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妄想小説 ジン編

今、私は、「おじさん」になっている。

突然の告白に驚くだろうが、ある日、急に来た車にひかれそうになったところ、目の前におじさんに乗り移ったのだ。私の身体は頭を強くうち、意識不明に。そして、乗り移った先の「おじさん」は、あの「キム・ソクジン」のSP兼マネージャー、45歳のパクさん(独身)だったのだ。

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つまり、彼の美貌を間近で堪能できる、数少ない一人となったのだ。彼の美しさは形容しがたい。なんだろ、ずーっとアプリの美フィルタをかぶっている感じ? 賢そうな額、濃くて太い眉、いつも濡れたような唇、優しい瞳、広い肩幅に乗った、あまりにも小さな顔。ついつい、ずーっとみてしまう。下からみたて、この造形美! つい拝みたくなるのも仕方ない。

画像2「???なにか、付いてますか?」「いやいや、えっと、なんでもないですぅ」「・・・・なんだか、最近、パクさん、ぼーっとしてませんか? 花粉症のせいですか?」「えっと、、だ、大丈夫です」「やー、全然大丈夫じゃなさそうだけど?アッヒャッヒャッヒャッ」

スーパースター集団のひとりとしては拍子抜けするほど、彼は「普通」だった。気難しさも、不安定さも、気分の浮き沈みもない。むしろ、その「美しさ」を除けば、スタッフのなかに紛れ込むような「常識人」だったし、私(えっと、おじさんの方ね)のことも気を使ってくれる好青年だ。

どこにいても、あの独特な笑い声ですぐ分かる。目をぎゅっとつむって、高らかに笑う。彼の笑い声は世界の宝だ。そして何より、その笑顔は6人の弟たちと一緒の場面でより輝くのだ。

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ただし、私の目の前で着替え始めたときは焦った。
「ちょ、ちょっと待ってください。コ、コで着替えるのは、いや、フェアじゃないっていうか、ダメですよ。ちょっと良くない私が出ます。あ、私、外出てますので。ごめんなさい」
「なんか、最近、パクさん、面白いですね。アッヒャッヒャッヒャッ」

ドア隔てて、着替え中の彼に思い切り聞いてみた。そばにいてまだ短い間だけれど、彼の頑張りは想像を超えていた。きっと身体が悲鳴をあげているだろう。だけど、彼の弱音は冗談めいていて、本音が見えない。
「ひとつ質問していいですか? どうして、そんなに頑張れるんでしょうか」

にぎやかな彼には似合わない。沈黙の間が流れる。

「うー-ん。正直に言っていい? 僕は辞めろって言われたら、いつでも辞めるつもりで来たんだよ。俳優になりたかったのも夢とは違ったかな。なんだか面白そうって思っただけだから。結局、僕は弟たちと一緒にいたいんだ。みんなが好きだから。僕はいろいろ足りないから頑張ることしかできないしね。―――――ってなんで語ってんだろ。あ、やっぱり辞めないよ。僕からは絶対にね。ずっと続ける。誰にも言わないでよ。パクさんは無口だから、きっと大丈夫だよね。ああ、誰かに少ししゃべりたかったのかなぁ」

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そして、彼の美しい姿の中の、「こんな素の姿」に、私は「おじさんの見た目」のまま、恋をした。


ある日、彼はなかなか起きてこれなかった。とても疲れていたし、食欲も減っていた。
そこで、私はスーパーで食材を買い込み、自家製の味噌スープ(実は私は、親子3代で続くに食堂の孫娘で、これは試作品だ)。これは日本人の祖母から教わった具沢山の豚汁だった。隠し味は、刻んだ生姜だ。

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「ああ、これ美味しい。身体があったまるみたい。ああ、確かに疲れてたんだね。毎日、これ作ってほしいよ、パクさん」
「プ、プ、プ、プロポーズですか? 」「え?」
「えっと、日本では、毎日味噌汁を作ってくれていうのは結婚の申し込みなんですよ」「ああ、そうなんだ。アッヒャッヒャッヒャッ。そりゃいいね」


「私はおじさん」だ。彼にできることは少ない。
だからせめて、と思い、ほっといてほしいときは離れて過ごし、ちょっと人恋しくなったら一緒にゲームをしたり(実は私の方が強かった)、ほぼ毎日味噌スープを作ってあげた。そう、「仕事仲間以上友達未満」みたいな「おじさん」でいようとしたのだ。

