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ミツロウと鞄

聞き鞄のカバンを縫うときに欠かせない、ミツロウのお話。

東京に養蜂場がある、と言ったら、自然の多い、都心から遠く離れた場所、例えば八王子や青梅、奥多摩あたりを想像するひとも多いのではないだろうか。だけどあるのだ、世田谷区内に。

手縫い作業の主役は、針と、糸と、ミツロウ。ミツロウは糸の滑りを良くし、擦り切れから守り、革の切り口を塞ぎ、工房をいい匂いに包んでくれる。先日のワークショップでは、床革(トコガワ)と呼ばれる革の表面をミツロウでツヤツヤに仕上げて、小箱を作った。

聞き鞄は殆どの作業を手で行い、余計な道具を使わない。また糊も使わない。ミニマムに絞っても必要な、大切な材料のひとつが、ミツロウなのだ。

そのミツロウがどのように私の手元にやって来てくれるのか、夏のある日、蜜蜂と話をしながら大切に育てていらっしゃる養蜂家の方に、見せていただいた。

ハチミツは5月から7月に採蜜され、私たちの食卓に届く。花が咲き、女王蜂が育ち、蜂たちの巣がその子どもたちを育てるのに十分な蜜を蓄えてから、蜂たちが冬越えの準備を始める前まで。梅雨の時期も蜜は採らない。なお、ハチミツを採る方法は、このように巣箱を用意して蜂に巣を作ってもらうやり方と、プーさんのハニーハントで有名な、自然に出来た巣を狩る方法の二種類ある。

養蜂では、効率を重視して、蜂の分まで蜜を採り、蜂に砂糖水を与えたり、巣箱の奥の蜜まで採りきってしまうやり方もあるらしい。ただ、それでは蜂たちにストレスがかかり、性格も荒くなるのだとか。

足元にいた蜂たち。全く攻撃的な様子がなく、穏やか。

巣箱の中身。蜜が詰まった六角形のひとつひとつを、ミツロウが塞いでいる。表面を削ると、蜂蜜の甘い匂いが広がる。

巣枠を採蜜機に入れ、遠心力でゆっくり落とした、採れたての蜜がこちら。今まで食べた蜂蜜の中でいちばん美味しかった。

削り取ったミツロウを溶かして、もう一度固めたもの。ほのかな甘い香りと、少しの粘り。口にいれても安全、安心な100パーセント天然の蝋。カバン縫いの作業に使いやすいサイズにしてくださった。

聞き鞄のカバンたち、革だけでなく、道具や材料も、大切に作られています。

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