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めがねにだけは、なりたくなかったのに。

「あ!」

またやられた! おとといで9ヶ月になった娘の手には、わたしのめがねがぷらぷらと垂れ下がっている。娘の成長はいちじるしく、この2週間で、ハイハイでまっすぐ進む、ごはん中にお茶を見せても飲みたくないときは手ではらいのける、を覚えた。成長はうれしいことなのに、どうしてもこれだけはしてほしくなかった。というか、予想してなかった。

めがねがだいすきすぎて、手の届くところにめがねを見つけると、驚きの早さでガシッとつかむようになった。

それに合わせて前にも増して、抱っこ、抱っことせがむようになった。わたしは家のなかで、ずっとめがねをかけている。中学2年のころからずっと。めがねは嫌いだったけど、目が悪くなってしまったから仕方がない。

かけたくないのに、いきなり取られるとムカつく。しかも、せっかく抱っこしてあげた娘に奪われたときの絶望感。あ! と思ったときにはもう遅い。こちらも牽制していれば、まだよけられる。

だけど、まだ9ヶ月も生きていない娘のほうが上手で、見上げるようにうるうると抱っこをせがんだ直後に獲物をしとめるチーターと化す。まだ言葉も話せないのに、「してやったぜ」と聞こえてきそうだ。

キライだけど、ずっといっしょに過ごしてきためがね。好きになれるように、社会人10年目におもいきって大好きなブランドのめがねを買った。それを娘はサッとうばい取ったかと思えば、床にたたきつけ、レンズをガサガサとリビングにこすりつける。

もぎ取ろうとしても、びっくりするほどの握力。娘と同じように、地べたに座り、両手をつき、その光景を見守るしかない。せめて、耳にひっかけるところだけは、折らないで……。

きのう夕方、娘とイオンをぶらぶらした帰り道。めがね屋さんでリーズナブルなめがねを物色した。流行りのまるいめがねをつけて鏡をみていたら、娘が「あー、あー」と声をだした。

わたしは我に返った。あぁ、ダメだ。買ってもどうせまた、娘に奪いとられ、無残にも捨てられるめがねは、しばらく買えない。それに、長年連れ添ってきたこのめがねをおいて、他に浮気なんてできない。

めがねを元の場所に戻し、こっちをチラチラ見ていた店員さんに背を向けて、ベビーカーを押しながら考えた。娘が落ち着くまで、家の中でコンタクト、外でめがねにしようかな。なんか変だけど、仕方ない。ずっとコンタクトでいるわけにもいかないし。

あれ? わたし、こんなにメガネのこと考えたのはじめて。いつのまにか私は、めがね大好きになっていた。

#めがね
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