詐欺に遭ったのに警察に届け出を受けてもらえない方のために元刑事がアドバイスします

詐欺って、卑怯ですよね。
刑法や特別法で定められた数ある犯罪の中でも特に卑怯な犯罪です。
だって、信じていた人を騙すのですから。
それなのに、困った末に最後の助けだと勇気を振り絞って警察署に駆け込んでも
事件にするのは難しいですね
とか
詐欺としての証拠が足りませんね
なんて言われて門前払い…
これじゃあ「あとは誰が助けてくれるって言うんだ!」と嘆きたくなりますよね。

この記事では、卑怯な詐欺の被害に遭った方が警察で届け出を受けてもらえるための方法を、元刑事の筆者が分かりやすくガイドしていきます。

みなさんの悔しい思いを少しでも晴らせるお手伝いができれば幸いです。

※2019年5月17日追記

私のnoteとしては初作だった本記事ですが、先日、3,000viewを超えました。

たくさんの方に読んでいただき光栄に感じるとともに、詐欺被害で困っている方が多いという現実が心苦しくもあります。

これを機に、内容の一部を有料化させていただきます。

とはいっても無料公開していた部分は無料のままで「ちょっと書きすぎだよね」と感じる追記部分だけの有料化です。(つまり、95%は無料)

タイトルでお伝えしている「詐欺被害を警察に受理させる方法」は無料部分で十分にお伝えしているので、その先に興味がわいた方はぜひ有料部分もご覧ください。

1 『詐欺』とはどんな犯罪なのかを知る

筆者はとある地方の警察署に勤めていた刑事でした。

ここで誤解している方が多い『警察官』と『刑事』の違いに軽く触れておきます。

警察官とはみなさんご存知の都道府県に採用されて厳しい訓練を受けてきたポリスメンたち全般を指す言葉。

一方の刑事とは、警察官の中でも刑事部門のお仕事を担当している人のことです。

警察署の刑事課にいたり、警察本部の刑事部にいる警察官は、みんな刑事になるわけですね。

刑事=出世とか上級職みたいなイメージを持っている人がいますが、みなさんが働く職場にも営業課があったり経理課があったりするはず。
この差と同じです。

さて、警察署でみなさんのお困りごとの相談を受け付けていると、筆者のように田舎の警察署にいても1日あたり3〜5件程度の詐欺被害の相談を受けます。

もしかしたら、都会の警察署では1日に何十件も相談を受けているかもしれませんね。

では、1日に5件の詐欺被害の相談を受けたとして、実際に『詐欺』と断定できる件数はどれくらいだと思いますか?

答えは「1件あるかないか程度」です。

驚くほどに少ないですね。

実は、警察署に「詐欺の被害に遭った」と相談に訪れる方のほとんどが、

詐欺に該当しないのに「詐欺だ!」と勘違いしている

のです。

まずは「詐欺だ」と判断する前に、自分の身に降りかかったトラブルが本当に詐欺に該当するのかを知るべきです。

わざわざ警察署にまで出向いて「こりゃあ詐欺じゃありませんよ」なんて感じの悪い警察官に鼻で笑われたら気分が悪いですからね。

はい、ここからは詐欺罪のレッスンです。

もし法学部卒で「今さらそんなことを説明されるのは苦痛だ」と思う方や、判事・検事・弁護士・現役の警察官の方々にとっては退屈な内容になるので、次項まで飛ばして頂いても構いません。

『詐欺』とは刑法第246条第1項に定められています。
さっそく、条文を読んでみましょう

人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。

ん?
なんのこっちゃ、えらくカンタンな記載ですね。

でも、このカンタンな一文が、詐欺罪の根拠です。

ではこのカンタンな一文をしっかり分解していきましょう。

まず「人を欺いて」とは、お察しのとおりで「人を騙すこと」つまりウソの話をすることです。
これを法学的には『欺罔(ぎもう)』といいます。

ウソの話を聞かされた人はどうなるか?
騙されますよね。
騙されて、その話が真実だと勘違いしてしまいます。
これを法学的には『錯誤(さくご)』といいます。

そして「財物を交付させた」とは、お金や物品を自ら差し出させることです。
これも法学的には『交付』という呼び名がついています。

このように、
・欺罔
・錯誤
・交付
詐欺罪を構成する全ての要件が揃って、はじめて『詐欺罪』が成立することになります。

ここに、警察が「詐欺じゃないんじゃないかなぁ?」と疑問を挟み込むスキがあります。

まず、犯人が言っている話が『ウソ』である必要があります。
「明日か明後日には給料が入るから」と言うからお金を貸したのに返してくれないなんてメジャーなお話も、いついつ収入の予定があるという部分がサラサラにウソである必要があります。
詐欺を働く人種は、ここにある程度の真実を織り交ぜてくるから厄介。