ただ、ふっと意識が飛ぶようになっている。もうそろそろ、元の体に戻る時期が来ているのかもしれない。言いたいことは言わなくちゃ。
「あなたは無理をしすぎだと思います。もっと誰かに頼ったほうがいいと思います」
「・・・・恋人ってこと? でもなぁ、僕は結婚するなら本当にリラックスできて、一緒にいて楽な人がいいんだよ。でも、それって、ちゃんと恋愛して、一緒に過ごさなきゃわからないだろ。でも今はそんな時間もないから、無理だろうなぁ」

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少し寂しそうに下を向いた。考え込むときの彼の癖だ。そんな気持ちを振り払うように明るく彼は言った。
「そうだ、僕がみんなを育ててきたみたいなもんなんだから、弟たちの子どもは、僕の孫みたいなもんだろ。みんなでさ、たまにつれてきて、僕を盛り上げてよ。それでいいよ。結婚とか、正直面倒な気もするしね。・・・え、パクさん、なんで泣いてるの?」

知らない間に涙がでていた。理由は分からない。
「あれ、僕の目がおかしいのかな。パクさんが今、、、、女の子に見えちゃったよ」

ああ、もう時間切れかもしれない。あわててメモに住所を書いた。
「多分、私、このまま倒れちゃって、ここしばらくの記憶がないかもしれません。味噌スープ、毎日作れなくなります。もし、良かったら、この場所の食堂に行ってください。そうだ。2週間後 ! そうして”パク特製味噌スープほしい”って言ってください。あと、信じられないかもしれないけど、私、中身女子なんです。あ、それはいわゆるLGBT的なことではなくて。あとでパクさん困るかもしれないから、言っとかなきゃ」

ああ、どんどん視界が狭くなる。これは夢だろうか。彼が近づき、下から、私をのぞき込んでいる。なんて美しい顔だろう。

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「あ、夢みたい。もう会えるの最後かもしれないから、勢いで言っちゃいますけど、大好きです。いつも楽しいジンさんも、悩んでるジンさんも、ズボラなジンさんも、頑張るジンさんも愛してます。あなたは、かけがえのない存在です。すごいです! さよなら。私、おじさんだったけど、すっごくすごく幸せでした!!」

――そして気を失った。起きて目の前にみえたのは病院の天井。私自身の身体に戻ったのだ。

それから二週間後、私は退院後、「まだ早い」と止めた祖母と母を説得し、店先に立った。まだ試作品だったスープのお許しもでた。「だけど、にんにくを効かせたほうがパンチがある」と言われたのに、私は断固反対をした。”パク特製味噌汁スープ”という名称も意味不明と言われた。「じゃあ、1カ月だけね。それで売り上げが良くなかったら見直しだよ」

でも彼は店先に現れてはくれなかった。
もしかしたら、あれ私の、長い長い夢だったのかもしれない。そんなふうに、あきらめかけた矢先、雨の中、彼が閉店間際にきたのだ

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「えっと、パク特製味噌スープってありますか?」

あまりもの懐かしさに涙が出そうになった。でも彼は私を他人行儀で見た。そうだ。私は今、彼にとっては、単なる店員だ。「はい、あります」
彼はゆっくり時間をかけて、飲み干し、空になったスープに視線をおろしながら、一気に吐き出した。

「すっごく変な話、聞いてもらっていいですか? 僕、すごく会いたい人がいて、ずっと近くにいたんだけど、急にいなくなったんですよ。彼、彼女、まあどっちでもいいや、その人はいっつも僕に美味しいものを作ってくれて、話を聞いてくれて、でもほっておいてもくれて、ゲームも強くって。とっても一緒にいてラクで。で、ずごく大切な人だなと思って、でも急にいなくなったんです。いなくなったら、すごく会いたくて。でも、中身が違う? そんな話がよく分からなくて・・・」

なんだろう、これは夢だろうか。そして、どうしていいか分からない私の顔を、彼は真正面に見据えた。

「でもココでこのスープ飲んだら、わかりました。君、パクさん? だよね。パクさんだ」

「はい・・・」「ああ、よかった!! 会えたよ。ずっと会いたかったんだ。じゃあ、この特製味噌スープを明日も飲ませてください」
「えっ」
「ああ、あ、プロポーズとかじゃなくて。うん、違う、いや、違わないけど、うん、いや、分からないな。あ、でも会いたかったっていうのはホントだよ」と、耳を真っ赤にしながら、早口でまくしたてた。そして、ふっと笑った。

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まだ恋は始まっていない。けれど。この笑顔は、私だけのものだ。


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