クマ撃退スプレーの強さの話

 安全装置の下にある噴射トリガーを押し、飛び出たのは赤い液、臭う唐辛子のカプサイシン臭、部屋の中、扉に向けて噴射したクマ撃退スプレーは霧状でなく液体として強力な水鉄砲のような速度で放たれ扉を染めた。そして数秒経たずして私は悶絶していた。ああ、部屋の中でやるんじゃなかったとか思いながら涙と鼻水と咳と汗を垂れ流した。
 さて、こんなことになったのにはこういった経緯があった。
 最近のこと、霊仙山という山に登るべく色々調べものをしていた。独特な信仰体系や山頂の神社の里宮、霊仙山にまつわる不気味な幽霊話まで様々なことを調べに調べているとどうやら霊仙山にはクマが出るということが分かった。まぁ鈴鹿山系であるからして居ないわけがないのだ。クマがいる、でもどうしても登りたかった。というのも前回、同じ鈴鹿山系の椿大神社の奥宮がある入道ヶ嶽に登ろうとした時はクマの出没情報が張り出されているのを見ておののき、クマ怖いからまた今度登ろうと逃げてきたのだ。だから今度こそはクマのいる山に登って入道ヶ嶽に再挑戦する勇気を得たいのだ。それに今調べている霊仙山の信仰体系を詳しく知り現地取材をするにはどうしてもクマが邪魔になる。だからといって散弾銃なんかは使えないしそもそも免許がないからクマ撃退スプレーなのだ。
 しっかしまぁ襲ってくるまたは睨み合いに発展するようなことがない限りは使わないつもりでいる。壁にかかったスプレーの近くで息を吸うだけで悶絶するような危険なものを無闇矢鱈とかけるようなことはしたくない。
 正直趣味が神社巡りだとたまに猿や鹿には出くわすことがあるが争わず横を通してくれる個体が大半だ。クマは本州のやつらは人を食った個体でなければ臆病だと聞くから刺激しなければ向かってくることはないだろうと思いたい。もし向かってきたら迷わず噴射してやるつもりだ。人間の私がスプレーの液を少し吸い込んだだけで10分強むせ続け呼吸をするのが苦しくなるような代物だ、嗅覚が敏感なクマなら恐ろしく聞くだろう。不審者撃退スプレーとは液体の毒性がケタ外れに違うであろうこの液体は使いようによっては人を殺せる危険物だ。保管用のホルダーも買ってあるから厳重に保管するつもりだ。

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