08300453 日記

04:53
椅子にもたれかかる。左手に痺れ。今週だけで3回目だ。
床に転がっていたドライバーで軽く分解。可動部に腐食。
去年に買ったばかりなのにな。偽販売サイトではなく「本物」ではあるらしいサイトをようやく見つけ、同一製品のOEMが検索結果に並ぶ中、2番目に安いノーブランド品を。
仕事でついうっかり100%出力を出してしまったのがいけないのかもしれない。左腕がオーバーパワーすぎるのか、それとも左手をさらにグレードアップすべきなのか。
今月のあと払いの利用可能額をチェックする。回線は速度制限。また同じようなノーブランド品しか買えない。

04:59
左手を軽く整備して組み戻し、冷蔵庫へ向かう。ほっそりとした缶を取り出す。
昨年発売された大麻成分入りドリンク。決して安くはないが、あっさりとしていつつも深みのある味が癖になるし、何よりとても効く。本物の大麻はなかなかに高級品だ。
より大きな缶の酒を先に開けて半分ほど飲み、そこにこのドリンクを注ぐ。そして処方薬と、「処方薬の横流し」として売られていた正体不明の薬を口に含み−缶の中身で一気に飲み下す。
数分もすればすべてが至極曖昧になっていく。ずっとこの状態で生きていけたらいいのにな。

05:22
すべてが至極曖昧なまま、常に電源を入れたままの机の上の鍵盤に向き合う。
黒い筐体はほんのり温かく、白と黒の鍵盤は艶やかで、緑色のボタンはいつも効きが悪い。
かつてこの国は、シンセサイザーなどの電子機器製造で世界的に知られていたという。栄え、華やぎ、盛りをみせ、衰退した。この機種はそんな華やぎの終わりごろに出た製品だったそうだ。
少しは調子が良くなった左手で鍵盤をおさえながら、右手でボタンを押して音色を選ぶ。今日の気分はPA07だろうか。ボタンの角を押し込んでなんとか反応させる。
両手で鍵盤を弾く。まさしく電子音然としたFM方式のシンセサイズ音が、至極曖昧な感覚の表面をなぞり、少しずつ模様を描いていく。
机の手前に並ぶキッチュな色合いのエフェクターを押し下げる。揺らぎ、歪み、再帰し、反響する。
ひどくおだやかな気持ちで叫びのような音を連ねていく。とても安らかな時間だ。
叫び、波濤、空電、絶叫、凪、エンジン音、ノイズ、そしてドアを蹴る音。隣の住人がまたこの部屋のドアを蹴りつけているらしい。お前の電波が頭に入ってくるんだ、壁に貼ったアルミホイルも効きやしないんだと叫んでいる。
誰ともなく肩をすくめ、ヘッドフォンを装着する。轟音、叫び。

06:17
そろそろ効き目がなくなってきた。そして空腹。プレーン味のトルティーヤチップスにシュレッドチーズをかけて焼き、鍵盤の上に置いて食する。
酒は一日一本までだ。店に並んでいた中で一番安かった炭酸飲料をボトルから直接飲む。
いつだったかに飲んだリアルシュガーの炭酸飲料のことを思い出す。今でも「天然甘味料使用」と銘打たれた炭酸飲料が売られていることもあるが、一般的な所得では思いとどまってしまう値段だ。

06:32
外はもう随分と明るい。カーテンを念入りに閉め切る。
空調の音だけが物だらけの部屋に響く。
自分がたどり着くべきだったのは「ここ」だったのだろうかとふと考えてしまう。もっと幸せな、あるいはもっと不幸な生き方のこと。今からでも目指せるかもしれない未来のこと。
血糖値が上がって冴え渡った頭で一通り思考が巡るが、結局行き詰まる。
かつて誰かは「再起的無能感」と言ったそうだ。
遅効性の処方薬が効いてきて眠くなる。
明日も−いや、今日も−仕事だ。隣町へと余生を売りにゆく。もう寝よう。

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