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コミュ障だけど初幹事やってみた

※10月毎日投稿挑戦中。火曜は#ブログアーカイブ
 2016年3月29日、私のブログに投稿した記事を加筆修正したものです(9000字超)。

※前職のコンビニで店長をしていた頃の話です。いつものnote記事と異なり、一人称が「僕」になっています。

 燃え尽き症候群か、それに近い何かなのだろう。全てを終えた今、僕はあらゆる方向へのモチベーションを失いつつあった。お金は減り、謎は解けぬまま終わり、残ったのは疲労の2文字のみ。
 これは、幹事という最悪のコストパフォーマンスを任され不安と困惑で溢れる全ての人に読んでほしい物語である。

幹事の任務(1):企画書の作成と副幹事決め

 全ての始まりは2016年2月5日、当店のアルバイトスタッフ、A男の一言から始まった。

(A)「B美さんの送別会を誰かやらないんですか?」

 高校3年のスタッフ“B美”は、就職の為3月をもって退職する。

(僕)「1年前に開催した時に色々問題が起きて、以来やっていないはずです」

 忘れもしない1年前。僕でないスタッフが幹事となり送別会を開催していた。店長の僕が不参加なのは別に良いのだが、スタッフの多くが参加した影響で当日のシフトが深刻な人員不足に陥った。他店にヘルプを依頼しまくった上、僕自身も夜勤込みで16時間勤務を余儀なくされた。上司に怒られたのは当然の結果だった。

 それでもA男は懇願を続けるので、妥協案を考えた。僕が責任者、つまり“幹事”となり、店長権力で一定のルールを設ければ平和に開催できるのではと考えた。しかし僕はこれまで、友人が主催するネットのオフ会で幹事業務を手伝ったことはあったが、本格的な幹事という任務は30年間(当時)ただの一度も全うしたことがない。

(A)「なーに、幹事なんて簡単ですよ。ちなみに俺は当日穴の開くシフトに協力するんで不参加で」

(僕)(お前は何がしたいんだよ?)

 36日間に及ぶ初幹事の戦いはこうして幕を開けた。とりあえず、10人以上の参加が予想される中規模の飲み会を僕一人で仕切る自信は端から無く、まずは手伝ってくれる副幹事を探す作業から始まった。コミュ障故に口下手な僕の武器として、副幹事候補者に見せる企画書も作成。

 数人と交渉の結果、副幹事は“C美”に無事決まり、彼女の都合により日程も3月12日、土曜日に決まった。

幹事の任務(2):案内状の送信

 続いては参加者を募る為の案内状を作成。文章は前述の「友人主催のオフ会」を手伝った時にも作成しており、大まかなテンプレは既にUSBメモリの中にあった。これを修正し、メールとLINEで一斉送信。

 文章の長さをどうするかは非常に難しいし、内容も相手によって変える必要がある。簡潔にまとめたように見える画像の文章でさえ、LINEで表示させると物凄く長く見えてしまうのだ。あまり長すぎると全文を読んでくれない人も出てくる。

 この返信を集めることで10人以上の参加が確定した。大体の人数が決まったところでいよいよ最初の山場、会場の確保に入る。

幹事の任務(3):店の予約と2次会問題

 2月10日。開催日まで1ヶ月以上もあるが、予約は早いに越した事は無い。
 店への電話は友人の手伝いで何度もしてきたが未だに慣れない。念の為「予約メモ」を作成した。ここで失敗したら当日トラブルになる確率は一気に上がるので慎重にいかなければならない。


 2時間半の飲み放題コースと、掘りごたつの個室。今回はこの2点にこだわり店を選出した。2時間では物足りないが、3時間では長すぎる。テーブルより座敷のほうがゆったり座れるが、後者は正座をしなければならない。ゆえに“掘りごたつ式の座敷”が最適解となるのだ。

 緊張しながらもメモをもとに“A店”に電話をかけ、無事に予約成立。電話を受けた店員は慣れている感じだったので安心した。最後に予約内容を店員に復唱してもらうことと、店員の名前を聞いてメモすることも忘れずに。ここでもし店員が新人っぽかったら、翌日改めて電話しちゃんと予約されているか確認したほうが良い。

