縮地

"天命"を退け、ついに頂点に立った陰の男に、民衆は感動し、称賛した。
「誰の挑戦でも受ける」
そう彼が語った直後に挑戦を表明したのは、毒蛇だった。

そして陰の男は毒蛇に敗れた。
頂点到達後、わずか5日のことだった。

陰の男は声高に叫んだ。
「これは不当だ。俺は疲れていたのに毒蛇と戦わされた。万全ではなかった。だからもう一回、もう一回毒蛇と戦わせろ!」

毎週毎週、彼は"One more match"を叫んだ。


専門家を雇い、弁護士をたて、ありとあらゆる手をつかい、One more matchを叫んだ。

彼は毒蛇を陰湿な手段で追い詰め、毒蛇の顔にツバを吐いた。


毒蛇は怒り、ついに彼との再戦を認めた。

だが"天命"に挑んだ時とは違い、陰の男を応援する者は、誰もいなかった。

×××


感情の一部が欠落しているというのは不幸なことなのでしょうか。

それとも幸運なことなのでしょうか。

殺人も厭わない秘密主義の向こう側には一体何があるのでしょうか。

教師という仕事は大変なのでしょうか。


×××


悪の教典を読んで私が感じたことは例えば“恐ろしい”とか“狂気じみてる”といったことではない。

“羨ましい”だ。

羨ましい・・・こんなにモテるのかよ。教師になればよかった・・・人生間違えた・・・

スクールウォーズを観て、山下真司を好きになったり、GTOを読んで鬼塚英吉に感動した日々が、人並みに私もあったわけだが、決して“羨ましい”なんて思わなかった。

むしろ手に負えないような不良と真っ向からぶつからないといけない教師なんてものは、私にとってホワイトカラーなんかではなく、限りなくブラックだった。

教師にだけはなりたくない、とさえ思った。


しかし、この蓮実聖司という男はいったいなんだ。うらやまけしからん。


生徒をいのままに操り、自分の王国をつくるのはどれだけ快感なのだろう。

あるいは、絶世の美人女子高生を心酔させ、自分好みの従順なペットとして夜な夜な調教していくというのは、どれだけの気持ち良さなのだろう。

蓮実先生は“卓越したプレゼンテーションと二枚目のルックスがあればマインドコントロールなど簡単だ”と言っていた。

非常に残念なことに、私は両方とも持ち合わせていない。


×××

小学生の頃通っていた進学塾で同じクラスだった天野広子は、男子生徒の憧れの的で、マドンナ的存在であった。

彼女は天真爛漫で、リーダーシップがあり、信頼も羨望も一身に集めていたように思う。

それから6年後、大学生になった私は、運命の悪戯か、はたまた偶然の確率か、天野広子の小学校時代の親友の女の子と付き合うことになった。


偶然の確率である。


当然期せずして、天野広子にも再会することとなったわけだが、その際彼女の口から発せられた自身の恋愛遍歴は、私に衝撃を与えたのだった。


『高校生の頃、担任の30歳の先生と付き合った。屋上でキスとか放課後の保健室でイチャイチャとか、漫画やドラマでありそうなことはやった。車で毎日送り迎えしてもらってたし、宿直の日は一緒に泊まった。ラブホにも制服で行ったし教室でもヤッた』

それを聞いた私の足下はぐらつき、静かに目の前が暗転していくのがわかった。

クラスの憧れの的だった天野さんが・・・マドンナだった天野さんが・・・あんなに優しかった天野さんが・・・

小学校時代の数少ない大切な私の思い出が・・・


血も涙もない公務員に凌辱されてしまった\(^o^)/

あるんだ。
実際にイケメン教師はクラスの美少女とヤってるのだ。
AVみたいに。現実に。リアルに。

私たち、常識と理性の壁をどうにか乗り越えたライオンになりたいシマウマが、“奥手”“経験不足”というハードルに四苦八苦している間に、あろうことか開き直った既婚イケメンモラルハザード公務員たちが女子高生たちを食い散らかしている現実。

なんたる不条理。

世界のHIV陽性者の推定数は3300万人。

日本では約1万7000人。

1日にエイズによって命を奪われている人数は約6000人。

同性愛者は世界の人口の約10%、6億7000万人。

世界の男性の人口は約32億8500万人。
女性は約32億3200万人。

世界における愛の数

世界の中で愛しあう人々の数

美人女子高生が1年で男性教諭にフェラチオをすることができる日数

365日。

×××


小学生の頃から仲良く遊んでくれた友達が事故で亡くなってしまった。

なんだか最近、私の周囲は目まぐるしく動く。

結婚をしたり、子供の誕生を喜ぶ同級生の数がとても増えた。

反面、事故で亡くなったり、病気で亡くなったりする同級生の数も増えた。

なんだかまるで、人生なんてものは、つきつめれば“結婚”か“死”の2つの選択肢しか用意されていない気がする。

そしてなんとなくではあるが、次に死んでしまうのは私であるような気がする。


「大丈夫だよ。松岡さんは運がいいから」

「そうだね。僕らは意外と死なないかもしれない」

「しかしもう死んでもおかしくないくらい何もないね。やっぱり次に死ぬのは僕だな」

「そんなことないよ。ディケンズは運がいいから」


私とディケンズは今日もガールズバーで、互いに生きることを誓い合ったのだった。


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