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欠けたるは我が歯

欠けたることも

なしと思へば


「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」

と藤原道長は自らの栄華を欠けたところがない満月に例えて詠んだ。

栄華なんて大層なこととは程遠いこちらは、自分の歯が欠けたことに慌てふためき大混乱である。具体的に何を噛んでいたときかは覚えていないが、お煎餅などの固いものを食べていたわけではない。これを噛んでいるくらいで歯が欠けるとは、なんて脆くなっているのだろうか…と悲しくなるようなものだったことだけは覚えている。ガリっという嫌な音と共に良くないことが起こったことを直感的に察した。

小さな歯の破片を飲み込まないように出し現実を受け入れる。間違いなく我が歯の一部である。歯を観察してみると表側は白いが裏側は茶色くなっている。虫歯により歯が脆くなってしまったのではないか。歯が欠けたであろう場所は特に痛みはないが、一部を損傷したにも関わらず痛みがないのは逆に怖い。この歯の神経を取ってしまっていたかどうかなんて覚えていない。水曜の夜だったのでいつもの家の近所の歯医者ではなく、職場の近くに初診で行ってみるのも手かと考えたものの、お昼休みの1時間で初診は厳しい気がする。

明日すぐに歯医者に駆け込むことは難しいが、せめて今週末にと歯医者のネット予約の空きを確認したらどの時間も×。これはもう直談判しかないと土曜日になるのを待って、診察開始時間と同時に電話をかける。予約外で診察は迷惑だろうけど申し訳ない。朝でも昼でも夜でも診てもらえたらと思っていたら、今日はいっぱいだからお待ちいただくと思いますが明日ならと言ってもらえた。ここまできたら1日くらい変わらないのですぐに予約を入れてもらった。

そして今日。やっとその日はきた。欠けた部分を放置している間にさらにガリガリ音がして削れていくなか、やっと目に見えない悩みから解消される。時間通りに行ったら待つことなく診ていただけた。欠けた理由としては、ガッツリ虫歯になっていて強度が足りなくなったらしい。どうやら、神経を取っていたから痛まなかったみたい。痛まないので麻酔もせずにガリガリ虫歯部分を削り取ってもらった。痛みを感じず処置してもらえるのは楽だけど、体に異変が起こった際に痛みという体からのお知らせを感じ取れないのは不便である。本来必要な体内システムをいじるのは良くないなと感じた。欠けたけど痛くないからと放置する可能性がないではないもの。

今回は削った場所の型を取ってもらったから、次回は銀歯にしてもらう予定。とても素早く対応してもらえてとても助かった。欠けてしまったものは自力では元の形に戻せないので、人の手を借りて戻していく。なくなったものにくよくよせずに、戻すなり別の形に変えるなり納得がいく方法をとっていきたい。


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