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言葉にすること。体育会生の“今しかできない”こと

先日ある女性アスリートの方を取材させていただいた。「オリンピックに向けて頑張っていたのに」聞いた時は、自分の悩みの規模が小さすぎて恥ずかしくなった。

そんな時に、インターン先の方が私にかけてくださった言葉が響いた。

「それは違うよ。一人ひとりの、ストーリーがあるんだから」

自分がなぜ、体育会と両立しながらスポーツ界に関わり、スポーツ界に新卒で入る決意をしたのか思い出させられた。

そう、スポーツに関わる方一人ひとりのストーリーを届けたかったんだ、と。それがどんな規模であれ、どんなに表に出てこない部分だったとしても。むしろそういう部分を届けていきたい。

もちろん賛否両論あると思っている。私が決めた生き方だ。こっちの方がワクワクするし、あとは努力して結果で示すしかないとも思っている。

だから私も、私なりのストーリーを残しておくことにした。前代未聞の事態の中で、ラストを迎える一4回生として何を思い感じたのか、日本一を目標とする国立体育会が何をしているのか。

「今できることを」→「今しかできないことを」という思考の転換

2020年3月2日に活動停止が始まってから、1ヶ月弱が過ぎた。

追い討ちをかけるようにして、春季トーナメント・春季全国大会並びに夏までの全行事の中止が発表された。4回生の半分を戦わずして、というか戦うチャンスすらなく終えた。

正直、知った時は実感が湧かなかった。受け入れたくなかった、という方が正しいかもしれない。1人になると(この状況なのでほぼ常に1人なのだが)「なぜ今なのか」と巡っては、考えても杞憂だ、と言い聞かせた。

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でもしょうがない。それもまた、運命だ。運命はどうしてここまで意地悪なのかと思うほど、スポーツをする環境は幾度となく私の前から消えていく。

考えてみれば「部活ができない」なんていうのは、今の状況では高次な欲求だ。実際生活が難しくなっている方がたくさんいる。自分の命を危険に晒しながら、ウイルスと最前線で戦ってくださっている医療従事者の方々がいる。社会を支えてくださっている方々には、私なんか到底頭が上がらない。


受け止めて、再開した時に備えて“今できること”をするしかない。何を読んでもそう書いてある。でもこれ、世の中の思考がものすごく保守的になっている気がしてならない。

“今できること”:コロナで制限がかかる中でも、まだできること。きつく言えば、「制限の中でできることを仕方なくやろう」というイメージ。
“今しかできないこと”:今だからこそ、できること。時間があるからこそ、離れているからこそできることを見つけ出して自分からやること。

そんなポジティブになれたら苦労せんわ、という声が聞こえてくる。でももうこうなったらとことんポジティブになるしかないのでは?と思う。絶対その方がおもしろい。

少しだけ、捉え方を変えてみるのもアリなのでは。

“今しかできない”縦のコミュニケーション

beforeコロナの世界では、考えもしなかった取り組みがまだまだあるということに気づいた。

いくつか紹介してみる。ちなみにこれらの取り組みは全て縦割りのグループで行なっている。

良いイメージ(=憧れの選手)と自分を比較しようの回。自分の練習動画と、それに対する良いイメージ映像を過去の動画から紹介し合う。「自分と何が違うのか、どうしたらそうなれるのか」というギャップを言語化することで、普段は自己完結しているところがより明確になる。おまけに学年を超えてフランクな雰囲気でフィードバックがもらえて、他の人の気づきが自分の気づきにもなりうる。

良いプレーも悪いプレーも、相手に説明しまくる回。試合や練習からプレーを抜粋して、説明する。「何が良いのか/悪いのか」「自分ならどうするのか」「対応するためには何が必要か」この辺りを言語化することになる。お互い自由に疑問や感想をぶつけることで、同じ題材で一人ひとりが自分にあったレベルで理解を深めることができる。

新入生に向けた部員ブログ。日本人は、なかなか思いを口にしない節がある。チームへの思い、競技への思い、人への思い。「自分が所属している組織を、全く知らない人にアピールする」ことは、一人ひとりにとって今の活動を見つめ直すきっかけになっている。これを言語化して整理することに大きな価値がある。

これは一部である。どれも共通しているのは「言語化することで理解を深める」のが根底にある、ということだ。

大学体育会生は、誰よりも日々の生活を時間と戦って生きている。普段じっくり考えている暇などほとんどない。ものすごい経験があるにもかかわらず、それを言語化するという経験がどうしても乏しい。

これって、もしかして...“今しかできない”ことなのでは??

afterコロナの世界では、コロナ休み中に各自が考えたことを確実にプレーに落とし込み、さらにより密度の濃いコミュニケーションをとることに成功した組織が大学スポーツの世界でも勝つんだろうな、なんて思っている。


ここまで読んでくださってありがとうございます。

大好きな人たちと、大好きな競技を、もう一度できる日が来ると信じて。

最高の形で締めくくれますように。

ラストイヤー、“今しかできないこと”をしよう。






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