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ロレックスのお兄さん


そのお兄さんは、厳つい顔立ちをしていた。
体格も武闘家系で、周囲を威圧した。
そして、腕にはピカピカの派手なロレックスの腕時計。

まあ、見かけで判断してはならないが、皆怖がって近寄る人は少ない。

一流建築会社に就職していたので、給料はかなり高い。
彼の遊びは、麻雀通い。
毎夜雀荘に出没し、コップ酒を飲みながら、高レートで遊ぶ。

常連さんは、彼の気心は知れている。
ちっとも怖がらない。
むしろお仲間だ。
夜の11時頃まで
飲んでは打つ。

それから5年後。お兄さんは
チョイおじさんになった。
麻雀は辞めた。
彼女が出来たからである。

しかし、建築会社は、バブルの崩壊で傾いた。
チョイおじさんは職を失い
派遣会社を転々とした。
定職につけず生活は苦しかった。
しかし、彼の腕にはロレックスが光り輝いていた。

彼と彼女は同棲していた。
彼は彼女にプロポーズしたが
彼女は頑なに受け付けなかった。
彼女は病に侵され、子どもが産めない身体であった。

「私なんかと一緒になるとあなたが不幸になるわよ。」

その後、同棲時代は五年続いた。
チョイおじさんは、おじさんになっていた。
彼は身体の弱い彼女の面倒を見ながら、派遣の仕事をこなした。

「わしは子どもなんかいらん、あんたが欲しいだけじゃ。わしはあんたの面倒を一生見るから、結婚してくれ。」

彼女は彼の真心に心打たれ
プロポーズを受けた。

結婚資金が無いので、入籍だけした。
新婚旅行も行かなかった。


彼の腕にあったロレックスの腕時計は、安物のエンゲージリングに変わっていた。




          完


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