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【前編】楽しいこと、好きなことを突き詰めるとご褒美がある。糸井重里の考える企画とは「企画でメシを食っていく」特別イベントレポート

2019年5月4日に5期がスタートした「企画でメシを食っていく」。

開講に先駆け、4月7日に「ほぼ日刊イトイ新聞」主宰の糸井重里さんを招いた特別イベントがBUKATSUDOで開かれました。

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広告、作詞、文筆、ゲーム制作など多彩な分野で活躍している糸井さんにとって「企画」とはー。コピーライターで「企画メシ」主宰、作詞家としても活動する阿部広太郎さんが聞きました。企画や言葉をテーマにたっぷりと語り合った模様を2部構成でお届けします。

幼稚園児の時にしたお医者さんごっこ

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阿部:糸井さんをお招きして特別編が行えることが、とてもうれしいです。本当に本当にうれしくて、今日はずっとそわそわうきうきしておりました。

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糸井:あなた、そういうところかわいいね(笑)

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会場:笑い

阿部:それではさっそく、お聞きしていきます。「企画でメシを食っていく」のゲスト講師の方にいつも、人生で最初に企画した体験をお聞きしているんですが、糸井さんはいかがですか?

糸井:幼稚園児の時にしたお医者さんごっこ。これは企画だと思いますね。自分がお医者さんの役をして、相手の人を患者さんだっていうわけですから。僕は大好きでしたね。ぶいぶいいわせていました(笑)。小学生の頃は、学校の売店で手帳くらいの大きさのメモ帳をお小遣いで買いまして、誰でも参加できる紙飛行機大会をしました。それも思えば企画ですよね。

阿部:やっぱり1人でやるよりもみんなで競ったり集まったりする方が楽しいと考えてですか?

糸井:1人で紙飛行機を折って飛ばしても、ちっとも面白くない。「おれ、紙ないもん」っていう人もいるわけだから、「いいよ、あげるよ」ってみんなにあげて。その発想は、後に自分がやることの大きな原点になっているかもしれませんね。ぼくは大人になってからもレコードで「いいな」と思ったら何十枚と買って人にあげていたんです。

阿部:えっ、すごいですね。

糸井:小銭は持っているんで(笑)。やっぱりあげると「いいんすか!?」って喜ばれるんですよ。ぼくも「いいよ」って言うとき、気持ちいいじゃないですか。「モノポリー」ってゲームもあんまり面白いんで、みんながやればもっと面白くなると思って、何十個と買って、来る人来る人に渡して。気前のいいジャイアンをやっていました(笑)。

阿部:ジャイアンは「お前のものは俺のもの」だけど、気前のいいジャイアンは「俺のもの」は・・・

糸井:みんなあげる!

人間の中にある強い気持ち

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阿部:糸井さんが広告コピーの仕事に入っていったのは、広告の中にある何かを共有したり分かち合ったりするところに惹かれたからでしょうか?

糸井:そうですね。何か書いても、人が読んでくれなければ成り立たないわけで。誰かがいるおかげで、自分のやっていることが面白くなる。そういうことにいつも強い興味があったんじゃないですか。

阿部:「みんなで楽しむ」という意識が強かったんですね。

糸井:昔だと、杏とか梅とか家の庭の木になっている果実を取って適当に袋に入れて、「あげるから持って行きなよ」ってやっていましたよね。あれはもらわれることで助かっているんですよ。「差し上げる」って言葉の中には献上の意味が入っていますよね。ああいう気持ちは人間の中に強くあるんじゃないかと思いますね。

阿部:おすそわけっていい言葉ですよね。

糸井:今だとカッコつけて「シェア」とかいいますけど、群れで生きている生き物の本能に近いものじゃないかな。それがひいては自分を生かす、自分が生きやすくするってことでもあるんです。ずるく言えば、非常に功利的な行為でもあると思うんです。赤ん坊が笑うのも、世話をしてもらおうと思ってにこにこしているわけですから。あれにまんまとぼくらひっかかるわけですが。一方の見方をすれば「ずるい」と言われそうなコミュニケーション力みたいなものってとてもいいなと思いますね。

阿部:糸井さんがそういう人間の本能的な部分に気づかれたのって社会人になった頃からですか?

