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第1回 美味しく、楽しく、自由に。

菊川市の龍雲寺には、ぞろぞろと100人以上の親子連れが集まってくることがあります。檀家の集まりや年中行事ということではなく。住職の奥さん・村松小鶴枝さんが企画運営している「だれでも食堂」にやってくるのです。

「だれでも食堂」とはその名の通り、大人でも子供でも、裕福でもそうでなくても、菊川市民でもヨソから来た人でも、どなたでもご飯を頂くことができる催し。一食100円で、ご飯を好きなだけ食べることができます。なんだか楽しそうですよね。

最近、貧しい家庭の子どもを対象に「子ども食堂」を行う団体や企業は日本中で増えています。健康状態の底上げだったり、親が働きづめで孤立しがちな子どもにコミュニティを提供することが目的になっています。

そもそも村松さんも「子ども食堂」をやりたかったそう。それがどうして、みんなようこそ!という「だれでも食堂」に変わったのでしょうか。

そんな疑問に対して、あっけらかんとした口調で答えていく姿が印象的だった村松さん。まさに菊川の一服する自然体の生きかたを突き進む人でした。
全2回でお送りします。美味しく、楽しく、自由に、生きよう。
(書き手:工藤大貴)

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イタリアのママン

「だれでも食堂」を始めた理由ってのはね。最初のきっかけはテレビで、3歳くらいの子が映ってて。お母さんがスパゲッティを茹でて、ケチャップだけをかけて食べさせていたんです。それがね、本当にショックで…。

食事をするというよりも、生きるためだけに食べるのが、すごく切ないなぁって思ったんです。だから、子ども食堂をもともとやりたかったんですよ。

食卓で食べない子もいるでしょう、いつもコンビニで買ってきてパンなんか食べたりね。保護者が働きっぱなしで、ちゃんとご飯食べられない子たちに食堂来てほしいって思ってました。

でも、もう1つ理由があるんです。あの…イタリアのおばちゃんがバーっとテーブルクロスをかけて、ドン!とスパゲッティを置いて、「さあ、食べなさい!」みたいなイメージあるじゃないですか。

あれ、すごく憧れてるんです(笑)。

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(お出し頂いたお茶菓子も、遠慮して少ししか手をつけなかったら「ほら、みんなで食べて」と最後に全部くださいました)

おせっかいな関係性

うち、息子3人いるんですけど、中学生の頃なんかに友達連れてくると、「お昼だからラーメン作るけど食べてく?」って聞いたりしてね。そういうの自然というか、もうお昼だから帰りなさいなんて言わないですよ。

私が子どもの時がそうでしたね。昭和だから、近所付き合いが密接で、おせっかいおばちゃんが多かった。どこのおばちゃんというのもわかるし、道歩いてたら何かくれたり、その辺で遊んでる子が、どこの誰っていうのも大人はわかってた。

私、出身は静岡市なんですけど、幸せな地域に生まれたんですよね。だけど、今は子どもがあんまり外にいないじゃないですか。一人で歩いてると、こっちの方が心配になっちゃう。

だから、子どもたちが少しでも楽しく、食事をとってくれたらと思っていたんです。

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子ども食堂から「だれでも食堂」へ

食堂をやるのはいいけど、まずどこに声をかければいいのか。

それで、ある時、龍雲寺を舞台に写真を撮る会があったんですね。シニア世代の方が多く参加されてたんですけど、その時に「私、子ども食堂やりたいんですけど、みなさん良かったらお手伝いしてもらえますか?」って聞いたんです。

そしたら、良いよ良いよって言ってくれて、背中を押されました。うちはお寺なので場所もありますし、お布施のお米なんかも頂きますので、ご飯を作るっていっても何万円もかかるわけじゃないのでね。

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(↑左手、青銅色の屋根の建物が「だれでも食堂」を開いている無量殿)

さっき言ったように、ちゃんと食べられない子たちに来てほしいって思っていたんですけど、いろんな事情で孤食の子がいて、「あなたとあなたは来ていいですよ、あなたはダメですよ」っていうことはできないですよね。

それは浅はかな考えだったんです。なので、もう「皆さんいらっしゃい!」っていう「だれでも食堂」にしました。「誰でも来ていいですよ〜」っていう感じで、通りすがりのサラリーマンでも「あ、今日はやってるんだ」って思ったら来てもらえるようにしたんです。

最初はカレーをおかわり自由で用意しました。50人くらい来てくれたかな。いろんなアレルギーの子がいるから、精進カレー。ルウもベジタリアン御用達のところで取り寄せて、お肉も油揚げで作りました。カレーと一緒に煮込むとね、「お肉だと思ったー」って言われますよ。

来てくれた人には名前と電話番号とアレルギーだけは受付させてもらって、100円払っていただいて、あとは食べ放題。みんなで食べると美味しいから、2回3回ってお代わりする子もいます。

逆に、残さないで、とも言わないんですよ。だって、メニューがあるわけじゃないんだからね。たくさん残しちゃう子もいるし、食べ物でいろいろ強制されたくないじゃないですか。

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(だれでも食堂の様子)

お寺は遊び場

今はね、お母さんたちがすごく楽しみにしてくれています。土曜日、「だれでも食堂」に来れば、子どものお昼の支度も必要なくて、お寺で食べて、お皿も分別したら、そのままお出かけできますからね。

実際はご飯食べたら、ママたちずーっと話をしてて、子どもたちは境内のその辺で勝手に遊んでますよ。お寺は車が危なくないから、走り回ってる。全然いいんですよ、誰が来たってね。

昔はお寺が遊び場でしたからね、「だれでも食堂」に来ればどこでも遊べるというのも記憶に残るんじゃないかなぁ。今はプチ保育園状態です(笑)。

(第二回につづきます)

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