嘘業界の今

 嘘というものにまとわりつく者たちは現在バラバラに活動している。
 筆頭として嘘の専門家であり研究者の村井潤一郎氏は外せない、様々な方面から様々な専門家が嘘について論じた「嘘の心理学」(編著/村井潤一郎)

は名作、嘘の分類方法としてレヴァインの分類──うそと欺瞞という二つに嘘を分ける分類、欺瞞は意図的に相手を間違った方に導くこと、嘘は間違いであると知っている情報を使い相手を騙すこと──をよく使っていて意図に重きを置いて嘘を見ているとわかる。間違えや約束破りは研究外と考えて良いだろう。

 業界の幅を広げているのがrn pressの野口理恵氏だ。彼女はひとり出版社であるrn pressの代表を務めており、年に一度発行される書籍「USO」(発行人/野口理恵)

は嘘をテーマに様々な作家がエッセイや小説、漫画を描く書籍である。
 この本の最大の特徴は編著の野口理恵氏が気に入った作家を知名度関係なく載せている点で各作家の考える嘘観を通じてその対である本当が見えてくる。
 嘘業界にとっては嘘に触れる機会を作り、嘘の入口となっている点、嘘について意見交換する場を作っている点で大変ありがたい存在だ。

 業界を飛躍的に前に進めたのが浅生鴨氏、彼が著した「ぼくらは嘘で繋がっている ──元NHKディレクターの作家が明かす人間関係の悩みが消えるシンプルな思考方法──」(著/浅生鴨)

https://www.amazon.co.jp/gp/aw/d/B0B5Z4DDS6/ref=tmm_kin_swatch_0?ie=UTF8&qid=1697036193&sr=8-3

は専門家や研究者でない人が嘘について書いた貴重な書籍である。基本的に嘘についての本はなにかの専門家・研究者が寄り道として書くようなものが多いが浅生鴨氏は専門家というよりは嘘好きを極めた人物という方が近い。
 嘘について科学的な知見と自身の中で磨かれた嘘観を持っている嘘の巨人とでも呼ぶべき方だ。そのため彼の書籍の中で出てくる分類表1〜5は今まで見た分類の中でわかりやすさと的確さを兼ね備えた嘘好きにしか書けない表となっている。どれよりも嘘の説明にもってこいな代物で様々な分類表を見てきた彼だからこそ語れる奥深さがそこにはある。
 そして、書籍の中で出てくる言葉の中でも「嘘を見破るのは「暴力」である」という言葉は現代人によくよく知っておいて欲しい名言である。嘘をつくのには理由があり、嘘を暴くのはその人のプライベートを無理やり暴くことに等しいことなのだから。

 さてさて、様々な人物と代表作を紹介してきたがどの人物も今、嘘の最前線にいる人ばかりで昔の人は一人もいない、だが、現在にも残る嘘の名著がある哲学者、亀山純生氏は紹介しておかねばなるまい。彼の著作「嘘の倫理学」(著/亀山純生)

は悪い嘘とはどういったものなのか、嘘がなぜ悪いとされるのかを哲学者達の残した考えを下に考える作品で正直に言えばかなり抽象的な表現も多く、難しい本ではあるがこんなに嘘についての思想の歴史が知れる本は無いし、何よりも嘘好きが絶対にぶつかる嘘嫌いに対抗する知恵を身につけるために必読の書である。嘘嫌いのカントの論理の弱点なんかは嘘嫌いに対抗するために使えるだろう。
 
 ここまで嘘業界について話したが、もし興味を持って貰えたならば業界に入って一緒に仕事をしてくれると嬉しい。

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