三月のブランコ

女の子はぼう然とブランコをこいでいた。唇を薄く開け、そのまま青空に投げ出されそうなくらいブランコの揺れに体を預けてる。なんだか、子どもであることをやめてしまいそうなほど大人びた目だった。

「すげー楽しい」

女の子はいまにも泣き出しそうな声で言った。振り向いた彼女の視線の先に、別の女の子が四人固まって地面に座り込んでいた。

四人はほんのちょっと顔を上げると、互いに見つめ合い、またうつむいてしまう。ブランコの子も同じように下を向いた。公園には彼女たちのほかに子どもの姿はなく、午後の日差しが五人の影を丸く小さく束ねていた。雲の切れ間からいまにも白い羽が舞い落ちて、彼女たちを微笑ませたっていいはずだった。

かなしみの答えは名札にあった。彼女たちの胸に下げられた名札にマジックペンでしっかりと書かれてある。『6年1組』そして、暦はどうしようもなく三月だった。大人たちが作ったスケジュールだとわかっていながらも、僕は式の日取りを思い浮かべ、残された放課後をブランコで過ごすことにした彼女たちの気持ちを思った。どうして、理由のわからない災難はいつも春なんだろう。

「次、いつ遊ぶ?」
ブランコの子が聞いた。

「これが最後かもね」
四人のつぐんだ口がいっせいにそう打ち明けているようで、ブランコはキィキィ鳴りつづけるしかなかった。どこへも行きたくない。ここにしかいたくない。そうだね、ブランコってそんなメロディーをかなでる楽器なのかもね。

それでも、僕はずっと先の話をしたくなっている。
あなたたちは思い出すのかもしれない。騒々しい遠い未来の夜、ディスプレイを見つめる目を休め、公園でブランコをこいだ今日の日に思いをはせるのかも。
「なんでもないことだけど」と、あなたは誰かの手に湯気の上がったマグカップを手渡してる。もちろん、カップの中身を飲み干すだけの時間じゃ語り足りない。けれど、何をどう話したらいいのかわからないまま「もう、忘れちゃった」と肩をすくめて言う。「知ってる? ブランコって楽器なんだよ」

ブランコが揺れていた。
どこへも行きたくない。ここにしかいたくない。だけど、ここにだっていたくはないんだ。もう子どもじゃないから、時間をさかのぼる理由なんてないから、あなたは壊れたタイムマシンに顔を突っ込んで未来へ進むための電池を探してる。生まれてくる赤ちゃんがたったひとつの光を目指すように、あなたは人ごみの中をすり抜けて走っていく。

卒業おめでとう。
今日のかなしみが、あなたの体温をぬくもりに変えていく。

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キムラ ケイ

エッセイ

日々の暮らしの中で見つけた、小さな物語を綴っています。
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コメント7件

unaharaさん、こんにちは。僕の小学校にもブランコはなかったですね。もっぱら近所の公園でこいでました。ある年の冬、公園で遊んでいたら長靴が片方なくなってしまったことがありました(積もった雪の中で脱げてしまった)。あちゃーと思って探しても見つからなかったのですが、春になって雪が溶けたらブランコの下に転がっていました。(笑)小学生の時の思い出です。思い起こしてみると、それがブランコで遊んだ最後の頃だったかも。最近は、二歳の娘とブランコ遊びリバイバルしてますが。笑
私は今でもこっそりブランコに乗るんですが……痛いですよね。笑 人が来ると急ブレーキをかけて、スマホを出してnoteを見るふりして、ふふん、ってとぼけて。笑
Kさん、ブランコってなぜか乗りたくなりますよね。公園には他にもたくさん遊具があるのに、不思議です。やっぱり、ブランコには何か神秘的(?)なものがあるんですよ…。今度、これでもかってくらい乗って確かめてみます。笑 個人的には、ブランコに乗ってる大人の人って好きですねえ。親しみを感じます。
unaharaさん、ありがとうございます。正月などに帰省すると、長靴のエピソードはいまだに話題にのぼります。「よく、しもやけにならなかったよねえ」とか、「気づかないっていうのがすごい」とか。いつか娘にも「あなたのお父さんはね…」って話されてしまうのかな。そう思うと、恥ずかしいような誇らしいような妙な気持ちになりますね。笑
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