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OYO日本人第一号社員が振り返る、OYO LIFEの事業立ち上げから承継まで

先月をもって、リリースから2年強、OYOの日本法人(以下、OYO Japan)が運営してきた賃貸サービス「OYO LIFE」を、霞ヶ関キャピタルが新たに設立したKC Technologiesに事業承継することになりました。

私が最初の日本人としてOYO Japanに参画してから3年弱と、短い期間でしたが、個人的には節目のタイミングとなりますので、文字通り最初から最後まで関わってきたサービスについて、少し振り返ってみることにしました。規格外のこともたくさんありましたが、この振り返りが少しでも誰かの参考になればと思い、筆をとることにしました。

*あくまで個人的な振り返りで、当社としてのコメントではありませんので、直近の事業状況や承継の詳細などは割愛させていただきます(現入居者様向けへの案内と合わせて、下記リンクをご参照ください)

**なお、OYO Japanはソフトバンク・ソフトバンクビジョンファンド・OYOを株主として、引き続きホテル・旅館事業を新体制で展開していくので、引き続き応援お願い致します!

感謝とお詫び

個人的な振り返りに入る前に、まずは、改めてこの場で、OYO LIFEの関係者の皆様にお礼とお詫びを申し上げたいと思います。

まずは、OYO LIFEに物件を提供頂いたオーナー・管理会社の皆さま、OYO LIFEに入居いただいた皆さま、応援していただいた皆さま、ご協力いただいた仲介事業者様・パートナー企業様、そしてチームの皆さま・株主の皆さま、これまでご支援いただき誠にありがとうございました。

サービス発表時の事前申込は1万人を超え、リリース時の最初の数百物件も即日完売し、SNSでも大きな反響を生みました。その後、我々は「100万室獲得」という壮大な目標を掲げ、単なるマンスリーマンションサービスではなく、新しい形の「住まい」サービスとして、大きく成長していくことを選びました。たった数年で「100万部屋」を獲得するために、チームを作り、様々な「実験」を繰り返しました。そして、多くの皆様に応援されながら、実際に数ヶ月で1万部屋近くの物件数と数十億円規模のサービスへと成長していきました。

しかし、結果的には、大きなビジョンとともに走り出したものの、この住まいサービスはまさに「実験」となってしまい、目標に向けては道半ばになってしまいました。また、サービス運営中も、オーナー様・管理会社様・仲介業者様や入居者の方々の期待に応えられない場面もありました。その中には一部、日本あるいは不動産の慣習上は納得いただくことが難しい内容があったことも重々理解しており、またそれらが理由でチームにも大きく負担をかけることもありました。これらについてはメディアが報じているところです。大変申し訳ありませんでした。

それらの要因としては、ビジネスモデル・経営方針・組織などに限らず、株主や世界をとりまく大きな外的要因の変化が大きく影響しているのもまた事実です。この詳細については割愛しますが、そういう外部環境のせいにするつもりは全くなく、むしろこの「実験」をしっかりと自社の「事業」として継続することができなかった理由を自省的に振り返ろうと思います。

遅くなりましたが、自己紹介です。

はじめまして、菊川航希と申します。私は、ソフトバンクビジョンファンドが投資するインド発のホテルスタートアップOYOが日本進出する際に、最初の日本人としてOYO Japanへ参画し、事業開発をリードしてきました。前職は A.T. カーニーという外資系の戦略コンサルティングファームにおり、その前は、大学時代に先輩と宿泊領域で会社を創業し、広義の不動産業界に従事しておりました。

直近では、ソフトバンク側に移り、メインをOYOから、Mapboxなど他のソフトバンクビジョンファンドポートフォリオに移しながら引き続き海外スタートアップの日本立ち上げなどに従事しております。

*OYOに入った経緯や初期のカルチャーなどはキャリアハックさんにわかりやすくまとめていただいておりますので、よければご参照ください。改めて、小澤さん・番井さん、お誘い頂き有り難うございました。

日本に辿り着いた"船"

2019年3月28日。

この日、"日本初"のオンライン賃貸サービスであるOYO LIFEは生まれました。そのわずか2年後に大きな変化を迎えることも知らずに。

その時の熱気は今でも強く覚えていますが、"ビジョンファンド"や"20代前半でユニコーン企業のCEOとなったRitesh"などのOYO自体の話題性とともに、ユーザーが抱えるペインからくる、サービスコンセプトへの大きな期待などがあいまって、チーム内外ともに、大きな熱気で包まれていました。さらに本国・株主からも大きな期待が集まり、鶴の一声に近い形で、一気に事業を拡大させる方針に切り替え、「100万部屋」という壮大な目標に向かい走り始めます。