次に、ウソの話に騙される必要があるので「コイツ、いつもお金を貸しても返してくれないし、どうせ今回も返してくれないんだろうなぁ」なんて思って貸した場合は、実は「騙されていない」ということになります。
警察署の警察官レベルでは「いやぁ、今回も怪しいと思ってました」と説明しても問題はありませんが、これを検察官や裁判官、犯人側の弁護士の前でポロっと口にしてしまえば「被害者は錯誤に陥っていないので詐欺罪は成立しない!」なんて主張を許してしまうのでNG。

とかく、詐欺の被害者は自分がまんまと騙されたことが恥ずかしいのか、警察官に対して「自分もウソじゃないかと思ってたんですよ」なんて言い訳をしますが、私の場合は「事件として相手の責任を追及したいなら、それは2度と口にしないで」と説明していました。
それくらい、この部分は重要です。

錯誤を担保するには、被害者が被害の状況を詳しく説明する『供述調書』において

その話がウソで、最初からお金を返すつもりなんかなかったと分かっていれば、お金を渡すことはありませんでした

という供述を取って「相手の話を信用したからこそお金を渡した」という錯誤を担保します。

最後に財物の交付ですが、ここは必ずしも金品である必要はありません。
なぜなら、刑法第246条第2項に

前項の方法により、財産上不法の利益を得、または他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

と規定されているからです。
これを『二項詐欺』と呼びますが、具体的には無銭飲食や無賃乗車など、支払い義務を免れる行為がこれにあたります。(今回は二項詐欺については詳しく触れません)

交付を満たさない相談ケースが
・結婚してくれると言っていたのに、実は妻子持ちだった
・お小遣いをくれるという話で1日運転手をしてあげたのにお金をくれない
などのケースです。

特に「結婚してくれるって言ってたのに!」は代表的な話で「結婚する=財物」とはならないので、ソイツは単なるウソつきであって詐欺ではありません。
ただし、結婚をエサに近づいてお金を騙し取る行為は『結婚詐欺』という手口になります。
「結婚しようね」と甘い言葉をささやく相手に夢中になって、欲しがるものを次々と買い与えて貢いだとしても、物品を騙し取られたわけではないので結婚詐欺ではないんです。
ココ、勘違いしている人が多いので要注意ですね。

また「くれるはずのお金をくれない」のは法的に解釈すれ民法上の『債務不履行』にあたります。
そこにウソがまじっても詐欺罪には変身しません。

余談ですが、結婚詐欺師は「中年〜初老にかけての女性」が多いって知ってましたか?
結婚詐欺師といえば、女性に相手にされない男性が、ヒラヒラとした若い女性に騙されるようなイメージがありますよね。
実際は、妻に先立たれたり田舎でヨメさんのもらいてもなく独身を貫いている中高年の男性が、同年代より少し年下くらいの女性に騙されて被害に遭うというケースのほうが多数。
これ、飲み会の小話にどうぞ(笑)。

さて、ざっくりと「詐欺罪とはなにか?」をどこにでも書いているような説明で進めてきましたが、あまりヨソでは触れていない部分についてもお話ししておきましょう。

警察が詐欺罪を立件する際に必ず証明すること。
それは

返済する意思も能力もない

という点です。

先ほど説明したように、詐欺をはたらく人は欺罔の部分で必ずと言ってもいいほど「ちょっとホントの話」を織り交ぜてきます。
「遺産が手に入る予定」というウソくさい話も、よくよく調べたら「まぁそんな話もあるけど、ハッキリはしない」なんてパターンが大半です。

こんな言い訳が捜査で証明されてしまうと、警察や検察官としては非常に厄介。

そこで登場するのが「返済の意思・能力」です。

たとえ金策のためにウソとも本当ともいえないような話をもちかけたとしても「返すつもりなんて最初からない、返そうにも返すお金なんてない」ということを立証すれば、ウソとも本当とも言えない話は『ウソ』になる、という仕組みです。

