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創作者としてやり直すこと 〜ライトノベルからWeb小説へ〜

 やり直そう。本格的にそう決意したのは今から二年ほど前のことだ。

 経緯については伏せよう。ライトノベル作家として商業デビューしてからの数年、良いこともあったし悪いこともあった。勉強になったこともあれば今でも納得できていないこともあり、感謝もあれば恨みもある。事細かく書いていくと長くなるし、重要なのは過去ではなく、これからにあると考えているからだ。

 とはいえ今や出版不況である。ライトノベルも例外ではなく、右を見れば先輩、後輩、デビューして間もない新人作家が阿鼻叫喚の悲鳴をあげ、SNSでは出版社や編集者に対する罵詈雑言や失望、あるいはライトノベルを読まなくなった人類(クソでか主語)を糾弾する言葉が流れてくる。同期の作家は失業し再就職の面接を受けにファミレスへ走り、私もまた日々死んだ魚の目をしてライトノベルのラの字もない肉体労働に勤しむ。嗚呼、この世に希望はないのか。……残念ながらそんなものはどこにもない。今となってはうまくいく可能性のほうが低い。もはや宝くじ以下の確率だ。

 ではなぜ、小説を書くのか。貴重な休日を使って、多くの時間を割いて。あえて一度敗れたはずの戦場に立つのか。ヤマノススメの一期、二期、三期とエンドレス再生していれば傷ついた心は救われるのに、なぜ自ら望んで小説を書き、懲りずに苦悶の叫びをあげるのか。わからない。しかし私はまだ筆を折っていない。幾度となくそうしようとしたにもかかわらず。

 というわけで前置きが長くなったが、やるからには前向きに、そして建設的に活動しようと決めた。さてここで問題となるのは、商業でデビューした作家がもう一度デビューできんの? という話である。

 結論から言うとできるらしい。そりゃそうだ。最近は珍しいものでもないようで、ライトノベル作家が集う飲み会に参加すると「過去にデビューしたもののレーベルが潰れ荒野に消えたとある作家が新しい名義で再デビューした」だの「な○うで書籍化した」という話を耳にする。じゃあ俺もイケるやん。新しい物語を作ろう!

 しかし待ってほしい。現実は甘くない。簡単に書籍化できるのなら毛根は死滅しない。まず、スタートラインに立つところからしてキツイ。小説を書きはじめて間もないならともかく、すでにプロとしてデビューした手前、小説投稿サイトに新作を公開したもののほとんど伸びない、とか、公募に出したもののあっさり落選する、などの結果でいちいち凹む。そう、無駄なプライドというやつ。実績なんてものはろくにないにもかかわらず、いっちょ前にダメージを受けるのだ。そのうち「商業経験があるせいで逆差別を受けているのでは……?」と勘ぐり疑心暗鬼に陥る。実際あるのかどうかは知らないが、あったとしても不思議はないし、仮にあったとしても跳ね返せるような作品を書けばいいだけなのだが、まあそれはそれとしてメンタルは病む。抜け毛も増える。

 あとは私がデビューする前はそこまでなかったと思うのだが、最近はSNSの普及やら小説投稿サイトの影響か、ランキング上位に行くためにはだとか、多くのアクセス数ないし評価ポイントを稼ぐには、みたいなノウハウの話題を振ってくる人がやたらと増えた。それこそSFでも書こうものなら、初手から「これはWebではウケない」的な横槍が飛んでくる。自由を求めて活動拠点を移したのに、ご親切な方々から聞いてもいないアドバイスをされる。これがまたけっこうしんどい。面識のない人であれば無視すればいいだけなのだけど、そこそこ付き合いのある知人だと対応に困る。ストレスでまた抜け毛が増える。

 そんなこんなで気がついたときにはスキンヘッドになり、ついでに極度のスランプに陥っていた。あったはずの髪がなく、書けていたはずの小説が書けない。なにかしたいのになにもできない。もどかしい日々が続く。意外にも商業レーベルで編集さんと二人三脚でライトノベルを書いていたときより、Webでやり直そうと決意したあとのほうが息苦しさを感じた。書きたいものを、自由に書く。心の中にある物語を、面白いと思うものを書く。ただそれだけのことが、できなくなる。

 結局のところ、よそ見をせずに走り続けることが一番難しい。迷いは決意を、筆を鈍らせる。理想は肥大化し現実が道を阻み時間だけが無為に過ぎていく。誰かのせいにしたくなる。悪いは俺じゃないと叫びたくなる。出版社を、あるいは編集者を悪人に仕立て上げ、はたまた読者や市場に責任転嫁してしまえば気が楽だ。しかし彼らはどこまでも正直で、誠実さがないのはあくまで言い訳をしている自分なのだ。

 どうすればまた、書けるようになるのか。色々と考えた末、ありのままの自分をそのままぶつけようと決めた。今感じている絶望を、抱きたい希望を、物語という体裁で書き綴る。結果として私は一本の小説を書き上げることに成功し、無事にスランプから脱却した。しかしまだ、スタートラインにすら立てていない。走りきった先にゴールがあるのかどうかさえ、わからない。もしかすると、あのとき筆を折っておくべきだったと後悔することになるかもしれない。

 いずれにせよ私はまた小説を書きはじめ、今でさえこんな女々しい記事を書いている。理解できたことがあるとすれば、自分はどうあがこうとも文章を綴らなければ生きていけない性分で、私のような人間がいるかぎり出版不況であろうとも、新しい物語は生まれていくということであり、あえて自分で書かなくても面白い小説はいくらでも増え続けるのに、それでも私は書き続けるのだろう、ということだ。

※追記

記事中にある小説は現在NOVELDAYSにて公開中です。

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