 その後、参加人数は更に増えたので、最初に予約してから6日後、2月16日の夜にもA店に電話をかけ「10人から14人に変更」の旨を店員に伝えた。その人数でも掘りごたつの個室は確保できるとのことだった。

(店員)「もし人数がまた変更あるようでしたら早めに連絡下さい。コースも決めなければなりませんので」

(僕)「あれ? コースは既にUコース(2時間半飲み放題コース)に決めているはずなんですけど」

(店員)「え、あ……そうですね……分かりました」

 これはフラグである。この少しだけ噛み合っていない会話を覚えておいて下さい。
 少し頼りなさそうな口調の店員。しかし予約自体は6日前の電話で既に成立している。この時の僕は、その店員を怪しむ必要性を感じなかった。

 そして、この時点で予知すべき危険は「2次会の会場探しでgdgdになる」というあるあるネタ。3~4人ならまだしも、もし全員が2次会に参加することになった場合、当日に会場を即興で見つける自信などあるわけもなく、2次会もあらかじめ店を決め予約することにした。急遽アンケートメールを作成。

幹事の任務(4):詳細と注意事項の共有

 これが実際に送った2次会アンケートのメッセージ内容だが、よく見ると「認証制HP」のURLをしれっと記載してある。
 なんと、無料のサーバーを借りて会の詳細及び注意事項を記載しweb上に共有したのである。

 今思うと何故こんなにも本気になっていたのだろうか。もちろんここまでしなくても、参加者全員がLINEのアカウントを持っているのであれば、グループのノートに記載するだけで充分である。
 そして、注意事項としてweb上にこう記載した。

※キャンセル希望や遅刻の可能性がある場合は必ず開催3日前までに主幹事までご連絡願います。
 それ以降のキャンセルは会費を徴収する場合があります。

※開催10~5日前頃、リマインダーとして全参加者宛に最終確認のメッセージを送信します。
 開催3日前までに必ずご返信下さい。

※未成年者の飲酒・喫煙、過度の泥酔、他者への飲酒の強要、その他迷惑行為は厳禁です。
 マナーや節度を守って皆様が楽しく居られるようご協力願います。
 そして当会の主旨を決して忘れないで下さい。

 もし当日のドタキャンがあれば金額の面で実害が発生する。多くの店は人数変更を2日前まで可能としているので、キャンセル希望は3日前までに申し出てくれないと対応できない。その点を決して有耶無耶にせず必ず明記すること。それでも心配性の僕は、最初から予定より一人少ない人数で予約し、ドタキャンを一人までは受け入れられるようにした(※当日一人増えても料理の対応が可能な店でのみ使える技です)。

 そして最大の注意点は“主旨を忘れるな”――僕が参加者に対し最も言いたいことだった。

「是非飲み会に参加したいです」とメッセージを送ってくる人は間違っている。これは飲み会ではなくB美の送別会。参加希望者の中には送別会とは名ばかりでただ酒を飲みたいだけの連中が残念ながら存在している。一人でも多くの日本人に純粋な心を取り戻してほしいと願う僕にとって、その連中はとても許せなかった。

幹事の任務(5):余興の企画

 軽い気持ちで参加しようとしているリア充をギャフンと言わせることを目標に決めた。その為にも余興で感動させ、純粋な心を取り戻させることは必須条件となる。2年前の失敗もあり、リベンジに燃えていた。

 まずは鉄板の「関係者からの手紙」。執筆はB美の友人のスタッフ“D香”に依頼。

(僕)「みんなの前で読んでも良いですか?」

(D)「ハイ」

(僕)「では読まれても大丈夫な内容を書いて下さい」

 D香はあっさり承諾。2時間半で最大の見せ場は成功を確信した。

 もちろんプレゼントの贈呈も行う。副幹事のC美に協力してもらいB美へのプレゼントを用意。更にB美への寄せ書きを『yosetti』を使い募集した。

『yosetti』を使って印刷した「寄せ書き」のイメージ図

 集合写真も撮影したいと思い、自宅の押入れに眠っていたコンパクトデジカメの動作確認も行った。余興はあえて定番ネタだけで固めた。

 しかし、初幹事の僕に余興の進行は務まるのか。綿密な台本を作成したが、それでも不安になった。せめて余興を始める“きっかけ”が欲しい。

幹事の任務(6):誕生日サプライズ

 そこで思いついたのがこれも定番のバースデーケーキ。参加希望者には誕生日の近い人が2人も居る。ケーキの登場で全参加者が注目し、余興を開始しやすくなる。我が計画は完璧だ。

