ブレードランナー2049の構成を分解する

サイコパス甲子園」というWebコミックを描いている木錠ケイです。ブレードランナー2049がめちゃくちゃ好きです。去年の映画でベストです。生涯ベストも1、2を争います。ヘッダー画像は購入したブルーレイプレミアムボックスのパッケージです。

なんで僕はこんなにこの映画好きなんだろうなーと思い、シナリオの勉強がてらどういう構成になっているのか分解してみました。

ブレードランナー2049を見てる人しか読まないと思うので映画紹介はとばします。ネタバレしまくりなのでこれから見ようとしている方はご注意ください。

シークエンスをカードに分解

シークエンスとはシーンやシーンの塊のことです。まずシークエンスを以下のようなカードに分解していきます。これは「SAVE THE CATの法則」で述べられているシナリオ構成法を逆算して作っています。

例えばファーストシーンならこうなります。

+ / -は感情の変化、><は葛藤を表します。ちなみに「解任」はブレードランナー世界で「殺害」と同義です。

とうわけで全シークエンスをカード化してみたらこうなりました。

あくまでもできあがった映画から逆算してカードを書き出したので、本当に感情の変化や葛藤がそう意図されてたかはわかりません。見た人により解釈が変わる部分もたくさんあると思います。

それに難しかったのが、主人公の捜査官「K」や、敵対するウォレス社のレプリカント「ラブ」が無表情で感情が読み取りづらいことです。わかりやすいエンタメ映画なのに、見る人によって退屈さや難解さを感じている一因は、この感情のわかりづらさでしょうね。彼らの気持ちを想像できる者にとっては最高の余白なんですけどね。

物語の基本構造

映画の基本的な構造は、主人公Kによる真実への探求です。真実とは、人物の居場所だったりK自身のことだったりします。動機は物語の節目で変わりますが、とにかくKが真実を追いかけて、それを様々な障害が阻む、という葛藤構造になっています。

Save The Catで分類されたストーリー型では「金と羊毛」にあてはまるでしょううか。このストーリーでは何かを発見すること自体よりも、経験を通して主人公が成長することで観客はカタルシスを得ます。

実際、主人公Kは劇中で大きく変化しました。

どこがターニングポイントか?

近代的なエンタメ映画は、シド・フィールドが理論化した3幕構成から成り立っています。

三幕構成は、脚本の構成である。三幕構成では、ストーリーは3つの幕 (部分) に分かれる。それぞれの幕は設定 、対立、解決の役割を持つ。3つの幕の比は1:2:1である。

幕と幕はターニングポイントでつながっている。ターニングポイント (プロットポイント) は、主人公に行動を起こさせ、ストーリーを異なる方向へ転換させる出来事である

Wikipediaより引用)

3幕をつなぐターニングポイントはどこでしょううか?

第1ターニングポイント

第1ターニングポイントは、サッパーから言われた「新型は汚れた仕事でも喜んでやる。奇跡を見たことがないからだ」という言葉を思い出す時でしょうか。Kが、上司のマダムにレプリカントから生まれた子を抹消しろと命令された後、Kは任務に向かう途中でこの台詞を思い出します。

いままで疑問もなくブレードランナーの仕事をして、同類のレプリカントを「解任」してきたK。しかし、製造されたレプリカントでなく、初めて「生まれてきた」レプリカントの殺害を命令され、自らの仕事に疑問を抱きます。

ミッドポイント

ミッドポイントは第2幕の中間に位置します。「Save The Cat」では主人公が絶好調もしくは絶不調になるとされてます。

だったらここでしょう。

Kは自分が人工的に製造されたレプリカントだと思いこんでいましたが、実際は生身から生まれた特別な存在だと知ります。Kが期待していた事実でもありますが、いろいろ複雑な思いもあり、いつも無表情なKがこの時ばかりは激昂します。絶好調でもあり絶不調でもありますね。