糸井:今みたいに言葉にできるようになったのは、年を取ってからだと思います。小さい頃、友だちと遊んでいて夕方になって、「じゃあね」って別れるとき、ものすごくさみしくなかったですか? できることならばずっと一緒にいたいんですよね。あの気持ちがいろんな場面にあって、何ものにも代えがたいうれしさになっているのは、ずっと感じていたことなんです。今みんながSNSでつながっているのも、学校の庭で遊んでいるんですよね、たぶん。1人でやることにも別の楽しみがあるんで、縦糸と横糸みたいに交差するところに自分がいると思うんです。どっちかしかないっていうのは、ちょっと模様を作りにくいかなと今頃になって思いますね。

自分だったらどうするかな

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阿部:私はコピーの勉強をする時、1人でのめり込んでいった感覚があるんですが、糸井さんは駆け出しのコピーライターのとき、1人でガンガンやる感じでしたか?

糸井:勉強だけしていた時期は、僕はたぶんないですね。半年ほど養成講座に通いましたけど、実際に考えたのは、仕事で本当に解決しなければならない課題があるとき。それが勉強といえば勉強なんだと思います。もう一つは、趣味なのか遊びなのかわかんないですけど、絶えず「自分だったらどうするかな」って考えているんですね。例えば電車で中吊りのコピーを見ても、テレビを見ても、「じゃあ自分はどうするだろう」と考えるわけです。いつの間にかものすごく広い範囲でひっきりなしに考える癖がついていましたね。

阿部:「勉強しなきゃ」というよりは、常に演習問題を解いているような感じですね。その「自分ごと化する力」みたいなものは、自然に育まれたんでしょうか?

糸井:「自分ごと化する」みたいな言葉って昔はなかったんですよね。そのときには、どう思っていたんだろう。ちょっとしたニュースネタから「世の中まちがっている」って話をするのは、とんでもなく簡単なわけですけど、結果が出てから「あれはだめだ」とか言っているのを聞くのが、つらくてしょうがない。そういう人間になりたくないなと思ってね。「自分だったら」の大元は、言うだけの人に対する怒りだったかもしれない。それが自分に考えさせているんじゃないかな。たぶん。

阿部:自分だったらという思いが、自分を突き動かしてきたんですね。

糸井:そうですね。今日のテーマの企画ですけど、企画で全部が「俺の思った通りだ」ってことは基本的にはない。いい土地があっていい種があっていい世話をしていればいい実が実るかといったら、そうとは限らない。たまたま潮風が強かったのでおいしいトマトになったとか、そういう何か呼び込めるものまでも含めて「企画」って言うんじゃないかなと最近は思います。

物事にやきもちを焼いてきた

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阿部:糸井さんは若手の頃から漫画雑誌「ガロ」で連載したり、バンドを取材して記事を書いたり多方面で仕事をされていますよね。それはどうしてなんですか?

糸井:やきもち焼きなんです。人にやきもちはあんまり焼かないんですけど、物事にやきもちを焼くんです。「ローリング・ストーン」っていうアメリカの雑誌の翻訳がときどき読めるようになった頃、読んでいてすっごくうらやましいんです。例えば、ジャニス・ジョプリンが旅しているところを一緒にバスに乗って、「そのときジャニスはこう言った」ということと、自分の音楽に対して感じていることを混ぜて書いた記事を読んで、「こんなことしたら楽しいだろうなあ」と思って。そう憧れている自分が「さあ、自分にできるのかな」と思っているわけだから、出されていない宿題ですよね。今、阿部さんがおっしゃったのは「ダウンタウンブギウギバンド」っていうバンドを沖縄に追いかけていって記事を書いた話だと思うんですけど、それも自前なんですよ。予算がないから「おれ自分で行くんだったらいい?」って言って。飛行機を手配して、テープレコーダー買って出かけて行ったんです。それで書いた記事を読んだ人から「糸井さん、矢沢永吉に興味ある?」って言われて。その記事のおかげで、矢沢さんと本を書くことになった。

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阿部:次々とつながっていきますよね。当時は「ツイッター」や「フェイスブック」などのSNSが当然ないわけですが、誰かが糸井さんの仕事を受信して、また次の仕事につながっていったのは、発信することを心がけていたからなんでしょうか?

