ローカル5Gの状況と、さくらインターネット研究所の将来ビジョン

5Gは、単にLTEの次世代のモバイルネットワーク方式であるということだけでなく、MEC(MultiAccess Edge Computing)やエッジコンピューティングとも関連があり、しかしながらこれまであまりきちんとWatchできていなかったので、JANOG44開催とそのBoFを機に、少し真面目に調査してみた。

5Gの特徴

5Gの、主に無線部分の特徴については以下の3点とされている。

・低遅延:1msec (LTEの10倍)
・広帯域:1Gbps〜10Gbps (LTEの100倍)
・多端末収容:(絶対値指標見つからず) (LTEの100倍)

なお、この3つの要素は同時に成立しなくてよい。帯域や端末収容数は相反するためである。またこのことが、これらのスペックが一意にはっきり定められない要因でもある。(なおこれらのスペックについては、NTT Docomoの5Gホワイトペーパーを参考にした。)

ローカル5G

5Gの他の特徴として、ローカル5Gと呼ばれる、(グローバル)キャリアが展開する5Gネットワークとは別に、地域や事業者が個々にクローズドな5Gシステムを構築できる、という制度がある。
ローカル5Gは更に、内容が異なる2種類の使い方があるので、区別して扱う必要がある。
一つはFWA(Fixed Wireless Access)と呼ばれるもので、これはネットワーク接続の最後の部分を5G無線で実施するというもの。例えば家庭でインターネット接続をするのに現在は光ファイバを引き込んでいるものを、これを家の近所の電柱などに設置した5G基地局からの電波で家庭のブロードバンドルータまで接続する、というもの。
もう一つは閉域RAN(仮称)というもので、(グローバルな)キャリア以外の一般事業者などが(キャリアと同様構成の)5Gネットワークを構築できるというもの。(仮称)となっているのは、どうやら正式な名称はまだ決まっていないかららしい。
FWA/閉域RANについては、JANOG44のローカル5G BoFの伊賀野さんの資料にわかりやすく書かれていたのが参考になった。(ファイルへの直接リンクはあんまりよくないかもしれないが、こちら

ローカル5Gのメリットとデメリット

ローカル5Gによる、ビジネス面、政治面での議論を抜きにした純技術的なメリットは以下であろうと思う。

・クローズドな無線ネットワークを構築できる
・屋外でも使える
・モバイル網の特徴である管理機能(課金、認証、監視など)が使える

一方で、ローカル5Gを使おうとするときの特性(要はデメリット)として、

・(ライセンスバンドなので)免許取得が必要になる(詳細は決まっていないが、一般論として、手続きは面倒で難しく、コストも高い)
・設備(無線基地局、コア設備)が安くない(Wi-Fiの10倍以上〜)

がある。

ローカル5G(閉域RAN)のユースケース

ローカル5G(特に閉域RAN)の特徴・特性を活かしたユースケースとして紹介されていたものは、

・Huaweiの工場入口でのARによる顔認証システム:警備員さんがウェアラブル型のカメラとディスプレイを装着し、入場門を通り過ぎる社員の顔認証をリアルタイムで実施するシステム(屋外かつ、広帯域・低遅延が求められる)
・某大手自動車メーカーの工場内システム:頻繁に組み換えがある生産設備のネットワーク化を5G無線により実現するもの(広帯域・低遅延・安全(クローズド)が求められる)

の2つであった。
またこれらの他に5Gでよく言われるユースケースとしては、建設の重機などの遠隔操作、遠隔医療等が挙げられる。
5G、本当に使いたい人はいるのか?ということは気になるところだが(同BoFでも突っ込んで質問してしまった)、使いたいと思っている人はいる、ということらしい。

過去の経緯(地域BWA)

ここで参考までに、過去の経緯というものも挙げておく。
総務省が2008年から推進している地域BWA(Broadband Wireless Access)という制度がある。これは地域内での情報流通を促進することを目的に、LTE(開始当初はWiMAX)による地域型の無線ネットワークを構築できる、というもの。
地域BWAは、ライセンスバンドで設備が高価という点でローカル5Gととても良く似ている。そして残念ながらこれはそれほど普及していない(実施者が少ない)。(なお自営BWA、プライベートLTEなども詳細は省くが特性としてはほぼ同じものと考えて良い。)

ローカル5Gは来るのか?どう使える?

JANOG44のローカル5G BoFでは、ローカル5G(閉域RAN)来るの?という議論がなされたが、結局の所、上で述べたような5Gの特徴を活かした使い方でなければ成立しないということだろう。例えば、要件(用途)として室内でOKということであればWi-Fiでいいじゃん、ということになるのだ。

現時点で、コスト高などの障壁を乗り越えてでもローカル5G(閉域RAN)を使いたいと考える事業者はすでに独力で(PoC的であろうと思われるが)設備を整え運用を開始している、ということなのだろう。そしてその障壁を超えられない多くの人にとっては、ローカル5G(閉域RAN)は使えない、何のためにあるのかわからない、という具合に映るのだろう。

これは私見だが、おそらくこのままでは、(地域BWAと同じく)使い勝手が悪くてあんまり使えないということになってしまいそうに思える。もちろん総務省はそれを認識しているそうで、免許制度のあり方などについてはどんどん提言してほしいというスタンスだそうだ。しかしながら制度上の問題の他に、基地局や端末のコストという経済上の観点からくる問題もある。

さくらインターネット研究所ビジョンとローカル5G

さくらインターネット研究所ビジョンでは、今後5年から10年スパンで、既存の超大規模データセンターの他に、国内数カ所(政令指定都市レベル)に中規模データセンター、また各都市レベルで小規模データセンターが設置されて分散システム化が進む、という想定を描いている。これは、遅延や消費電力制約と求められるコンピュータ・ストレージリソースの兼ね合いからこのようなシステムアーキが必要になるのではないかという分析のもとに想定したものである。

このビジョンでは、性能指標や具体的な実現手段については紙面の関係もありあまり具体的に記述していないが、内々での議論として、中規模データセンターで20msec、小規模データセンターで2msecの応答性能、という目安がある(この数値について公にするのはここが初めてかも...)。

この小規模データセンターで2msecの応答遅延について、ネットワーク部分の実現方法の一つとしてローカル5Gは一つの手段になりえるかもしれない。低遅延でクローズドなネットワーク、という特徴がぴったりハマるからだ。一方で、現状のままの高コストシステム(費用や免許申請手数の両面で)であれば現実にはワークしないシナリオであろう。

なので、今後も(ローカル)5Gの動向は継続してチェックしていきたい。特に上述の通り低コストにローカル5Gを実現するための、コア機能ソフトウェアの状況や基地局ハードウェアの低価格化動向、またモバイル網の特徴的な管理機能(課金、認証、監視)などがどのように使えるか、既存のシステム・ソフトウエア資産とどのように組み合わせ可能になるか、などである。これらが、5Gの導入障壁を下げ、メリットを高めていくだろう。それはこれからどれくらい進むだろうか。

上述のBoFでは、ユーザレベルでローカル5Gをお試ししていこう(自宅で5G)、という話も出て盛り上がっていた。そのような、(グローバル)キャリア主導ではない5Gについて、可能な範囲でコミットしていきたい。それこそが、さくららしい、というものではないかと考えている。

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