そのために、警察は詐欺の犯人の経済能力を調べます。
預金口座にいつ、いくらくらいの入金があるのか?
毎月、何にいくらくらいの出費があるのか?
収入と支出を比較して、どれくらいの経済能力があるのかを過去数年にさかのぼって詳しく分析し「たとえばその話が本当だったとしても、お金を返すことができる状態ではなかった」ことを立証します。

と、ここまでは「詐欺とはどんな犯罪なのか?」を難しい法学の知識がなくても理解できるようにサラッと説明しました。

ここまでは予備知識ですが、もしここまでで「あれ?じゃあ自分の場合って、詐欺にならないじゃん?」と思った方も、もうちょっと読み進めてください。

2 詐欺の被害を受けたらまずすること

もし詐欺の被害を受けたら、その後にどんな方法で責任を追及するにせよ、やることはあまり変わりません。

まずなによりも優先すべきは証拠の保全です。

・犯人と交わした書類(借用書・領収書・念書など)
・通話履歴やメッセージのやり取り

などはもはや説明不要の証拠物件ですね。

書類などは指紋の検出や筆跡鑑定などに使用することがあるので、ジッパー式のビニール袋に入れて保管しましょう。
ビニール袋は薄手だと皮脂が透過して指紋が重なるおそれがあるので、できるだけ厚手のものを選んでください。

通話履歴は後の連絡などで上書きされ消去されてしまうので、スクリーンショットなどで保存します。
機種やOSの仕様によっては、一覧状態では詳しい時刻が表示されていなかったり、日付が「昨日」や「3日前」になっていることがありますが、それでは「いつ」なのかが分からないので、必ず詳細画面も保存しましょう。

メッセージ類は、特に腹がたつと忌々しく感じて消去しがちですが、メッセージ類を消去してしまうと非常に面倒です。
特にコミュニケーションツールとしてメッセージ機能が浸透している現代では「メールの内容を信じて騙された」というケースも珍しくありません。
「メッセージの内容が重要」という場合には、特にメッセージ類の保管を徹底してください。

通話履歴もメッセージも、警察はカンタンに調べることができるんでしょ?消去しちゃったからそっちで調べてよ」という方がいますが、これは大きな間違いです。

まず「通話履歴」とは、実際のところは『料金明細』という形で通信会社から差し押さえる必要があります。

照会に対する回答ではなく『差押え』でしか入手できないため、裁判所で令状を得るなど、時間も手間もかかります。
しかも差押えで手に入るのは『料金明細』ですから、料金がかかっていない履歴、つまり『相手からの着信』は、さらにその相手の料金明細も差し押さえる必要があります。
こんな基本的な部分の情報収集に時間と手間を割いていると、解決までにひどく時間がかかってしまいます。

また、Eメールは差押えによっても入手不可、LINEなどのチャットツールも数ヶ月間しかデータが保管されていないなど、差押えも万能ではありません。

「記録は必ず保存する」

これは基本中の基本だと心得ておいてください。

被害者の方が忘れがちなのが原資の証拠です。
ここ、被害者の方がキチンと用意できているといないとでは大きな差があるので、しっかりと押さえておいてください。

原資の証拠とは、つまり詐欺の被害によって失われた金品の存在を証明する資料のことです。

なんでそんなものが必要なのか疑問を感じるかも知れないので、ちょっと想定問題を出してみましょう。

被害者Aさんは、犯人のBに「交通事故を起こしてしまい、賠償金を支払わないといけない。保険金がおりたら全額返済するので100万円を貸して欲しい。」と言われた。AさんはBを信用し、手助けをしたい一心で、自宅のリフォーム資金として定期預金を解約し自宅の金庫に保管していた現金100万円をBに手渡した。この時、Bのことを信用していたので借用書などは交わさなかった。1ヶ月後、自宅のリフォーム工事を契約するために必要なのでBに返済を求めたが、Bは「まだ保険金がおりていない」と言い訳をし、返済を延ばした。いつまで待ってもBからの返済はなく、Aさんからの連絡にも応じなくなったので、Bの近親者に訪ねたところ「交通事故の話など聞いていない」と言われて、Bの話が嘘だと判った。

『超』がつくほどにありがちな詐欺パターンですが、もし警察に詐欺の被害を届け出た場合に必ず求められるのが

「あなたが100万円を持っていたという証拠」

です。

この想定では、
・定期預金を解約
・解約した払戻金を自宅金庫で保管
というパターンなので、
・定期預金解約申込書の控え
・解約の流れが記録された預金通帳
・解約された払戻金が振り込まれた普通預金口座の通帳
・普通預金口座から払い戻した際の控
・金庫内の保管金の入出金を示す帳簿

