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山田金一物語:第10章:金一の異変と剛の東京残留

金一は、税務課で発症した
鬱病が、剛の転勤と共に
再発し、鬱で沈み込む日が
続いた。
港湾課の職務は緩かったので
何とか耐えることは出来たが
寂しさ故、酒の量が増えていった。


剛は東京出張所に勤務して1年後、驚愕の事実を知った。
「東京出張所分裂騒動」
である。

東京出張所員は本社に対して
不満を抱えていた。

博多に比べると、東京ははるかに物価が高いが、給与は博多と同じである。

東京出張所に特別手当を支給してくれと組合を通して交渉したが、本社は相手にしてくれなかった。

そこで出張所員は怒り、その怒りを抑えきれなかった出張所長は、新会社を設立する決心をしていたのである。

そして、新会社を設立すると
信頼のおける部長をトップに据えて、新会社は営業を開始した。
受注先は、東京出張所時代のコネで、同じ職務である。
待遇はかなり良く、ほとんど全員順次移籍していった。
所長は、責任をとり、最後まで残った。

剛も誘われたが、断った。
「私は博多に就職したのであって、新会社に転職する気はありません。」

剛はあくまでも、本社に帰る気でいた。


その後、東京出張所長と入れ替わるように、新所長(以下、所長と呼ぶこととする)
が赴任してきた。
後のOB会長である。

残ったメンバーは剛を含めてわずか5人。
所長はそのメンバーの前で
赴任の挨拶と共に、今後の抱負を熱く語った。

その後、剛は、個人的に所長に呼ばれた。

「わしはこの出張所を必ず立て直す。君の家庭の事情は承知している。それを承知の上でのお願いだが、力を合わせ、出張所を立て直す同志となって、わしについてきていただけないだろうか?」
と、深々と頭を下げたのである。
所長は金一と同じ歳である。
まさに、親子ほど歳が違う大先輩が、入社間もない青二才に頭を下げたのである。
剛は即答した。
「ついていきます。」
この言葉で、剛の本社復帰の目は消えた。


それからの所長の手腕は、目をみはるものがあった。

まず、東京出張所員の給与をアップした。

出張所の職員不足に対して、思い切った方策をとった。

大阪にも小さいながら、出張所があったのだが、いつの日にか再開するとの約束を交わし、大阪出張所を事実上閉鎖して、大阪出張所員を所長を残し、全員東京出張所に転勤させた。

助っ人と称して、2年の約束で本社から、5人転勤させた。

今までの人事は、本社採用であったが、初めて東京採用の人事を取り入れ、即戦力となる設計経験者を採用した。

東京出張所は、瞬く間のうちに元に戻り、仕事は以前にもまして、こなせることができるようになったのである。


東京採用者が益々充実し、約束通り、本社からの助っ人を還す事ができた。

そして、数年後、約束通り、大阪出張所を再開させた。



          続く


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