芹沢政信

作家。『天狗と狐、父になる』シリーズ好評発売中。近著『吾輩は歌って踊れる猫である』『絶…

芹沢政信

作家。『天狗と狐、父になる』シリーズ好評発売中。近著『吾輩は歌って踊れる猫である』『絶対小説』『モモちゃん』(小説の神様アンソロジー収録)講談社タイガ。『神在月の子ども』(映画ノベライズ/講談社文庫)など。群馬県在住。

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【第一話無料公開】『吾輩は歌って踊れる猫である』【講談社タイガ】

 第一話 吾輩は猫ではない 1)  敵が構えているのはライトセーバー、ぼくに渡される武器はトイレットペーパーの芯。  敗北感をひたすら味わうだけのステージをプレイしている。  そのゲームのタイトルは、人生という。    ◇  幼稚園のころ。ぼくは絵を描くのが得意で、両親もよく褒めてくれた。  だけど隣の組にいた子がプロ顔負けの精緻な花をクレヨンで描き、先生のみならず周囲の人々を驚かせた。  小学生のころ。リトルリーグに入団したぼくはチームの中で誰よりも長く練習し、六年

    • 緊急事態宣言のさなかに本を出して、思うこと【芹沢政信】

       小説家は世界の終わりをよく使う。  設定としてわかりやすくて便利だし、なによりドラマチックだから。  だけど現実に世界の終わりらしきものがやってくると、その静けさと残酷さに戸惑ってしまった。なにせ速度がゆっくりなのだ。一瞬にして地球がぽんと弾けたりすることはなく、じりじりと壁際に追い詰められている。  こんなうす気味悪い終わり方を、ぼくは小説の設定に使いたくはない。  世界の終わりはなかなか終わらない。終わらないのに終わっていく。  終わったことを実感させられながら、終わ

      • 【腐れアボカドのドープ・ショー】

        「標的の名前は腐れアボカド、見たまんま異臭を放つ黒い血袋さ。……まったくいつになれば戻ってくるのやらね、ぼくたちの神様は」  ハンジの言葉を聞いて、俺は夕暮れの空を見あげる。この世界ごと見放されたのなら、自分たちの手で連中を駆除していけばいい。命の危険こそあれど、こいつはなかなか稼げる商売なのだ。今のご時世、金さえあればなんでもできるし、なければシャワーだって浴びれやしない。かれこれ一週間はホームレスよろしく暮らしていたから、さすがに我慢の限界だった。 「側溝にカーブミラ

        • ファンタジー小話 #2

           ポーションは不味い。とてつもなく。  馬糞と煤をじっくりと煮詰めて濃縮させたような味。腐った生魚を下履きの中で半年かけて熟成させたような味。飲用を拒んで息絶えた冒険者もいるほどだから、たかが味の話とはいえ、そのままの意味で『致命的に不味い』というのは由々しき問題だ。  ――美味しくとまではいかないにせよ、せめて我慢できる程度にならないものか。  冒険者ギルドからそういった要望が寄せられたのは当然の成りゆきであり、魔法都市の学術院に所属する錬金術師たちは新しいポーションの開発

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          2本
        • いい歳したおっさんにもオススメしたいライトノベルの話
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          ファンタジー小話 #1

           路地で迷子になったって?  冒険者のくせして、ずいぶんとお間抜けな話さね。  まあまあ、ちょっくら飲んでいけや。帰り道を教えろって焦る気持ちもわかるけどよ、ここは酒場なんだから。  ……金がねえ? ははは、さては表の看板を見なかったな。  ここは〈ノーキンのやらかし亭〉つってよ。酒の肴になりそうな話があれば、ただで飲める店なんだよ。具体的にはあんたみてえな間の抜けた冒険者がやらかした、腹の底から笑える失敗談だな。路地で迷ったくらいじゃたいして面白くねえが、初回サービスってこ

          ファンタジー小話 #1

          いい歳したおっさんにもオススメしたいライトノベルの話 第二回:黒獅子城奇譚

          ファンタジーは好きですか? 私もかつてゲームアニメラノベと数多の名作に触れ、剣と魔法の世界に魅了された少年のひとりである。というより某ネトゲにどハマリし人生の階段を踏み外した結果、ラノベ作家になろうと決意したのだから筋金入りかもしれない。やあやあ、我こそはキリトなり。しかしアスナはどこにいる?  そんなわけで三十を過ぎた今でもビニール傘を持つと剣士の血が騒ぐファンタジー大好き人間ではあるものの……いざ戦場に足を踏み入れたが最後、私のような経験の浅いオタクは一撃で切り伏せられ

          いい歳したおっさんにもオススメしたいライトノベルの話 第二回:黒獅子城奇譚

          世界の終わりと風呂でう○こ漏らした話

           う○こ、漏らしたことありますか? 私はあります。よくよく考えてみると、これほど身近に破滅を味わう機会もないように思う。自宅ならばともかく公共の場でメルトダウンしようものなら社会的信用は地に落ちるし、事後処理の大変さを考えるだけで震えてしまう。あるいは大人になった今ならば笑って許してもらえるかもしれないが、これが多感な十代男女が集う閉鎖空間、学園生活の中で起こったとしたら……目の前が真っ暗になるほどの絶望を味わうはめになる。まさに世界の終わり。便意によるカタストロフだ。  

          世界の終わりと風呂でう○こ漏らした話

          いい歳したおっさんにもオススメしたいライトノベルの話 第一回:錆喰いビスコ

           ライトノベルを読もう。  と、あらためて決心したのは最近のこと。誤解を恐れずに告白すると三十代の半ばに差しかかったせいか、ついに『ラノベ読むのキツイ』病が発症してしまったのである。  だが、心配は無用だった。一口にライトノベルといっても様々で、中には若者から大人まで、果てには性別さえ問わず読者を魅了する、懐の広い作品が存在する。若いころに読めばもちろん、おっさんになってから読めばさらに楽しめる、そんな作品だって探せばちゃんとあるのだから。というわけで、まさに厄介なオタクの

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          創作者としてやり直すこと 〜ライトノベルからWeb小説へ〜

           やり直そう。本格的にそう決意したのは今から二年ほど前のことだ。  経緯については伏せよう。ライトノベル作家として商業デビューしてからの数年、良いこともあったし悪いこともあった。勉強になったこともあれば今でも納得できていないこともあり、感謝もあれば恨みもある。事細かく書いていくと長くなるし、重要なのは過去ではなく、これからにあると考えているからだ。  とはいえ今や出版不況である。ライトノベルも例外ではなく、右を見れば先輩、後輩、デビューして間もない新人作家が阿鼻叫喚の悲鳴

          創作者としてやり直すこと 〜ライトノベルからWeb小説へ〜