森の中。

私は動物だった。

驚くほど思考をしていなかった。

ただ目の前にある自然を、木を、命を感じるためだけに

目を使い、緑を映した。

耳を使い、風の音を聞いた。

鼻を使い、草のにおいを嗅いだ。

手で触って、その温度と感触を確かめた。

頭が働いていないぶん、

体が私をいろんなところに連れて行った。

見たい。聞きたい。嗅ぎたい。触りたい。

ただその欲望に心を委ねたら、体が勝手に動いた。

心が沸き立つのを感じた。

なにも怖くなかった。

何者かになりたい。と願いながら、
何者にもなりたくない。と願う矛盾を抱えた心は

そのときたしかに消えていた。

森全体が呼吸している。

私もそこで一緒に呼吸している。

それだけが全てで、それで充分だった。

私が見たのはただ一面だけで、森にはもっと怖い顔をする瞬間があるのかもしれない。

でも、だからこそもっと彼らの顔をよく見たいと思う。

未来について確かに言えることなんてなに1つないけれど

だからこそ今この瞬間、感じたことを大切にしたい。

未来の約束ができないダメ人間だけど、

今この瞬間感じていることには誰よりも素直で在りたい。

いま。いま。いま。

今しかないんだと、体に刻みこみたい。

そしてそれを身体中で感じれるのが自然なんだと思う。

だから私は森に行く。それだけ。

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