わたし

あるところに、『わたし』がいました。

わたしの体には、たくさんのわたしがいます。

目は、見ることができる。

耳は、聞くことができる。

口は、話すことができる。

目も耳も口も。

わたしの一部で、全部。

みんなそれぞれ大事な役割を持っている。

どれもたいせつな、たいせつなわたしの一部。

でもある時、彼らがこんなことを言いはじめました。

目は、『見ることができても、話すことができない。だから、わたしは口になりたい。』

口は、『話すことができても、聞くことができない。だから、わたしは耳になりたい。』

耳は、『聞くことができても、見ることができない。 だから、わたしは目になりたい。』

すると、どうでしょう。

目は、見ることをやめて、話す練習をはじめた。

口は、話すことをやめて、聞く練習をはじめた。

耳は、聞くことをやめて、見る練習をはじめた。

『わたし』は困ってしまいました。

目は見えなくなり、口は話せなくなり、耳は聞こえなくなったのです。

わたしは、目と、耳と、口に言いました。

『みんな、大事な素晴らしい役割があるんだよ。

目は、たいせつな人の笑顔を見ることができる。

耳は、たいせつな人の声を聞くことができる。

口は、たいせつな人に言葉を伝えることができる。

みんながいるから、わたしは幸せに生きていられるんだよ。

あなたができることをするだけでいいんだよ。』

それを聞いた目と耳と口は、

元どおり、自分たちの得意なこと、できることをやりはじめました。

こうして、

目は見ること。

耳は聞くこと。

口は話すこと。

を取り戻し、『わたし』は幸せに暮らしましたとさ。

言葉を綴ることで生きていきたいと思っています。 サポートしていただいた分は、お出かけしたり本を読んで感性を広げるのに使います。 私の言葉が誰かに届きますように。