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MOYAN「周縁の身体」氷川参道ギャラリー

2023.10.12

MOYANさんの個展「周縁の身体」がとても良かったです。特に入り口すぐの大作を興味深く拝見しました。

画面は二枚のパネルに分割されていて、左のパネルはMOYANさん特有のリアリスティックな描写で構成されていますが、右側のパネルはキャンバス地がそのまま残された部分が多く、また、絵具が乗っている部分も地塗りがされていないため、暗く沈んだ色合いになっています。

そうした左右のパネルの特徴から、鑑賞者はまず、左側の描き込まれた方のパネルに目線が向かいます。そして、そこに描かれている人形の頭部のリズムの良い配置に目線を委ねていると、右側のパネルに描かれている「白いヒールのサンダル」が目に留まります。

すると、右側のパネルの右上に、巨大な人形の頭部が描かれていることに気付かされます。この、時間差で巨大な頭部に気づく体験はかなりインパクトのあるもので、鑑賞体験としてかなり強力なものでした。とても興味深かったです。

そうした造形上の強度に加えて、意味的にもとても興味深いのがこの作品でした。というのも、右側のパネルの「白いヒールのサンダル」が、視覚的にもそうですが、意味的にも浮き上がっているように感じられるからです。

ヒールは「女性性」を感じさせるものですが、それがこのような際立った描かれ方をしているのは極めて象徴的で、MOYANさんはそこに強く意味を込めていたのだろうなと鑑賞しながら考えさせられました。自分の中ではまだ上手い解釈ができていないのですが、どのような意図なのか聞いてみたくなりました。

作家紹介に書かれていた「人間と人形の新たな共犯関係を構築する」という言葉もとても興味深かったです。

自分はMOYANさんのテキストをそんなに読んだことがないのですが、子どもは人形遊びを通じてセクシュアリティを植え付けられるみたいな側面からの人形というモチーフの選択だと自分は理解していて、そこに新たな関係性を作り出すというのは面白い試みだなと思いました。

人形の頭部と身体が分離させられているのも、性自認と身体みたいなことの象徴なのかなと読み取れるように思えて、「セクシュアリティを植え付けるもの」としての人形を、そのような別の意味合いの存在として読み替え「新たな共犯関係を作る」というコンセプトは、とても面白いなと思いました。

これまでのリアリスティックな描写に加えて、キャンバス地が露出したままの描画や、そこに象徴性を与える浮き上がって見える白い絵具による描写が導入されて、MOYANさんの表現の新境地が見られて眼福でした。

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