黄たまご

夏休みのヌードル

「お米切らしちゃった」

こんなふうに、楽しみはいつもうちの奥さんから始まる。
3歳の娘が幼稚園の夏休みに入って、そりゃあよく食べるもんだから僕はお店に走ったのだ。

頼まれたのは3人分の乾麺。
いつものメーカーのいつものあれ。
夕暮れ迫った交差点から大股で14歩、さあ買い物を済ませてしまおう。

僕ら家族の幸せは、いつもこんなふうに簡単だ。
僕らの夏休みにBGMはいらない。
笑い声があればいい。

出かけるあてもいらない。
話が尽きないから。

大げさなお土産も、メモリいっぱいの写真だって。
ここでこうして暮らしていることが、この家の窓が明るく灯っていることが誰かの微笑みになればいい。

あまりにも簡単すぎる幸せを、小さな火でも灯すように両手でそっと囲んで僕らは目を細めている。
ため息なんかついて台無しにしてしまう前に、隣にいる人に初めての言葉を贈ろう。

ありふれた食卓に小さな小さな未来が宿る。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?