しかし、実際には、リリースしたばかりのプロダクトと始まったばかりの運用オペレーションで、本当にPMFしているのかの検証も十分にできていない状態でした。もしそれが、既存のプロダクトをベンチマークとし、資本力のあるプレイヤーがそれに対抗する形で参入するのであれば、十分にあり得る戦略だったかとは思いますが、今回はそうではありませんでした。

本来的には、小さく始めて、多くの失敗をし、解像度をあげ、プロダクト・ビジネスモデルを磨き上げ、必要であればピポットを繰り返しながら、PMFしていく、というスタートアップでは当たり前の工程をする必要がありましたが、それよりも「成長」を選択し、全速力で走りながら修正していくことを選びました。

それはまるでまだ遠くにいけるかもわからない船にも関わらず、ひたすら遠くにいくための燃料や食糧を積み込み、そして船員を乗船させて、無理矢理に出港させているような状態でした。

さらにチームは即席で多国籍、規模もあっという間に数百人へ、かつ本社は海外。さらに、意思決定に関わるシェアホルダーも複数存在する。ただでさえ遠くにいけるかわからない船の操作が通常より難しくなっている。振り返れば、日本に辿り着いた"黒船"はそんな状態だったように思います。

1. 「質」 vs 「量」

そんな状態で走り出した船ですが、乗船してくれたメンバーは非常に高い熱量で、船を進めようとしてくれました。たとえどんなに操縦が難しい船であったとしても、自分たちでなんとか遠くにいくんだと言わんばかりに。

そして、本国から引き継がれた、スピードを圧倒的に重要視するカルチャーだったので、船は全速力で走り続けます。今までいくつかの会社の創業や経営に関わってきましたが、本当に感じたことのないスピード感でした。

スピードが重要なことは言わずもがなですが、前述通り、同時に「量」を追い求める経営方針でした。それは、「量質転化」という言葉があるように、量は質を凌駕する、と考えていたからです。この概念は、様々なところで語られていることではありますし、たしかに量は質を凌駕することもあるのですが、質の問題を量だけで解決することは難しく、順序としては、まずは質を担保するための環境作りが圧倒的に大事だと、今では思っています。

もちろん量を求める段階は、フェーズが進んでいくとありますし、あるいは、競合が多いサービスで既に証明されたプロダクトであれば、ある種の攻め・守りの両要素としての急速成長(いわゆるブリッツスケーリング的な話)は少し質を落としながらでも追求しがいがあるのだと思います。

しかし、僕らはこの巨大な不動産賃貸市場で新しい住まいの形を作りにいっていたので、その作りたい未来に対して、針の穴に糸を通すかの如く、細かくチューニングしながら進める必要がありました。そうすると、最初はやはり「質」。むしろ最初から「量」を前提に事業を進めると、「質」を蔑ろにしてしまい、誰も必要としていないプロダクトを作ってしまっていたり、それ故に売れない商品を売らなければいけない環境下に陥ってしまったり、それでも売らなければいけないが故に様々な施策や広告費をかけてしまったり、効率的なオペレーションになっていないのでコストが余計にかかったり。あげればきりがないですが、結果としては、組織全体としての非効率に繋がってしまいます

2. お金で事業は作れない

ではどうして、そんな当たり前のことが実行できなかったのか。多くの要因があったと思いますが、その1つに「お金があったから」というのがあると思っています。事業を作るのにはお金が必要なのに、お金があったからこそ事業が作れなかった、というこの逆説はどういうことか。

お金があると、本来はプロダクトで解決すべきようなところも、労働集約的に解決するという選択肢がとれてしまいます。さらに、既に大きなお金を会社に投資しているため、どうやってそれを使って、早くかつ大きな事業を立ち上げられるか、という力学が色々なところに働きます。

そして、結果として、多少仕組みやプロダクトが整っていなくても、やや検証できていない点があっても、多少労働集約でも、走り出そう、あるいは、走りながら修正すればいいという幅が通常より大きくなってしまう。その結果、走り出したら、できると思っていた修正はなかなかに大変な状況になっていたり、非効率にお金を使いすぎてしまっている。

本来的には、海外で既に証明されたビジネスモデル・プロダクトを一気に資本力で新しい市場に展開させていくためにあった資金ですが、実態としては本国のビジネスモデルとは異なる完全なる新規事業。大きく走り出したいところをぐっと堪えてプロダクトや数字へのこだわりつつ、1円・1秒にこだわる経営をすべきだったのだと思います。

