消えてしまった職人の話

日本の職人が消えてしまった、と聞く事があります。

消えてしまった日本の職人とは、誰でしょうか。職人とは、誰でしょうか。

「工業製品」と「手作り品」の間に、「職人の手仕事」を入れて並べてみます。同じように感じませんか?でもこの中で、動詞に変化させる事が出来るのは、手仕事という言葉だけです。

工業製品では、専門家でなければ見たことの無いような機械を使ったり、大量に早く作ったりするため、出来上がりを見て技術者の「考えを追う」ということは難しい。作業者の手は機械のように、考えない事を求められます。

手作り品というのは、解釈に差が出ると思いますが、この文章では以下のようなもの。作業がより感覚に近い。作る手間や技術が、何年もの練習を伴うほど高くなくても、見た目が可愛いくて、多くの場合は値段もお手頃。

職人の手仕事は、それを見るだけで、作業者が何を考えて、どういう手順を踏んだのか、ある程度分かります。そこには、考える人が居て、仕事はその人のその時の技術の最新版です。

多くの人にとって、職人の手仕事のすごいところ、面白いところはそこですよね。人柄まで見えるような仕事、高い技術。職人にとっても、そうです。

長持ちする構造、綺麗な縫い目、開けやすく閉じやすいがま口。それだけを追求したい、という職人さんを、かばん屋はたくさん知っています。所謂、営業が苦手、コスト管理が苦手、見た目としてのデザインが苦手、そういう職人さん、多いです。

だいたいイメージ通りでしょうか。そこで、かばん屋が知っていて、もしかしたら皆さんが知らないであろう事をひとつ。

日本製品(名詞)、これを支えているのは、先に挙げたような、イメージ通りの職人さんとは少し、違います。ストイックに技術を磨くだけの職人が、収入を得るアイデアに乏しいのは、最近始まった事ではないのです。職人たちの技術、仕事、つまり職人その人たちを、何が守ってきたか。「不良職人」たちの事をご存知ですか。

私が勝手に名付けたので、知らないですよね。説明します。

祖父や、かばん屋がお世話になっているご高齢の職人さんたちが若かった頃の話です。

修行の場、親方(または、少なくとも、おかみさん)は厳しく、真面目です。昔は特に若い男の子の多かったその職場で、正しく彼らを育てつつ、増える需要を支えるため、採算も考えて、仕事の効率を上げなければいけなかった親方たち。ひとりひとりの職人の考えを尊重、なんて言ってはいられません。

そこに、ときどき不良職人が弟子入りします。

不良職人は、親方の言うことを素直に聞くのが苦手です。こうすれば、もっと上手く行くのに、と勝手に考えて、技術が追いつかず、失敗したりもします。

ただ、自分で考える分、技術の伸びが良い場合も多いのです。そのうち注文だって自分で取れるようになってしまい、そして自然と、独立します。その頃には時代遅れになりつつある親方の工房を離れ、今度は真面目な職人を引き抜いたり、育てたりします。

私の知る限り、今、消えて行っている職人たちは、若い頃そうやって自分の工房を持って、同世代やひとつ下の世代を育てた親方たちです。ご両親から家業を受け継いだ方々だって、自分の世代になったら、良いところを残して、やり方を変えて、雇用を守り、それで続いているのだと思います。

経済も、流通も、お客さまも、変わります。技術が高いだけでは、同じ考え方を続けるだけでは、やはり終わってしまう。しかし、不良職人は、どの時代の工房にも現れます。1人で勝手に考えたりします。

工業化された仕事は、価格を下げ、流通を良くして、たくさん売れるほどクオリティが上がります。景気とか、経済とか、消費とかいう言葉と、それはもう密接に関係していて、多くの人が受け入れやすい製品を産みます。例えば、鞄工場の工員になりたければ、履歴書を書いて面接を受ける。何年も、作り方も売り方も分からないまま、しかし社会にとっては大事な、求められるお仕事に就くことが出来ます。

真面目な職人たちが、またはロボットや、海外の工場がそうやって間を埋めてくれているとき、不良職人たちは求められるお仕事を半ば無視して、今日も勝手に「こうすれば、もっと上手く行くのに」と考え、失敗しています。そして失敗しているうちは、多くの人の目には入りません。

例えば、「日本生まれ、日本育ち、日本国籍、日本の工房で技術を習得した職人」は、今後少なくなるのかもしれません。男性の割合も減るかもしれません。惜しまれながら淘汰されていった材料や道具もあります。今まで良いとされて来た技術も変わるかもしれない。

でも、どうですか、「日本の職人が消えてしまった」と信じられますか。そんな訳ないだろう、と思いませんか。だって、彼らは勝手に現れて、勝手に失敗して、いつの間にか自分の仕事のやり方で独立するのです。今までに無い新しい手仕事は、消えてしまったのではなくて、まだ見えないだけ。そして新しい手仕事は、新しい手に更新されて行きます。そう、思いませんか。

(伝統工芸はまた別、これは、かばん屋が見える範囲、聞こえる範囲の話です)

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