経験に勝るもの無し 初舞台編③(全③)

その5. フィナーレ

基本的にダンスの舞台のフィナーレは全員がステージに集まり、えらく楽しそうに盛り上がる。観客の私はそこでも置いてけぼりにされる感がある。ステージ上の楽しそうな彼らを観ながら、きっと私はそれを味わえる機会は無いんだな、というやっかみもあるせいだ。
でも今回、こちら側に立つことが出来、振りを間違わないようにとか気にせずにステージに立っているお気楽さもあり、「こんな感じなんだな」としみじみしながらリズムに乗っていた。これ、一度は経験できてよかった。


その6. 全て終わって

打ち上げの際、先生やメンバーに「初舞台、おめでとう!」との言葉をいただき、うれしはずかし、で「ありがとうございました」とお礼を返した。「初舞台はどうだった?」と感想を求められる。
正直、「楽しかったー、またやりたい!」とはいかない。終わったばかりなので、気持ちの整理もつかず、興奮も冷めやらないためもあり、一言では言い表せなかった。「もっとこうしたかったとか後悔というか反省もあるし、しんどかったことも含め、全体で楽しかったです」とそのとき言えることを言葉にした。

少し時間が経った今は...
自分が舞台に立った感想よりも、一番印象に残ったのは見に来てくれた友人Aの言葉だった。友人Aは学生の頃からの長い付き合いで、自分のことも周囲のことも冷静に観ていて、冷静な意見をいう人だ。そんな彼女が時々少し嘆くようにいうのは「自分は何にも興味を持てない、つまらない人間」という。そうは云っても、私は彼女と芝居を見に行くこともあれば、クリスマスには毎年イルミネーションを見に行く。たまにバスツアーも行くし、桃狩りも行く。なので、私はそんな風に自分のことをいう彼女を「どうしてだろう」と思っている。その友人が見に来てくれるというので、つまらない思いをさせたら、遠い所来てくれるのに申し訳ないな、と少し心配していた。

ところが..
終演後ロビーの人混みの中で友人Aと会えた私は、殺人的な暑さの中、見に来てくれてありがとうとお礼が言えた。でも彼女の第一声は

思いの外、感動したよ!!!

この「思いの外」という言葉はとてもリアル。そもそも彼女は私にお世辞など言わないけども、このリアルな言葉が私を感動させた。
友人が「思いの外、感動した」のは、多分、私の踊りのスキルではなく、長い付き合いで私の不器用なキャラクターを熟知したうえで、初舞台をがんばっている姿に感動したのではないかと。という彼女と長い付き合いで彼女のキャラクターを熟知している私は分析する。
それでも十分、私は嬉しかった。私の出番の3曲前ぐらいから彼女もドキドキして、親のような心境だったという。私は笑ったが、きっと私も逆の立場だったら同じように客席でドキドキ緊張したと思う。
ありがたい。これだけで私は今回、舞台に立ってよかったと思える。

その7. 経験に勝るもの無し

10年近くダンスをやっていても、人様の前で踊ってみたいというとは思わなかった。非日常的な動きをすること自体を面白がっていたし、自分の体でどこまできれいな軌道を描けるかを探りたい、ということを目的に踊っていた。
それが今回、舞台に立つに至ったのは。
いくつか理由があるうちの大きな一つは、「やったことないことをやってみる」ことを決めたから。
舞台に立つと決めてからも、嬉しいわけではなかった。実際、リハの場所が遠く、朝早いし、集団行動もしんどく感じていたので、「やっぱり私は舞台に向いてないんだ」と何度か考えた。ただ、避けてきたことにチャレンジしたという点だけは「私、やってやった!」と満足している。
そして何より、実際やってもないのに「あーだし、こーだし」と周囲から聞いた情報や想像だけで拒むのは、情けない気がした。やってみて、やっぱりしんどいからもういいやと拒むならまだしも。

実際、やってみてどうだったか。
感情的には複雑で、一言では今も言えないが、とても勉強になったのは間違いない。一番大きく変わったのは意識だと思う。リハの時、自分の動画を見て、自分の動きがこんなに小さかったんだと初めて知った。

踊りの動きが小さいのは、もう無意味というか踊りではない、ぐらいに今では思う。小さい動きで表現することがあったとしても、小さくなってしまっているのは、何も表現してない、しようともしてないんじゃないかと、これまでの私の踊りを顧みる。

テクニック以前に、腕をまっすぐ伸ばすこと、それが水平なのか垂直なのか、手の先、足の先の意識、体をどこを向けているのか方向の意識。

さらに、自分の動きが音楽よりも先走ってもいけないし、もちろん遅れてもいけない。料理でいうと、塩加減のようなもので、少し塩気が強くても足りなくてもいけない。ちょうどいい「塩梅」こそお店のプロの味だ

最後に難しかったのは顔。目線が下がってしまうのは自信無さげで素人くさい。曲によって悲しげな表情や楽しげな表情をするのも、振り付けの一部。

今回、最後の曲は笑顔がふさわしいが、難しかった。レッスンばかりをずっとやってきていたので、笑顔が要求されることが無かった。たまに先生に「顔、こわいよ!」と指摘されることはあったが。

こんなに今まで考えなかったことを考えたし、気が付かなかったことに気付けた。これも経験してこそ
そして最後に、初舞台の件でこんなに長文を書くとは思わなんだ(それでも絞り込みました)。
最後まで読んだ下さった方がいらしたら、大変おつかれさまでした。何かのお役に立てたら嬉しいです...

                               おわり

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