今日誰かの天使になりたい


今日誰かの天使になりたい。

烏滸がましいかもしれないけれど。

この間散歩の帰りに近所の理容店に入った。

入って早々男性店員が

「あの…ここ髪切るの男性専用なんだけど…」

私「…あ、外の看板に女性顔剃り二千円って書いてあったので」

実際顔剃りをしてもらいたいと思って入ったのは事実だ、お化粧乗りが良くなるらしいし うなじ も整えてもらえるらしい、
だけれど一番の理由はこの日むしゃくしゃして心がわーわーしていてやりきれない日だったからだ。

だから散歩帰り気がつくと床屋の椅子に並んで座っていた。

失礼だが店内はおじさんの匂いで充満、散髪されて整ってゆくおじさんを眺めながら夕方。

床屋の回転は早く、2.3人並んで居たおじさん達も次々にソファに座り整いの準備を始めた

「お姉さん、次ね、女の子だから顔剃りだよね!」

またまた失礼だが禿げの理容師に導かれ私もソファへ

「私は顔剃り初めてなんです」

「よくお店に女の子1人で入れたね!じゃあ今から顔剃りするからね、うなじも整えるかな?」

「はい…お願いします」

理容師がシャカシャカ音を立てて筆に泡を乗せそれを私の顔に塗る

ソファは眠りに落ちそうな角度へ傾いていた

ツーツーと刃物が顔に当たる

瞼 額 頬 顎 鼻 人中 

刃物が私のそれらを通り過ぎた後
ひんやりした感触が肌に当たった、保湿の為のクリームを塗ってくれているみたいだ

「じゃあ次は うなじ だね」

私は首を伸ばしてやや前屈姿勢になり髪の毛を上に持ち上げた

またツーツーと刃物の当たる感触
自分の首の、生え際の形を初めて知った。

「はい、終わりね!産毛、多いんだね、肌ツヤツヤになったよ」

「産毛多いの恥ずかしいな…でもありがとうございます、あの、自分の うなじ 見てみたいです、鏡いいですか?」

「ああ!そっか、鏡ね」

整えられた 自分の うなじ を見た

誰かの天使になりたい。

剃ってもらった うなじ が綺麗だと思った。

「ありがとうございます。初めて理容室来たのですが、、、とっても緊張しましたが、綺麗にしてもらえてとても嬉しいです」

理容師は笑いながら

「久しぶりに若い子と話したよ!綺麗になってよかったね!また来てね!怖いところじゃないから!」

私はそのおじさん理容師の事を、今日の天使だと思った。
そして私もこのおじさん理容師の今日の天使になれたかもしれないと思った。

飲食店に入って美味しかったことを伝えたり
電車で席を譲ったり
ライターを貸したり
唄を唄ったり聴いたり
駅前でポケットティッシュを配ってる人から貰ったり
本を売りに行ったり買ったり

誰かの天使に、今日の天使になりたい。  

烏滸がましいかもしれないけれど。

そして今の私はファンデイションが綺麗に肌に乗る。

あの日の天使のお陰で。


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