スティーブン・R・コヴィー 『7つの習慣』を読んで

自己啓発本を読んでいて、精神科医と1 on 1のメンタルセラピーに参加しているような気分になったことはあるだろうか。

課題図書として与えられた『7つの習慣』を読みながら私はそう感じていた。会ったことも無い人に、なぜか心を見抜かれている気がした。

この本の筆者であり、経営コンサルタントのスティーブン・R・コヴィーは、”The 7 Habits of Highly Effective People (効率がいい人の7つの習慣)”において、我々が変化の激しい現代社会の中でブレない原則主義の人間になるために習慣づけるべき7つのことを挙げている。現代に生きる全ての人が、最低でも一度は不安や心配を抱えたことのあることを見抜き、それの解決方法やテクニックを教えるのではなく、人格の基盤となる部分から変えていくことを説いている。

この記事では、メンタルセラピーセッションの疑似体験を受けた私なりの理解を、自分の経験を反映させてまとめてみた。


読み進める前に覚えておくべき「インサイド・アウト」の考え

第一部 パラダイムの原則 で、コヴィー氏はパラダイムシフト、つまり人が持つ物の見方・解釈の変化について語っている。パラダイムシフトを経験すると、物事が一瞬にして違って見えるようになる。私はこのパラダイムシフトを、カメラのレンズ交換をイメージして理解した。レンズの種類はたくさんあり、どれを使うのかは、自分が目指すシネマトグラフィー次第だ。広角レンズでできるだけ広範囲をとらえるのか、プライムレンズで被写体にフォーカスするのか。その選択は自分次第である。

筆者は私たちに、”原則中心のパラダイム”にシフトすることをまず勧める。原則は絶対的・普遍的であるので、正しい原則に価値を置くと物事のありのままを知ることができる。自分の見解を原則に限りなく近づけると、正確で機能的なパラダイムを構築することができる。

表面的な行動や発言を変えるだけでは足りない。自分のあり方、つまりインサイドを初めに変えていけば、この本が教える7つの習慣を通して効果的な生き方を実現することができる。内から外へ (from inside to outside) のアプローチで、継続的に自分を成長させ、効果的な人間関係を築きながら、生き方の効率化を実現させるのだ。

私はここまでを読んで気づいたことがあった。それは、この本は授業で使う教科書のように読むのではもったいないということだ。文面を読み理解するだけでは勿体なくて、「自分だったらどうだろう」と私自身に問いかけながら読み進めていくのが自分のためになる。インサイド・アウトのパラダイムにシフトするためには、まずこの本を読む姿勢から変えていくべきだと気づいた。

ということで、コヴィー氏の7つの習慣を、自分の言葉に置き換えてみた。

第1の習慣: 主体的であること 
= 私の言葉で:自分であること・自発的であること。

第2の習慣: 終わりを描くことから始める
= 私の言葉で:想像力を働かせ、先を見て行動する。

第3の習慣: 最優先事項を優先する
= 私の言葉で:本当に優先すべきことは何かを自覚し、実行する。

第4の習慣: Win-winを考える
= 私の言葉で:相互に利益がないなら、切り捨てる。

第5の習慣: まず理解に徹し、そして理解される
= 私の言葉で:思いやりのある聞き方で、信頼関係を築く。

第6の習慣: シナジーを作り出す
= 私の言葉で: 1+1=3以上が実現できる環境を作る。


第1の習慣: 主体的であること 

私の言葉で:自分であること・自発的であること

私は、2014年から5年間に渡ってアメリカに住み、大学を卒業し1年間制作会社に勤務した。渡米前から、自分らしさというものを大事にしてきた。自分は唯一無二の人間であるのだから、周囲の人を真似て必死に社会に溶け込む努力をするよりは、何が自分らしさなのか自己分析し磨き上げたいタイプだった。

アメリカ、特にロサンゼルスという、アイデンティティー、ダイバーシティーを謳歌する社会で5年間生活した。街を歩けば自分らしさを存分に発揮した人々が溢れ、大学の授業では生徒たちが気がすむまで自分の見解を喋り通す。「自分」というアイデンティティーを追求しやすい環境であった。そんなアイデンティティー重視の環境に慣れ、日本を第三者の目線で見られるようになった頃、日本の"均質主義”という、個性の追求と発揮がしにくい社会づくりの基盤が見えてくるようになった。「みんなちがって、みんないい。」という有名な言葉があるが、日本に暮らす人は本当にそう思っているのだろうか?ユニークな生き方や見解を持つ人を、「面倒臭い」「社会不適合者」などと捉えるような社会ではないか?

