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心に効くカレー

血が止まらない。

昨日の昼に舌を噛んでしまい、今日の夜になっても、だらだらと血が流れるのをガーゼで止血しながら夜の街を彷徨う。

このごろはしんどいことが続いている。

新しい仕事で四苦八苦し、不安が募る。さらに仕事で大きめの失敗をししてしまい凹んでいるところに、長期顧客からの解約の電話が鳴る。追い討ちをかけるようにこの出血。

心配してくれた同僚にも笑顔で応じられず、むしろ不機嫌な態度をとってしまい自己嫌悪に陥る。

今日も仕事がたてこみ、自炊は無理そうだと判断して、夜の町を突き進む。目指すはキッチン二郎。豚汁に野菜がたくさん入ってるからお気に入りの店だ。

ガラガラとドアを引くと、腰の低い店員さんが少し笑いながら出迎える。

「すみません、ラストオーダーなんです」

嘘でしょ!たしか前は10時まで営業していたはず。しかし、プラスチックの板にはラストは20.30の文字。

不思議なほどダメなときって続くものだ。

ガーゼを挟んだ指を手に突っ込みながら、泣きそうになって歩く。目指すはマザーインディア。大好きなカレー屋だ。量が多過ぎて、食べ過ぎてしまうから夜はあまり行かないけど、今日はもういいやと開き直った。

いつもランチで慣れた店内も、夜は子供のころ、親に連れられて来たレストランのように特別な感じだ。

早速、運ばれたマトンマサラ。口の中の血は止まらないから、もういいやと投げやりな気持ちで頬張る。

えっ、何これ!?想像の斜め上をいく超絶な美味さ!嫌なことも簡単に吹っ飛ぶようなめくるめく美味しさが口いっぱいに広がった。

そこからは夢中で食べた。

あっという間にルーを食べ終えてしまい、残るライス。

あぁもっと大事に食べれば良かった・・。正直、カレーを食べるたびに思う。というか、そう思うのわかってるから、一口一口全身で味わって、全力で楽しんでいる。それでも、毎回食べ終わるころには、もっとゆっくり、大切に食べればよかったと思ってしまう。

せめて、あと一口食べて帰りたいんだよなぁ。一口100円とかで売ってくれないかなと思っていた、その瞬間。

サッカー解説の永島さん似の濃いインド人店員が笑顔で顔を覗き込んでくる。その手には小さなカレー。

「コレ、サービスデス」

感動した。心の声が聞こえてしまったのか。それともよっぽどひもじい顔でいたのだろうか。

普段、インド人店員さんって、よくも悪くも愛想がなくて、早口で、適当で、そこが好きでもあるんだけど、こんなに暖かい人もいるんだと心が弾んだ。

びっくりするほど美味しいカレーと永島さん似のインド人店員さんの優しさで、最悪な1日が輝いた。

やっぱりカレーは最高だ。心に効く。


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