糸井:自分ではあんまり言わなかったです。そういうことを始めたのは、人との出会いがつながり始めた28、29歳ごろからだったような気がします。やっぱり「こいつ面白いな」と思ったら、人に言いたくなるんですよね。よく「お前面白そうだから」って言われました。他人が言ってくれて、自分でアピールする必要がなかったっていうのはすごく助かりましたね。今の人たちは、「自分でやんなきゃ」っていう思いがちょっと強すぎるかもしれない。それと、ぼくは本でも何でも、他の人がやればいいのにっていう企画を割と持っているんです。どこかでそれを「こういうの読みたいんですよね」とか言うと「それは面白いね。糸井さんやんない?」ってなって。若造に対して誰かがものにさせようっていう気持ちが加わると本当になるんですよね。

阿部:糸井さんがシュートを決めるところまで誰かがアシストしてくれているような感じですね。

糸井:「きっとできるにちがいない」って向こうが信じていることと、「こういうのがあればいいのに」って言ったぼくの企画が行けそうだったんじゃないですかね。

楽しいバカにお金もらってやってる人は勝てない

阿部:糸井さんのように想像を超えた仕事が生まれるためには、常に企画を持っておいて、ふだん接しない方と会えたら「こういうこと考えているんですよ」って雑談をしてみるといいですかね?

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糸井:無限に企画をしゃべっているくらいにたまってないとね。ぼく、最近映画の「ダンボ」を見て、すっかり喜んでいるんです。「ダンボ」を考えた人は楽しかっただろうなあって思って。酒飲むとピンクのゾウがカウンターに現れるっていう冗談は昔からアメリカにあるらしいんだけど、耳のでかいゾウが空飛ぶって話はなんの役にも立たないじゃないですか(笑)

阿部:たしかに(笑)

糸井:今、マーケティングが当たり前になっちゃたから、「役に立つから」とか「こういう問題に悩んでいるから」って考える。でも、耳のでかいゾウが空を飛ぶっていうことは、今、東京や横浜で悩んでいる問題にはなんの役にも立たないけれど、世界中で何億人が夢中になっている。それでメシを食える人が山ほどいる。ためになることをあんまり考えると、仕事になっちゃうんですよね。でも、周りが「やめろ、やめろ」って言うのに家にも帰らずに麻雀しているバカはすっごい楽しいですよね。すっごい楽しいバカに、お金もらってやっている人は勝てないんですよ。

阿部:お金になるとかならないとかよりも、自らが楽しいこと、うれしいことを突き詰めちゃう感じが大事なんですね。

糸井:そう思います。だんだんと「そういうことをやっていたおかげでいいことがあった」っていうご褒美になるんじゃないかと思いますね。素人なんだけどもブログを始めたら「大好きです」って言う人が現われたなんてことは、報われたってことだと思いますね。ぼくもきっとそういうことだらけで、おかげで次のまた新しい面白いことに手を突っ込んでいける。

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登壇者:糸井重里阿部広太郎
ライター:河波まり(企画メシ4期生・ほぼ日の塾5期生)
撮影:鈴木秀康

▼2019年11月3日(祝・日)5周年記念「企画祭」開催します!

▼「企画の正体とは?」後編はこちらからどうぞ↓

▼もっと糸井さんの言葉を読みたい!「キャリアハック」での記事は↓

▼「企画でメシを食っていく2019」スタートしました↓

以上です、お読みいただきありがとうございました!


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