そんな考えを持つ自分に、この「主体的であること」という第一の習慣はとても共感できるものだった。

ただ、実行に移すのが簡単だ、とは言えない

コヴィー氏は「人間は本来、主体的な存在である。だから、人生が条件付けや状況に支配されているとしたら、それは意識的にせよ無意識にせよ、支配されることを自分で選択したからに他ならない。」(p.82)と言っている。私たちの行動や、あり方を決めるのは、周りの状況ではなく、自分自身の選択である。だから自分の人生は自分で舵を取り、問題を他人や社会、周囲の環境のせいではなく自分の選択の結果だと受け入れることを習慣づけるべきだ、という。

「主体的であること」を習慣づけることで、率先して問題解決ができるようになる。自分に不都合な問題があったとしても、自分のインサイドで修復していける部分から変えていくことで問題解決につながる。

これを読んで、私は自分の現状に当てはめて考えてみた。

ロサンゼルスから東京に戻ってくることは、自分の意思と全く反する決定だったが、私ではその決定を覆すことはできなかった。この問題を、ビザの失効、雇用主の決断、さらにトランプ政権までのせいにして、仕方ないと受け入れていた。だが本を読んでから、この”問題”に対して主体的に立ち向かってみようと考えた。東京の制作会社でPMとして成長し一人前になって、ロサンゼルスまたは世界から「働かないか」と声がかかるまでの存在になる。それがこれからの私の目標だ。


第2の習慣:終わりを描くことから始める

私の言葉で:想像力を働かせ、先を見る

コヴィー氏に言われるまで、自分の葬式を想像した事など私は一度もなかった。自分の葬式に参列するとして、親族や友達、同僚から自分の人生についてどう語って欲しいかを想像する。このアクティビティを、読書中に少し想像しただけで、自分の生活の無駄や欠陥がいくつか見えた。このアクティビティは、コヴィー氏の第二の習慣である「終わりを描くことから始める」の第一歩にすぎないが、私の心に大きく響くものであった。

人間関係をもっともっと大切にしよう小さなことにも気づける人になろう記憶に残るアイデアを思いつける人になろう。。。など、このアクティビティの結果だけで色々なミッションステートメントが頭に思い浮かんだ。

先を見て効果的な方法を考えることが仕事においてとても重要であることは、社会人2年目の自分でもわかる。組織の価値観、プロジェクトのゴール、チームの目標がきちんと定まっていなければ、そして個人個人がそれを自覚していなければ、団体が効率的に動くことは難しい。当たり前に聞こえて、実は忘れやすい習慣を、再確認させられた。

ここで私が今まで自分の憲法、ミッションステートメントとして定めたことを、私の社会での役割ごと分けて書き出してみる。


キャリア
World is the stage. 世界が活躍の舞台。
Be the one whom people want to work with. 人が一緒に働きたいと思うような自分になる。
Be creative, be bold. クリエイティブで、型にはまらない。                                                                                                 
社会の一員
Thankful for everything, and when I say thank you, mean it. 感謝の心を忘れない。「ありがとう」と言う時は意味を込めて。
Positivity is the key. Give others joy and happiness. ポジティブで、人に喜びと幸せを与える人である。

【娘】
Always pay respect to my parents. 両親への敬意を忘れない。
Don’t take their support for granted. 両親のサポートを当たり前に思わない。
Be there for them when they need me, just like they were for me. 必要とされた時、そばにいてあげる。
Keep them relevant. 時代についていける両親に!


「7つの習慣」を読み終えた自分にもう一度向き合って、私のミッションステートメントをもう一度見直してみようと思う。


第3の習慣:最優先事項を優先する

私の言葉で:本当に優先すべきことは何かを自覚し、それを実行する

優先すべきなのに、「時間がない」「もっと緊急な事がある」などと言い訳して後回しにしている事がたくさんある私は、この章に一番苦手意識を覚えた。コヴィー氏が唱える時間管理のマトリックスにおいて、パーソナルマネジメントのキーとなるとされる「第二領域(重要であるが緊急ではない事)」を、把握してはいるが実行できていないのが自分の現状だ。

この第3の習慣を実行するには、主体的になり(第1の習慣)自分の目標や人生の価値を明確にする(第2の習慣)のができるようにならなくてはならないだろう。再優先ではない項目に、主体的にノーと言えなければ、この習慣は始まらない。また自分が目指す生き方やゴールが定まっていなければ、優先順位はつけられない。重要項目を優先できるようになるのがこの習慣の目的ではなく、優先項目に順位をつけてスケジュールを組み立てていけるようになるのが、効率化への近道なのだ。

私にとって第二領域に当てはまることを、自分のためにも書き出してみた。
・一生大切にできる交友関係作り
・目指す体作り
・食生活の改善
・親孝行(例: 手料理、車での送迎、ゴルフ、etc)
・動画編集のスキルアップ、撮影機会を増やす


第4の習慣:Win-winを考える


私の言葉で:相互に利益がないなら、切り捨てる。

効果的な相互依存の関係を築くためには、常に自分をWin-Winのシチュエーションに置くべきである、というのがコーヴィー氏の第4の習慣だ。私生活においても仕事においても、全ての人間関係において、必ず全員が満足できる結果を見つけようとする姿勢である。人生を「勝つか負けるか」「二者択一」といった”競争”の場と捉えず、”協力”の場と捉えるのだ。