などが「あなたが100万円を持っていた」という証拠になります。

想定問題のようなパターンなら、ある程度の書類が残っているはずだし、もし手元になかったり紛失していたとしても、警察が金融機関に照会すれば分かることなので大した問題はありません。

問題となるのは原資の証拠がない場合。

たとえば、先ほどの想定問題と同じパターンでも、原資が「貯金箱に毎日500円をコツコツと5年間貯め続けた100万円」になれば、話は大きく変わってきます。

もし、貯金箱に500円を入れるたびに帳簿に記録していれば別ですが、まずそんなことをしている人はいないと思うので、実際のところは「いくらあったのか、証明することはできない」ですよね。
こんなパターンのことを『タンス貯金』と呼んだりしますが、ハッキリ言って原資の証拠という面では最弱です。

では、被害金の原資がタンス預金の場合には犯人を詐欺として追及できなくなるのかといえば、それは違います。

そもそも、みなさんは証拠についておそらく誤解をしています。
証拠とは、なにも「人を刺し殺した包丁」や「空き巣に入るために使ったドライバー」のような『物』である必要はありません。

被害者が「こんな状況で、こんな被害に遭いました」と説明し、これを裁判官・検察官・警察官が供述調書として録取したものも証拠になります。

ただし、警察官が録取した供述調書を裁判で証拠として認定するには
・公判の時点で死亡、心身の故障、所在不明などの要因で出廷できない
・その内容が犯罪の存否を大きく左右するものである
・その供述が特に信用すべき情況においてなされている
という厳しい条件があります。

とはいえ、もし原資の証拠がない場合でも、まずは入り口となる警察で「こんな被害に遭いました」と説明する詳しい供述調書を作成してもらうことができて、その供述調書が裁判で認められれば『物』ではなくても証拠になります

よく個人間のお金の貸し借りがトラブルに発展した時に「借用書がないと無効」だとか「証人がいないから裁判をしても決着がつかない」なんて理屈を言っている人がいますが、

・物証がないとお金を騙し取られたと主張できない・第三者の後ろ盾がないと被害を証明できない

なんて世の中であっていいはずはありません。
「こんな出来事がありました」と誠実に語られるエピソードこそが真実であり、証拠となるのです。

2-1 被害を届け出る場所はどこ?

詐欺の被害を受けてまずべき場所は警察署です。

「なにを当たり前のことを」と思っている方がほとんどだと思いますが、私があえて『警察署』と言っているには理由があります。

みなさんは、警察署交番の関係が分かりますか?

警察署は、その管轄に1つだけの大きな庁舎です。
署長、副署長を筆頭に、
・警務課または総務課
・会計課
・地域課
・交通課
・刑事課
・生活安全課
・警備課
・留置管理課
があって、各課に専門知識を持った警察官が配置されています。

もう一方の交番は、1つの警察署の管内で細分化されたエリアを受け持つ出先機関です。
交番の勤務員は地域課の警察官で、街のパトロールや交通取締りなどを担当する『お巡りさん』です。

組織図化するとこんなカンジ。

出典:岩手県北上警察署のホームページ

もし、みなさんの自宅の近くに交番や駐在所があれば、そちらに出向いて詐欺被害の届出をしようと考えませんか?

実は、交番に配置されている地域警察官の多くが、詐欺事件の届出を受けるスキルを持っていません
どうかすれば、内容を聞いても詐欺か詐欺ではないかを正しく判別することもできない警察官ばかりです。

決して交番に勤務している地域警察官を小馬鹿にしているのではなく、詐欺という犯罪が専門的過ぎるのです。

詐欺被害の届出は、必ず知能犯罪の捜査に専従している刑事が勤務している警察署でおこないましょう。

交番の地域警察官に相談しても「こんな相談がありました」という報告書類を作って地域課の決裁を済ませた後に刑事課に渡り、そこからやっと専門員の刑事が目を通すことになります。
その間のスピードは、早くても翌朝。
交番の勤務員は3日に一回の勤務なので、その勤務員が別件などで書類が作られない事態などがあれば、刑事課への伝達は3日後になることもあります。

こんなロスタイムを生むくらいなら、最初から警察署を訪ねるほうがはるかに賢明です。

2−2 警察ならどこでもOK?