3. 誰かを向いて仕事をするのではなく、事業に向き合う

改めて書くと当たり前のことばかりなのだけれど、当時はこういった意思というか信念がなかった。自分の理解を超えるところを追求すると、どういう未来が切り拓けるのかをみてみたかったというのもありますが、より根本的には、周りの偉大な人たちに決断を委ねていたところがあったんだと思います。

まさにその状態は、いいふるされた言葉にはなりますが、「事業(コト)」に向かっていなかった自分がいました。ある種の"神"が決めた目標・計画に対して、あらゆる方法を使って短期的にそれを実現するための方法を考えなければいけなかった環境下では、事業の実現のためではなく、誰かのために仕事をしてしまっていた側面があったのだと思います。

もちろん、創業チームの1人として当事者意識をもって取り組んでいましたし、実際に現場でも、会議でも言いたいことはしっかりと言い合い、時にはぶつかりながら、チームとして全力コミットする、という形で実行していました。実際に、作りたい未来・解決したい課題のためにその時のベストなメンバーでその時のベストな意思決定をしていたので、そのこと自体には全く後悔はありません。

ただ、目標や経営方針・ビジネスモデルなどについては鶴の一声で決まるようなところもあり、そこに私自身が真に納得していたわけではなかったというもまた事実です。もちろんそれらを変えていたからといって上手くいっていたかも今では分かりませんし、繰り返しになりますが、ここでそのような言い訳めいたことがしたいのではありません。

問題は、当時、それを全力でぶつけることができなかったこと。自分で考え抜いて、必要あらば本気で変えるために真剣にぶつかるべきでした。時には間違っていることもあるとは思いますが、自分が日々その事業に触れている中で信じていることは、誰になんと言われようと、自分が納得できるまでは、しっかりとぶつかるべきでした。事業を作ることは、以前私が携わっていたコンサルティング的なクライアントワークではなかったのです。

そして何よりも向かうべきは、ユーザーやプロダクトで、投資家や本国などに向くべきではありません。それは彼らの批判などではなんでもなくて、一番事業と向き合っている自分の責務であり、それができなかった自分が本当に情け無いですし、本当に恥ずかしいことです。これは当たり前なのに、いざ巨大すぎるそれをみると、できなかった。

僕らの事業の本当の意味での"熱狂"を作るKPIは、エゴ的な数字の「物件数」や「売上」ではなくて、ユーザーの契約更新率だったり、物件掲載から最初のゲストが入るまでの期間だったり、そういったユーザーやプロダクトを向いた数字であるべきだったのです

たしかに私たちが運用する物件が目標通り「100万部屋」にいったときは、月次で 数百億、年で数千億円になる事業だったので、数年でのその達成を目指すこと自体にはある種の"熱狂"がありました。でもそれは本来追うべき熱狂ではないのです。

どんなに隣で数百億を使って数百万人を獲得しているプロダクトがあってもそれはそれであり、僕らは僕ら。たとえどんなに大企業的な戦いかたができる前提でも、そこをぐっと堪えて、本質をみる。そこが大事だったんだと思います。

それに気付いたときには、既に事業規模を大幅に縮小しなければいけない状況になっていました。

それでも未来は変わらない

しかし、そんな僕らの存在がどうなろうと、或いはこうしておけばよかったな、といくら振り返ろうと、それに関わらず世界は進んでいきます。

コロナの影響もあり、Co-livingやデュアルライフ、セカンドハウスなどを含む短期賃貸市場は、これまでになくニーズが高まり、市場としても盛り上がっています。さらに、通常の賃貸市場においても、デジタル改革関連法が成立したことで、宅地建物取引業法の改正され、重説・契約の電子交付が可能になることで契約のオンライン化・業界としてのDXの流れが一層進みそうです。

僕らが作ろうとしていた未来は、確実に様々な形で実現されていっていますし、承継先のKC Technologiesでも不動産テック事業に取り組まれていくことと思います。

私個人としては一旦ひと区切りとなりますが、何らかの形で引き続きこの領域には関わっていきたいと思いますし、不動産領域に限らず、またゼロからの事業立ち上げをやっていきたいと思っております(詳細についてはまた後日書こうと思います)。

最後になりましたが、この3年の間で、ここでないとできなかった経験、得られなかった学び、出会えなかった人など、たくさんのものを得ることができました。改めて、これまでOYO LIFEに関わって頂いた全ての方に感謝を述べたいと思います。本当に有難うございました

2021年7月1日 菊川 航希


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