またお互いに満足でき合意できる解決策が見つけられない時は、No Deal (取引をしない)つまり合意しないことに合意すると言う選択肢がある。この選択肢を持つことには勇気がいるが、同時に余裕と正直さを持てるようになる。お互い切羽詰まって無理な話を合意に持っていったり、相手を操ったりするのではない。ネガティブな影響を残すような結果に至る前に、合意をしないことに合意することで次に繋がる人間関係を発展させる、と言うことだ。

Win-win or no dealのスタンスを保つためには、勇気思いやり、そして心の余裕が必要になる。相手の視点に立って考える事ができる心の余裕と思いやり、対処すべき問題を見つけようとする勇気、望まれる結果に到達するための選択をする勇気。結局この第4の習慣も表面的なテクニックの習得ではなく、人格とパラダイムの構築の中で育つスキルなのだ。


第5の習慣:まず理解に徹し、そして理解される


私の言葉で: 思いやりのある聞き方で、信頼関係を築く。

この章を読んでから私は、自分の聞く態度の改善に徹することを決意した

私は人と喋る事が好きだが、同じくらい人の話を聞くのも好きだ。友達の悩みについて聞いてあげることに苦はないし、むしろ聞いてあげたいと思う。そのため自分はいいリスナーだと思っていたが、それは勘違いであった気がする。

コヴィー氏は第5の習慣を説く際、四つの自叙伝的反応をあげた。
1 評価するー同意/反対
2 探るー自分の視点から質問する
3 助言するー自分の経験から助言する
4 解釈するー自分の動機や行動を基にして相手の動機や行動を説明する

コヴィー氏によれば、私たちは自叙伝すなわち自分の体験談を相手の話に重ね合わせてしまいやすいので、上記の反応をしがちであると言う。私はど肝をつかれたような気がして恥ずかしくなった。例えば友達から悩みを聞かされる時、私はすぐ、自分だったらこうしてきた」とか、「こうして見るべきじゃないか」といったようなまさに自叙伝的反応をしていた。自分のレンズを通して相手を理解しようとしていた。その聞き方が果たして、相手が心を開きやすい環境を作る聞き方だっただろうか。

心から相手に共感して話を聞けるようになるのは、洞察力と時間を要する。ただそれが自然にできるようになると、人との関係の間にある”信頼口座”が大きく膨らむ。お互いに深く理解し合えた時、やっと自分の言葉を理解してもらえる環境が整うのだ。


第6の習慣:シナジーを作り出す


私の言葉で: 1+1=3以上が実現できる環境を作る。

コヴィー氏の言葉でシナジーとは、全体の合計は個々の部分の総和よりも大きくなる、ということだ。他者とのコミュニケーションが相乗効果的に展開すると、化学反応が生まれ、双方が見えていなかったオルタナティブアイデアや新しい可能性が見えてくる。第4の習慣であるWin-winのシチュエーションを生み出せれば、そこで自然にシナジーが生み出されているのだ。

シナジーが自然界に存在する例として、コーヴィーは2つの植物の共存をあげた。2つの違った植物が隣り合って成長すると、土の中ではそれぞれの根っこが絡み合い、周囲の土壌の質をあげる。結果それぞれの植物がもっと良い形で成長できるようになる、と言う話だ。

それは人間にも同じことが言えるはずで、私にも多くの経験がある。特にプロダクションの場では、クルー全員の間でシナジーが生まれた時に最高の作品を作り上げることができる。そのシナジーによってお互いの絆が深まり、次の機会ではさらに良い化学反応が生まれるのだ。

第6の習慣をマスターすれば、チームがシナジーを生みやすい環境を作れるプロダクションマネージャー、そしてプロデューサーになれる。これは私含め全てのプロデューサーや監督にとって最重要項目の一つだ。第4・第5の習慣が身についていれば、シナジーを生みやすい環境が作れると思う。

第7の習慣: 刃を研ぐ

今まで述べられた6つの習慣を実際に行い、効率の良い人生を構築するには、精神面、体力面、知的側面、そして社会的側面での度重なる鍛錬がマストである。日々「刃を研ぐ」とは、スポーツや語学にも同じことが言える。強くなるには練習と学習の積み重ねがキーであり、言語を上手く使いこなせるようになるためには日々学習・応用していくことが重要だ。

刃を研ぐことを習慣づけるには、第1の習慣「自発的さ」がポイントになるのではないだろうか。この本を読み、理解するのが効率化への第一歩だとすれば、それを実践し積極的に習慣づけていくのが次のステップであり、そのステップに踏み出すのは自分次第である。

本を読み終わったばかりの今、私はまだステップ1の状態にあり、コヴィー氏に習って生き方の効率化を図るのはこれからである。ラッキーなことに、今の私の状況は次のステップを踏み出すのに大変良いものだと考えている。なぜなら、アメリカから日本へ移り、地理的にも精神的にもリフレッシュされた私は、積極的に習慣の改善を行いたいと既に決意していたからだ。このような状況の中でコヴィー氏の「7つの習慣」に出会え、しかもその内容にインスパイアされたことは、とても刺激的であり幸運であると思った。


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