最近では行政もある程度のサービスを心得てきているので、詐欺被害の届出も「警察ならどこでもいいんじゃない?」と考えるかも知れませんね。

ところが、警察の事件捜査には『管轄』が強く関係しており、たとえばある場所で起きた事件はその場所を管轄している警察署のみが担当するという基本ルールがあります。

隣接する管轄の警察署に届出をしようとしても「発生地を管轄する警察署に届出をしてください」と断られてしまいます。

では、詐欺事件の『発生地』とはどこになるのでしょうか?

答えは『騙された場所』になります。

どんな事件でも発生地を特定することは非常に重要ですが、詐欺事件は『騙された場所』と『金銭を交付した場所』の最低2カ所が登場するため、混乱しがちです。

騙された場所、お金を振り込んだ場所、お金を手渡した場所など、結局は全て特定することにはなりますが、まずは発生地として騙された場所をはっきりと特定しておくこと。
これ、大事なので整理しておきましょう。

3 警察は被害届を受けたがらない?

ヤフー知恵袋などを見ると「警察が詐欺の被害届を受けてくれない」などといった相談が目立ちます。
この点、特に根拠もなく「警察は被害届をうけたがらないので」などと回答している方がいますが、あまり無責任な発言に振り回されるのは賢明ではありません。

では「警察は被害届をうけたがらない」という噂はどうなのか?

実際のところ、警察は「被害届を受けたくない」と思っています。

理由は3つあります。

理由① 統計上の数字の問題

報道などで「本年は犯罪の発生件数が増えた」などの情報が報じられるのを目にしたことがあるでしょう。

警察官が被害届を受けて、警察署が管理番号を振り分けた時点で、発生件数1件としてカウントされます。

警察署の方針として「今年は件数を抑える」と打ち立てていると、被害届を受けずに丸め込もうとすることがあります。

どう考えてもバカバカしい、警察内部の事情ですね。
こんなことをしているから、年末に「今年の犯罪発生件数は…」という報道は茶番に感じられます。

理由② 捜査が面倒

これを言ってしまっては終わりなんですが、詐欺事件の捜査は本当に面倒です。

どのくらいの捜査量になるかというと、ごく単純な「これこれで必要なのでお金を貸して」と言われてお金を貸したという寸尺詐欺事件でも、すべての書類をまとめたら最低でも缶コーヒーの高さと同じくらいの量になります。

限られた捜査員の人数で、多発する詐欺事件を丁寧に捜査することは物理的に不可能です。

では放置するのかというと、どんなに横着な警察官でもそんなことはしません。

そこで、警察官が民事的解決の橋渡し役になるという解決方法がとられることがあります。

たとえば「お金を貸した相手と連絡が取れないので、詐欺の被害届を出したい」という相談であれば、警察官が連絡を取ってみて、事情を尋ねたりします。

「民事不介入では?」と思うかもしれませんがんが、あくまでも警察官は「詐欺事件のおそれがあるため、相手に確認を取る」という立場を維持しつつ、真に事件になる内容であれば事件化を検討します。

警察官の立場としては、相手に

・◯◯さん(相談者)は「詐欺じゃないだろうか?」と不安になっていますよ・あなたも解決に向かう気持ちがあれば連絡に応じてはいかがですか?

と水を向けて、相談者の多くが望む「金銭的な被害を回復したい」という希望を叶えます。

被害届とは「私を犯罪被害に遭わせた犯人に一矢報いたい」と願う被害者の想いが込められた書類です。(厳密には処罰意思の表れではなく、単なる被害の申告ではありますが)
詐欺被害の解決が「お金さえ返ってくれば良い」と考えている方には、被害届は本来的に不向きです。
だって、

お金に替えられない雪辱が刑罰

なのですからね。

理由③ 詐欺の被害届を取るスキルがない

おそらく、この理由③が巷で「警察官は詐欺の被害届を受けてくれない」と言われている最大の理由です。

恐ろしい話ですが、現職警察官の9割以上が自分で判断して詐欺の被害届を受理するスキルを持っていません
アンケートや統計などを基礎にしたわけではないので筆者の体感的な割合いですが、もし正確な統計を取ればこの割合いが間違いない数値であると証明されるはずです。

