで描いているとのこと。皆それぞれCC期間中に使う好きなマイカップを選びデポジットを払い、終了後返却してもいいしそのまま気に入ったら購入して持ち帰れる!というもの。

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私は最初はその一つひとつ愛らしいイラストに引き込まれると同時に、既にもう荷物パンパンなので(これまでの道のりで色々買い付けて既に2回荷物を送っていた)さらに荷物が重くなってしまうからどうしようかなぁ・・・とも思っていたのですが、CC期間中毎日使ううちにどんどん愛着が湧いて、最終的に持ち帰らない訳がない!となりました。(ちなみにこのアットホームな雰囲気に魅了され翌年2019年にもCCに参加するのですが、その時はまた別の子と出会い共に過ごしお持ち帰り・・・ささやかなコレクションになっています)ゴミも出ないし、参加者にとっても主催者にとってもこのカップの作り手の皆さんにとってもWin Win Winで素敵なシステムだと思いました。


食事について

毎日食事はこちらの食堂でいただくのですが、壁には一面様々なフェルトの作品たちが。(食事よりも先にクラフトの紹介!)エストニアの気候風土や、その中で暮らしを紡ぐ人たちの手や感性、この土地の素材によって時間と手間暇をかけて作られたことが感じられる、暖かな作品たち。

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食事は学校給食の配膳ような感じで、お盆をとってその上に自分で分量を調整しながら取っていうスタイル。申込みの際にヒアリングがあり、ビーガンやアレルギー等にも対応していました。毎回自由席なのでその時々「ここ良いかしら?」みたいな感じで色々な人たちと一緒に食事を共にし、よもやま話をするのも楽しいひと時。味はなんだか素朴な感じで、時々味付けが薄すぎたりしょっぱすぎたり・・・周りのマダムたちは酷評していました(笑)

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エストニアの郷土食でもある黒パンやジャガイモをつかった料理がよく登場。


会場について

私は個人的に空き時間あちこち一人で散歩しまくっていましたが、2日目には事務局のMaritにより敷地内のツアーも。

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中心部にある元醸造所の建物と小さな池。水に映る景色も含めてこの眺めが大好きで、毎日散歩のコースに。

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何の建物か分からないけれど魅力的な造りと雰囲気を醸し出す建物。

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養蜂箱が点在する場所、Honey Cottage。

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馬小屋。羊ちゃんも〜〜

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敷地近くにある、どこまでも続く小麦畑に佇むパン屋。

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マナーハウス。最終日にはここでクロージングパーティーが行われます。

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授業① Mulgi刺繍

今回私が2日間のコースとして選択したのが、Mulgi刺繍のコース。エストニア南部のMulgi地方の古い刺繍で、象形文字のような雰囲気も感じられる温かみのある刺繍。エストニアは九州ほどの大きさ、人口130万人程の小さな国ですが、地域ごとに多様な伝統衣装があり、Mulgi地方の伝統衣装にはこの刺繍が袖や裾部分に多く施されています。

まずはスライドを使ったレクチャー。Mulgi地方の簡単な歴史文化や、刺繍の模様の意味や色使いなどについて学びます。一つひとつ異なるデザインの紙箱に、刺繍に必要な基本セットが入っていています。

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Mulgi地方は元々農業を生業としていた地域で、刺繍にも植物をシンボルにしたモチーフや豊穣の祈りの意味が込められたものが特徴的。一般的なフランス刺繍や日本刺繍のように下描きはせず、心の赴くままに刺し始める。線がまっすぐでなくても円がまん丸でなくても、大丈夫。むしろそういうちょっと歪なモチーフも一緒にランダムに施されていて、各モチーフに込められている意味も意識しつつその時々の気持ちや願いを込めながら刺すのも、Mulgi刺繍の特徴のひとつ。

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Mulgi刺繍は、基本的にウールの生地に細いウールの糸で刺繍を施していきます。日本だと刺繍と言えばコットンの糸が主流でウールの細糸はなかなかなく、ウールとなると編み物用の毛糸が多い印象。他にもビーズやスパンコールをアクセントに使ったりもします。

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今回作るのが、Mulgi刺繍のデザインを生かしたオセロゲームのようなもの。こちらは先生作のお手本。

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20〜30分ほどの講義の後、「はいそれではどうぞご自由に〜!」みたいな感じでいきなり実践編開始。どうやって縫い始め縫い終わるのか、どんな種類のステッチを使うのか等の説明は特になし。Skals手芸学校の授業も懐かしく思い返される・・・こんな教え方(というか殆ど詳しいやり方については教えていない!笑)だと日本人は戸惑ってしまう人が多そうだなーと思いつつ、分からない部分についてはこちらから質問すると、各自のやりたいイメージに寄り添って気さくに丁寧に教え手伝ってくれる。Skalsの時も実感したが、教育システムや先生・生徒の在り方が日本とは随分違う。細やかで丁寧な説明があったり、手取り足取り教えたりするのではなく、「その人がどんなものをどんなイメージでつくりたいか」に寄り添う。受け身で何か正解を教わるのではなく、ある意味主体性が求められ個が尊重される。

まずは予行練習として、少し大きめのフェルトにMulgi刺繍を施しピンクッションづくり。いつも渋めな配色になりがちな私には珍しく、パステルな雰囲気に。

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その後、もう少し意識を変えて本番用の刺繍へ。私は講義や練習を経て「米」という漢字やお米に対するイメージ、そこへ豊穣の願いも込めつつ。

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休憩時間

授業の合間の休憩時間には、開放的な芝生で例年参加している生徒さんの中でヨガや気功に通じている方によるレクチャー。手元に集中しすぎて目の疲れや肩こりに気付かなかったり、猫背や浅い呼吸になりがちな時に、リフレッシュー。

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他にも、休憩時間中には他のコースの教室を覗きにいったり。こちらは、同じ日本人で織物作家として教室も主催している田村さんとその生徒さんが選択していた、エストニアの織物のコースの教室。

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織機に取り付けられている、手刺繍の小物ケースも素敵。

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エストニア伝統衣装の、縦縞の織りスカート。この配色などによって未婚・既婚などのステータスを表したりもするそう。

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こちらはのクラスは、エストニアの無形文化財にも登録されている伝統的な暮らしが現在も色濃く残るKihnu島という島の人形づくりのコース。

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絶妙な表情♪


そして2日間かけて出来上がったピンクッションとゲーム。わたしは時間が足りず駒のみの仕上がりとなりました。続きは帰国してから。

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こちらは他の生徒さんの作品。同じ学びを共有しているのにこんなにも個性的でかなり違いが出て興味深く、どれもそれぞれに素敵でした◎

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長くなってしまったので、続きは後編で。

後編はこちら



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