いい歳したおっさんにもオススメしたいライトノベルの話 第二回:黒獅子城奇譚

ファンタジーは好きですか?

 私もかつてゲームアニメラノベと数多の名作に触れ、剣と魔法の世界に魅了された少年のひとりである。というより某ネトゲにどハマリし人生の階段を踏み外した結果、ラノベ作家になろうと決意したのだから筋金入りかもしれない。やあやあ、我こそはキリトなり。しかしアスナはどこにいる?

 そんなわけで三十を過ぎた今でもビニール傘を持つと剣士の血が騒ぐファンタジー大好き人間ではあるものの……いざ戦場に足を踏み入れたが最後、私のような経験の浅いオタクは一撃で切り伏せられてしまう。エンタメの激戦区ラノベ界では「エクスカリバー装備して生まれてきたのでは?」と疑うような猛者たちが、理想の作品を生みだそうと腕を磨いているのだから。

 デビュー以来かれこれ十年以上も剣と魔法の世界を創造し続けている川口士先生も、強豪ひしめくラノベ界を代表する『ファンタジー大好き超人』のひとりだろう。代表作の【魔弾の王と戦姫】シリーズはアニメ化、現在も集英社ダッシュエックス文庫にて本編のifを描いた【魔弾の王と凍漣の雪姫】を刊行中。ライトノベルに詳しい方ならもちろん、普段あまり読まない方でも著作についてご存知の方は多いと思われる。

 しかし今回ご紹介する【黒獅子城奇譚】は、魔弾の王シリーズと共通の舞台でありながら、これまでとはまったく異なる雰囲気を漂わせている。ファンタジーの名手が満を持して送りだした本作は、なんと剣と魔法の世界で起こった殺人事件、つまり『謎解きミステリ』を主軸としているのだ。

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 まずはあらすじの紹介を。主人公のグレンは「野盗とそう変わらぬ」と自ら揶揄する放浪の騎士。ヒロインのリューは魔術師で、偏見が根強い土地を旅しているため神官を装っている。そんなワケありコンビが雷雨に見舞われ、朽ちた城砦『黒獅子城』に避難する。するとそこにいたのは総勢九名の旅人たちで、なし崩し的に一夜をともにすることになる。しかしやがて居合わせた面々のひとり老騎士タングレーが殺害され、よそ者であるグレンたちにも疑惑の目を向けられてしまう……。

 とまあこんな感じで、グレンとリューのコンビが事件解決に乗りだすわけだ。罠と仕掛け満載の朽ちた城、黒獅子伯の伝説、死してなお城内をさまよう魔術師の噂、闇に潜む魔物の群れ、一癖も二癖もありそうな旅人たち。ファンタジー好きミステリ好き双方のツボをおさえたエッセンスをこれでもかと散りばめつつ、謎が謎を呼ぶ展開あり、熱いバトルあり、深みのあるドラマあり、ヒロインのリューや町娘ミリアムのドスケベあり、という超豪華し仕様。しかもすべての要素が破綻せず歯車のように噛みあっているのだから、そのシナリオ運びの巧みさは芸術品の域。前回紹介した【錆喰いビスコ】が「おらあ! 食らえ!」と全力で顔面に投げつけられるような面白さなら、今回の【黒獅子城奇譚】は無言でスッと差しだされ、めちゃくちゃ旨くて顔をあげると「こういうの好きやろ? 君」と目で問われる感じ。はい、好きです大将。

ファンタジー世界の描写力がすごい。だからミステリとしてもすごいという凶悪な地形ハメコンボ。黒獅子城奇譚の面白さに逃げ場はない。

 ライトノベルにおいてもっとも重要なのはキャラクターだ。しかしファンタジーの場合、物語の世界そのものにも魅力がないとワクワクしてこない。実際に足を踏み入れてみたいという憧れ、あるいは自分も冒険していると錯覚しそうになるほどの臨場感。ファンタジー好きの心をくすぐるためには緻密な設定と、嘘にリアリティをもたせる描写力が必要だ。一方ミステリにおいてもそれらの要素は重要になってくる。【黒獅子城奇譚】は閉鎖空間で謎解きをするクローズドサークル系、いわゆる館ものに属する作品なのでなおさらだ。舞台の設定が作りものくさかったら興ざめだし、描写にリアリティがなければクローズドサークル系の醍醐味である緊張感が出てこない。そう、本作の主人公はグレンたちだけではない。黒獅子城という謎に満ちた箱庭もまた、もうひとつの主人公なのである。