そしてこのミッドポイント以降、Kは任務を捨て私情で動き始めます。だって自分こそが探していた奇跡の子だったんだもん…。

第2ターニングポイント

第2ターニングポイントはどこでしょうか。「Save The Cat」では問題を解決させるための解決策が見つけた時だと述べられています。

最愛のジョイは破壊され、デッカードは拉致され、おまけに自分も奇跡の子じゃなかっんかい!みたいな最悪の状況。Kはレジスタンスのリーダーに、本物の軌跡の子を守るためにデッカードを殺して口封じしろと言います。

これが解決策なのか、どうするんだKって感じで第3幕に続きます。

3つのストーリーライン

こうして構成を俯瞰してみると、以下のように3つのストーリーラインにわけられそうです。

・Kの捜査
・Kの内面の葛藤
・ラブのウォレスへの奉仕

K周りのシーンは当然として、意外とラブの描写多いですね。デッカードより出番多いし。今回はラブのことは掘り下げずにKのストーリーラインにフォーカスします。

Kの捜査

これは警察・探偵ものとしてはオーソドックスな葛藤構造ですね。謎→それを解こうとする→障害→解決→また謎という繰り返しです。

たとえばこのシーンですね。

骨を分析して、それが妊娠したレプリカントだということがわかりますが、新たに謎が浮かび上がります。生まれたものはどこに行ったのかという謎です。

Kが謎を解いては新たな謎が生まれる、という流れを繰り返しています。

Kの内面の葛藤

僕がブレードランナー2049が大好きな理由はこの描写にあるといっていいです。Kが悩んでいる姿に感情移入しすぎてどのシーンも泣けてきます。

まず第1幕のKの描写ほんとひどい。

人間として扱われてない上に、彼女はAIホログラムです。現代日本の非正規雇用&非モテそのままじゃないですか……。つらすぎる。

そして第2幕の前半では「自分は特別な存在なのか」「いや違う。これは罠だ。信じないゾ」っていう葛藤が繰り返されるんだけどこれがまたしつこい。

Kが疑心暗鬼になっているところに、ジョイが「あなたはやっぱり特別なのよ」と気持ちのいい言葉を言うんですが、これも現代の承認欲求を満たすためのコンテンツ群のメタファーに思えます。

婚活女子に現実を歪めた解決法提示する恋愛コンサルや、さえない男がモテまくったり異世界に飛ばされて無双するマンガ・ラノベみたいなもので悪質としか言いようがないですね。

そしてKが奇跡の子だとわかったら(誤認だけど)、ご褒美に売春婦を呼んでシンクロセックスします。こんな都合のいい話あるだろうか?

第2幕の終盤でジョイはラブに破壊され消滅しますが、Kは広告として現れる別のジョイと遭遇します。それもポルノみたいな格好の。

広告には「Everything You Want to Hear(あなたが聞きたいことすべて)」「Everything You Want to See(あなたが見たいことすべて)」という文字も浮かび上がります。

ああ、そういうことだったね…というKの表情が哀愁を誘います。

ブレードランナー2049は誰に向けた映画か

未整理でわかりづらい文章だったかもしれませんが、以上のようにブレードランナー2049は孤独で誰にも愛されないKが、特別な存在として認められようとする葛藤するストーリーです。

つまり現在ある程度承認欲求が満たされていたり、まだ未来が明るいと思っている若者はKの気持ちがわからないので、この映画は全然おもしろくないでしょう。

誰からも愛されない、誰からも認められない、そう思っている人たちに、ブレードランナー2049は主人公Kを通して気持ちを代弁してくれます。そして最後にKは答えを出します。

僕がブレードランナー2049を好きな理由はまさにそこにあります。

この記事は以上です。

ちなみに僕が書いてるマンガ「サイコパス甲子園」もぜひ読んでみてください。高校球児がサイコパス殺人鬼とバトルするマンガです。







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木錠ケイ

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