まず、知能犯捜査の経験がない警察官には、目の前の相談が「詐欺なのか?詐欺ではないのか?」を正しく判断することができません。

警察官の中にも、明らかな民事上の債務不履行を「詐欺だ!」と騒ぎ立てる人がいるくらいです。

加えて、詐欺の被害届は「はい、じゃあこの書類にサインしてハンコついてね〜」みたいにカンタンには出来上がりません。
犯人との関係、被害の経緯、証拠書類の提出、供述や提出を受けた書類に対して警察が関係各所に照会した資料などを詳しく精査して、被害者の供述調書を作成できるレベルまで捜査が進展しないと被害届は受理できません。

「そんなめんどくさいことを言わないでよ」と感じるのはごもっともですが、被害者の申し立てだけの『言いっぱなし』で被害届を受けて、もし重要な齟齬があれば、刑事裁判で相手の弁護士に突かれてしまう弱点になり得ます。

そこまでやっての被害届ですが、被害者の方には何度か警察署に足を運んでもらったり、刑事がご自宅にお邪魔しながら、やっと1本の調書が出来上がるのですから、時間がかかるんですよね。

こんな調子なものだから、詐欺の被害者が訪ねてきても「いま専門の人がいないから」と門前払いをしたり、稚拙な法学知識で「それは詐欺にならないね」なんて追い返したりする警察官がたくさんいるんです。

3-1 結局、警察は詐欺の被害届を受けたがらない!

いろいろな理由を挙げてはみましたが、結局のところ、警察は詐欺の被害届を受けたがらないということは事実です。

・できれば受けたくない
・話の弱点をついて、諦めさせたい

こんなことばかりを考えているから「詐欺の被害届を出したい」と言って訪れた相談者の話を聞いて上司に報告しても「被害届は受けませんでした」と報告するほうが褒められたりします。

市民生活の中で、詐欺の犯人を追い詰めるための唯一の窓口となる警察がこの体制。
これでは、いつまで経っても卑劣な詐欺の被害に遭った方が報われることはありませんね。

4 警察で被害届を確実に受けてもらう方法

警察で詐欺の被害届を確実に受けてもらうにあたって、絶対に確認しておくことがあります。
それは、

詐欺罪に該当するのが明らかであること

です。

前述のとおり、警察は基本的に「被害届を受けたくない」組織です。
暴力団絡みの事件でもないかぎり「ぜひ事件化しましょう!」なんてことにはなりません。

だから、まずは「警察の言い訳を潰すこと」を考えなければいけません。
本来はそれも含めて警察の仕事ではありますが、はっきり言って、任せてもロクなことになりません。

ざっくりとチェックすると、ポイントは以下の3点です。

①時効(7年を経過していないこと)
②金品を渡した理由が「嘘に騙された」ためであること
③単なる「貸借」ではないこと

②と③は一番最初の詐欺罪の概要で説明したとおりですが、問題は①の「時効」です

詐欺罪の時効は7年です。
発生から7年が経過してしまうと、検察官が公訴を提起することができません。
「時効」とは「公訴を提起するためのタイムリミット」ですからね。

まれに7年を過ぎた事件でも「これまでの7年間、毎日のように相手に返済を迫っているが返してくれない」と言って相談する方がいますが、事件の発生から7年が経過してしまえば時効が完成してしまいます。

また、詐欺事件の捜査は非常に手間がかかります。

半年、1年なんて当たり前のようにかかるので、6年前の事件なんかを持ち込んでも「間に合わない」という理由でお断りされてしまいます。

この点をクリアしていれば、まずは第一関門突破です。

プラン①「お金を返して欲しいんじゃない!処罰して欲しいんです!」作戦

詐欺事件の被害者、というか金銭トラブルの当事者は第一目的が「確実に返済を受けたい」ということでしょう。

でも、この目的で警察に相談するのは間違っています。

だって、それは弁護士のお仕事だから。

「何をそんな冷たいことを!」と思うかもしれませんが、これは例えば税務所の窓口を訪ねて「家が火事だからすぐに消してくれ!」と言うようなものです。

では、警察に「ウチの仕事だ」と思わせるためにはどうすればよいのか?

それは「お金を取り返したい!」ということを第一目的とせずに「犯人を処罰して欲しいんです!」とアピールしましょう。

このアピールによって「どうせお金を取り返したいって言うんでしょ?」という見方から「おやおや?これは事件だぞ…」という見方に変わります。

プラン② 「事件にしてくれないなら…」と脅す作戦

プラン①でも腰が重い警察官が相手だったとすれば、次の作戦は「脅し」です。

事件化をしぶる警察官に最も効く脅しはコレ。

監察課に相談したほうが良いんですかね?

