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山田金一物語余話:「体育祭で金一絶妙な競争」


剛が中学生の頃、下関市では「市民運動会」が開催されていた。

近くの高校のグラウンドを貸し切り、勿論無料のうえ、景品まで下関市が負担した。

次男の銀次も近くに引っ越ししてきていたので、金一一家と銀次一家が、揃って市民運動会に参加した。

昼食は手弁当なので、明子は思いきりご馳走弁当を作った。
年に1回のレクリエーションである。

運動場には、砂場と鉄棒が備え付けてあった。

金一と銀次は、手のひらに砂をまぶして、鉄棒に飛びついた。
準備運動である。
二人はいきなり、大車輪で身体をグルグル回転し始めた。
剛は、この光景を見て、驚いた。
大車輪は当時、体操部経験者しかできなかった。
剛は逆上がりも出来ない。
二人の大車輪を口を開けて眺めるだけであった。

いよいよ競技が始まった。

金一がまず最初に参加したのは「借り物競争」だった。

スタートして、30m先に、
借り物を書いた紙を入れた封筒が置いてある。
その封筒を開けて中の紙に書かれた「借り物」を見て、さらにその先に置いている品物を取って、ゴールするという競技である。

1秒を争う。
みな封筒の端を破り、封筒から紙を引きずり出す。

ところが金一は、その封筒を太陽にかざし、紙の位置を把握して、その直近を破った。
これなら紙はすぐに取り出せる。

このほんの数秒の差で、1等賞の商品を獲得した。

次は「障害物競走」である。

最後は、網をくぐり抜ける技が残されていた。

足の速い金一は、わざと2番手につけた。

トップ走者が、網を持ち上げた瞬間、金一は地面を這うように、スルスルッと網の下を素早く走り、トップをとり、
1等賞の商品を獲得した。


1等賞を2つも取ったのは金一だけであった。

金一が得意顔をしている姿を眺めた剛は、父がまぶしく見えた。


     この余話 終わり

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