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自己啓発書の価値は○○にある【ベンツ14】

 自己啓発書は名著ではない。本の歴史で名著とされてきたのは、考え方を広げてくれる本だ。
 名著とされる社会科学の本に、アダム・スミスの『国富論』がある。『国富論』が出る前のヨーロッパでは、国家の発展のためには国家が積極的に介入すべきだという考え方が一般的だった。だが、アダム・スミスは『国富論』で、国家の真の発展のためには国民それぞれが自己の利益を追求すべきだと主張した。アダム・スミスの『国富論』は経済的自由主義をこの世にはじめて示した本であるため、名著なのだ。

 チャールズ・ダーヴィンの『種の起源』は、進化論という概念をはじめて世の中に紹介した本だ。ダーヴィン以前には、すべての生物が神によって創られたと考えられていた。ところがダーヴィンの進化論は、すべての生物が環境に合わせて進化したということを示した。現存するすべての生物は、過去の生物から進化した結果物であるというものだ。
 進化論が科学的に妥当かどうかについては依然議論も多い。だが、こうした進化論的概念は、ダーヴィンの『種の起源』ではじめて提起された。それで『種の起源』は名著なのだ。
 ジークムント・フロイトの『夢判断』は、人間の無意識の重要性をはじめて示した。トマス・ロバート・マルサスの『人口論』は、世の中を動かす力と人口のサイズに重要な関係があることをはじめて主張した。ピーター・ドラッカーの『マネジメント』は、経営という概念をはじめて論じた本だ。

 文学も同様だ。名著とされるD・Hロレンスの『チャタレイ夫人の恋人』は、今読むとなぜこの本が名著なのか理解しにくい。特別な内容でも変わったあらすじでもないのに、なぜこの本が名著なのだろう?
 今は、肉体的な愛を追うことはそれほど特別な話ではないが、この本が刊行された1920年代は、理性的な愛、精神的な愛、純粋な愛だけが語られた時代で、肉体的な愛のために理性的な愛を放棄するなどありえないことだった。そんな時代的な状況で肉体的な愛を描いたがために、『チャタレイ夫人の恋人』は名作となったのだ。

★★★

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