説明しましょう。

『監察課』とは、各都道府県警察の本部に置かれている、警察内部を見張る部署です。

「どうせ内々のことでしょ?」なんて甘く見る方も多いでしょうが、監察課はマジで手加減なしです。

ちょっとしたプライベートのトラブルでも、監察課まで話が上ればちょっとシャレにならない事態に発展します。

まして、犯罪であることが明らかなのに事件化をしぶったなんて話が打ち上ろうものなら、あとで警察署長から思いっきりドヤされた挙句に、期限付きで事件を終結させるように命令されてしまうという事態になります。

「ほかの事件はあとでいいから、まずコレをやれ!」ってことですね。

警察官、特に事件捜査を抱えている刑事にとっては、この命令は激痛を伴います。

しかも、監察事案に発展するということはそれなりの不祥事ですから、身上にも響きます。

「監察に相談します」は、警察官相手の最強呪文かもしれません。

よく似た慣用で「署長に言うぞ」と言う人がいますが、これは全くの効果なしです。

「知り合いの警察官にお偉いさんがいるから言うぞ」も全くダメです。

この2つは、自分が恥をかくことになるのでやめておきましょう。

また「公安委員会に言うぞ」という慣用も間違いです。

公安委員会は警察を監督する機関ですが、個々の事件や職務執行には口を出しません。

プラン③ 「告訴状を提出します」作戦

「告訴」とは、刑事訴訟法第230条の規定に則って、犯罪の被害者が、捜査機関に対して犯人の処罰を求める行為です。

劇的にカンタンな言い方をすれば「あいつが犯人だから捕まえて懲らしめてくれ!」という手続きです。

「ん?被害届と何が違うの?」と思うでしょう?

被害届は「私はこんな被害に遭いました」という申告の書類です。

だから「あいつが犯人だから、捕まえて懲らしめて欲しい」という意思表示は含まれていないのです。

と、ここまではどこのサイトをみても書いてあるようなことですが、事件処理をする刑事にとって「告訴」と「被害届」は重みが激しく異なります。

ぶっちゃけた話、警察官が「告訴はイヤだな…」と感じる理由は次のとおり。

・明らかに犯罪が成立しない内容でない限り「告訴」と言われると事件化を拒めない
・原則、3か月以内に事件処理を終わらせて送致しなくてはならない
・相談から受理または不受理までの結論をおおむね1か月以内に決定しなくてはならない

まだまだありますよ、イヤなところ。

・受理前を含めて、全ての事件を本部で一括管理される
・たとえ被害者が取り下げても捜査を遂げて送致する必要があるため、お蔵入りが許されない
・大体、告訴という手続きが不慣れすぎてよくわからない
・下手に不受理にすると国家賠償事案に発展する

おそらくですが、警察官の人口全体のうち、告訴に関わった経験を持って退職する人数は、全体の1割にも満たないはずです。

「告訴したい」という人が来ただけで、窓口では警察官同士のなすりあいが始まります。

告訴が「対:警察用の手続き」として最強であるのは、犯罪であることが明らかな場合は必ず受理しなくてはならないという規則があるからです。

告訴を使えば、犯罪に該当しないとか、時効が完成しているとかでもない限り、有無を言わさず事件化が確定します。

一応、告訴のデメリットも確認しておきましょう。

まず、告訴をする場合には「告訴状の提出」が望ましいため、告訴状を作成するコストがかかります。

ここで法学をかじった方なら「告訴は口頭でも可能だろ?」とおっしゃるでしょう。

確かに、刑事訴訟法の定めによれば、告訴は口頭でも可能です。

ただし、詐欺事件の内容について証拠も含めて被害者が口頭で説明することも、それを対面で供述調書に録取することも、現実的には困難です。

インターネットの記事を参考に、詐欺事件の告訴状を自作するのは現実的ではありません。

なぜなら、自作した告訴状は主観が多分に含まれているからです。

公文書に準じた書類作成をするだけでも難しいのに、主観を取り除いて「なぜこれが詐欺になるのか?」を説明する文章なんて書けません。

どうしても、悔しくてたまらない部分を強調してしまうので、告訴状のつもりがただの悪口みたいになってしまうのです。

告訴状の作成は、弁護士・行政書士・司法書士に依頼すれば可能ですが、事務所の価格設定や事案の複雑さに応じて、最安でも10万円程度、高ければ相談費用を含めて30~50万円近くになることも。