 とはいえそこはファンタジーの名手、設定の作りこみと場の空気すら漂わせる描写力は圧巻の一言。黒獅子城はいかにも「ありそうな」設定が目白押しなうえに、驚きと恐怖に満ちたびっくり箱でもある。グレンに襲いかかる罠や仕掛けの数々は説得力があり、かつ予想外の方向から牙をむく。さらには過去に住んでいた兵士が壁に残した「お前の女房、俺のもの」という粗雑な落書き、子どもが落としたままになっていたのだろう、壊れた玩具が床に転がっている様がさりげなく描写され、古城という空間に寂寥感まで漂わせるのだから抜け目がない。ステージ攻略に関係なさそうなオブジェクトの作りこみを発見し感動するような、フロム・ソフトウェアのゲームに通ずるものがある。あの手のゲームが好きなフリークだったらよだれを垂らして読めるかもしれない。

 ゲームで思いだしたが本作ではもちろん魔物との戦闘もあり、そこでも著者の筆力が存分に振るわれる。誤解を恐れずに言うならグレンの戦闘力はあくまで「普通の人間としてはかなり強い」レベルで、リューの魔法とて効果は凄まじいものの万能ではなく、使うたびに体力が消耗するため乱発できない。いわば経験と知識、とっさの機転によって切り抜けるタイプの主人公たちで、だからこそ設定の作りこみと卓越した描写力がひりつくような緊張感を生む。特筆すべきは雷雨による水の侵食や気温の低下、夜間という状況が作りだす暗闇の厄介さを巧みに描いていること。老騎士を殺した正体不明の敵、闇に潜む魔物、随所に仕掛けられた罠、という四面楚歌の状況で自然の驚異まで襲いかかってくるのだから、事件解決の困難さは並大抵のものではない。しかし……それでもふたりは乗り越える。ファンタジーでありミステリでもある物語の主人公らしく、知恵と力を駆使して。

でもやっぱりキャラクターの魅力だよね。騎士と魔術師、男と女、相棒にして戦友、グレンとリューの距離感こそが一番の見どころ。

 ここまであえて伏せていたのだが、本作を読んでいて最初に「おや?」と思うポイントがある。それはグレンとリューの関係性だ。なんとこのふたり、ライトノベルでは珍しく道中で肌を重ねている。最初に交わったのが出会ったばかりのときで、その理由が『敵を欺くため』という情緒のないエピソードが語られる。本編においてもグレンは頻繁に情欲を抱き、リューにいたっては事後に「下手くそ」と言う始末。しかしもちろんそれだけでは終わらず、ふたりの掛け合いはどこか相手を試しているようで、なおかつそれを楽しんでいる節がある。

 いずれにせよ、ふたりがお互いを認めあっているのは確かだ。グレンは抜け目のない観察眼と行動力、騎士ならではの近接戦闘能力があり、情報収集に長けた行動型の探偵。リューは頭の回転が早く閃きがあり、絶大な効果を発揮する魔術を使うことができる。しかし重度の人見知りで会話が苦手という設定なので、グレンから話を聞いて推理する安楽椅子型の探偵だ。異なるタイプ同士がときに相手の短所をカバーし、あるいは相手の長所を最大限に活かそうと立ち回ることで、あらゆる困難を打破していく。男と女で、背中を預ける相棒。なんともアダルティで、そしてカッコイイ。

 一方、物語を彩るサブキャラクターたちも一筋縄ではいかず、総勢九名の旅人たちはどいつもこいつも曲者揃い。序盤であっさり殺されてしまう老騎士のタングレーでさえ、物語が進んでいくごとに印象が二転、三転していき、被害者であるにもかかわらず存在感が増していく。グレンたちのスタイルがファンタジーならではのかっこよさなら、九名の旅人たちはミステリならではの奥深い二面性を備えている。やはり贅沢な作りだ。

 そして本作は謎解きミステリらしく、最後にすべての要素がつながって驚きの結末を迎える。事件が解決したあとに語られる後日談をふくめて考えると「ああ、この作品は○○にまつわる物語だったのか」と感じるというか、これでもかとぶちこまれたエピソードの中に、一貫したテーマが隠れていたように思える。これが私の勘違いでなければ、いったいどこまで考えて書かれているのかと、あらためて驚嘆を覚えてしまうほどだ。

 さて長くなってしまったが、【黒獅子城奇譚】はファンタジーとしてもミステリとしても文句のつけようがない優れた作品で、読み応えのあるライトノベルを求めている方にぜひともオススメしたい。この記事を書いている私は一応ファンタジーを書く側の人間でもあるので、ラノベ界の最上段からいきなりこんなものを叩き込まれて途方に暮れているくらいだ。すげえなあ、面白いなあと感じつつも、同時に悔しいなあという感情が湧いてくる。いまだスライムやゴブリンに苦戦しているような身分ではあるものの……目指すべき頂が高く、その先にとんでもなくヤバいボスがいるというのは、考えようによってはファンタジーめいた燃える展開で、ありがたいことでもある。こうしてはいられない。憧れがあるなら強くなれ。

 というわけで私もグレンたちを見習って、ラノベ界のファンタジー超人になるべく素振りをはじめようと思う。いつか、乱れ雪月花を閃くときまで。

 いや、小説を書けよ(正気に戻る)


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