インターネットの記事を見ながら、あれこれと考えて自作するくらいなら、出費を覚悟のうえで士業の事務所を訪ねるか、またはごくごく簡単な告訴状を作成することをオススメします。

簡単な告訴状は、実は詐欺や横領のように経緯が複雑ではない事件ではよく利用されています。

たとえば器物損壊。

器物損壊は、犯人の処罰のためには告訴が必要となる『親告罪』であるため「いつ、どこで、だれが、だれによって、〇〇を壊されました」程度の定型文のような告訴状を提出してもらう場合があります。

これを真似て、詐欺罪の犯罪事実に当てはまるように

いつ、どこで、だれに、どのような嘘を言われて信じてしまい、いつ、どこで、だれにお金を渡して、詐欺の被害に遭いました。犯人は〇〇さんです。許せないので処罰してください。

という程度の文章にして、宛名(〇〇警察署長殿)・作成日・住所氏名・押印を加えて提出してみましょう。

担当の警察官にしてみれば「こんな内容で!?」と思うこと必至ですが、しかし「内容が足りない」と一蹴できるものでもないので、受理検討事案にするしかありません。

受理検討にして捜査を始めれば、詐欺事件として成立することがわかるはずなので、今さら不受理にはできません。

おそらく、実際に告訴状を提出するのであれば、これが最もシンプルで、成功率が高い方法でしょう。

まあ、ほとんどの場合は「告訴します」と言った段階で、事件に対して真剣に立ち向かう姿勢があると評価される(つまり、警察官はいい加減な対応ができない)ので、実際に告訴状を提出せずとも被害届受理の方向に話が進むはずです。

だって、告訴状を提出されて縛りを受けながら捜査するくらいなら、被害届を受理して捜査したほうが余裕があってラクですから。

もう一点、告訴にデメリットあるとすれば、示談がまとまらないおそれが大であることです。

もし犯人といまだ会話ができる状態であれば、告訴すると言われれば「お金を払うから勘弁してください」となるはずです。(告訴という手続きを知っていればですが…)

ところが、実際に告訴状が受理されてしまうと、途中で示談が成立したとしても、たとえ告訴を取り下げをしたとしても、必ず検察庁に送致されます

さすがに示談が成立していれば検察官が起訴することは考えられませんが、警察には前歴として記録が残ります。

被疑者としての前歴保有になるため、警察署に呼ばれて顔写真や指紋の採取も受けることになります。

犯人としては、高い示談金を支払うのに、刑罰を回避できたとしてもそれなりの屈辱を受けることになります。

こうなってしまうと、示談なんてまとまらないでしょうね。

犯人にお金を返済させるための、ある種の交渉術として脅しをかけるには、告訴は不向きです。

なお、余談ですが、私も警察署の刑事課員として勤務している間は、かなりの件数の告訴と向き合ってきました。

実際に受理したもの、受理検討のうえで不受理になったもの、最初から箸にも棒にも掛からぬ内容で不受理としたもの…

肌感覚の問題ですが、受理の確率は10%程度です。

「なんだよ!ダメじゃんか!」

と感じたかもしれませんが、ここで「なぜダメなのか?」を詐欺の成立条件を含めて最初から丁寧に解説したつもりです。

私自身、警察を退職して以後、知人などに頼まれて何度か告訴状を作成しましたが、けんもほろろに不受理になったことは一度もありません。

数件は実際に受理されて事件解決に向かい、数件は警察官から「被害届で受理させて欲しい」と頼まれて受理後に解決、残りは「告訴する」が効果的に響いて犯人から示談金をもらって解決しています。

告訴の破壊力は最強です。

国民が捜査を発動させられる唯一にして最強の武器ですから、ぜひ有効活用していただきたいですね。

4 まとめ

ここでは、詐欺被害に遭った方々が少しでも無念を晴らすためのお手伝いができれば…と考えて「警察に詐欺の被害届を受理させる方法」を紹介しました。

本来、こんな内容の記事に興味を持つ方がいること自体が悲しい話です。

しかし、刑事という仕事をさせて頂きながら、常日頃から

もっとやり方を変えないとダメだよ

と思っていたのに、それをなかなかアドバイスできなかったので、今回の記事を作成し、本当に困っている方の助けになることができれば…と考えました。

詐欺被害に遭ってつらい想いをしている方だけでなく、法的なアドバイスをする場面がある方、法学(特に刑事関係)を学んでいる方の参考になれば幸いです。

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