幹事の任務(7):まさかの2次会中止

 順調かと思えた準備作業に暗雲が立ち込めた。緊急事態が2つも発生。

 2月18日~22日までの5日間だけで5人が立て続けに2次会をキャンセル(うち一人は1次会もキャンセル)してきたのだ。当初、2次会アンケートの回答では7人が参加を表明し、会場も確保していたというのに。

 一人や2人ならまだしも、明らかに怪しい。僕が原因なのか。そもそもこのクズでコミュ障の僕が幹事を担当していることに誰しも疑問を抱かないとは言い切れないのだ。裏で誰が何を話しているかは全く分からないし知る術も皆無。ここにきて自信を失い始めた。

 それでもこの事態を冷静に対処しなければならない。このままでは2次会参加者が僕を入れて3人のみ。大して親しくもないわけで、気まずい空気が2時間も続くなど地獄以外の何でもない。僕以外の2人の了承をとった上で、2次会を中止にする決断に至った。無論会場もキャンセル。既にモチベーションまで下がり始めていた僕に、このあと更なる追い討ちが。

幹事の任務(8):下見で最悪の展開

 もうひとつの緊急事態は3月2日、1次会会場であるA店の下見の際に発生した。
 下見は店の迷惑にならぬよう、前日には電話で訪問日時を伝える。時間の都合がとれるのなら開店前が望ましい。というわけで開店30分前の16時30分にA店のドアを開けた。

(僕)「下見に伺いました当方です」

(店長)「ハイ、お待ちしておりました。10名様でのご予約ですね?」

 おかしい。確かに当初の予約人数は10人だが、2月16日には14人に変更していたはず。いずれにせよ更なる人数の増加があった為、すぐさま店長に伝える。

(僕)「それなんですけど、今日になって15人に変更になりましたが大丈夫ですか?」

(店長)「ハイ、大丈夫ですよ」

 多少の疑問は残るが結果オーライということで一安心した。それが油断だった。

 約15分にわたり座席の確認と写真撮影、及び質疑応答を行った。特に誕生日サプライズの演出に関する細かい質問をいくつも投げ、回答を漏れなくメモしていった。当日失敗や混乱しない為にも打ち合わせは入念に行わなければならない。

 下見も無事に終え、店を出て約2時間後のことだった。僕のスマホに店から電話がかかってきた。悪夢はここから始まった。

(店長)「大変申し訳ございません。お客様に掘りごたつの個室をご用意できなくなってしまいました。テーブル席でしたらご用意できます」

 わけがわからないよ。こっちは開催の一ヶ月以上も前の2月10日に予約していたというのに。

(店長)「先ほどは私も良く確認せずOKしてしまったのですが、本日になって10人から15人に変更となりますと、他のご予約のお客様との兼ね合いにより……」

 違う、10人から15人ではない。この日は14人から15人と1人増やしただけだ。

 いや待てよ、もし2月16日に10人から14人に変更した時に電話対応した、あの頼りなさそうな口調の店員が、それを店長に伝えていなかったとしたら……。

(僕)「2週間ほど前に電話して10人から14人に変更して、その時の店員さんはOKしていたんですけど、それは本当はOKじゃなかったということですか?」

(店長)「大変申し訳ございませんが、それはこちらの手違いでございます」

(僕)「掘りごたつの予約客が僕の他に13人と15人で2組居ると言っていましたけど、15人のほうは僕のと同じ人数ですけど、そちらはどうしても掘りごたつでないと駄目なんですか?」

(店長)「あのー、小さいお子さんがいらっしゃるお客様ですので……」

 必死に交渉するも状況は好転しない。しかし、トリガーでもない店長が懸命に心からの謝罪をしており、自分の職場で似たような経験を何度もしてきた僕は気の毒に思えてきた。とりあえずテーブル席への変更を了承した。

 しかし、2日後の3月4日、改めてA店の下見に行った僕は愕然とするのだった。

 僕は最初にテーブル席と聞いたとき、テーブルを3つほど横に繋げ、15人が2列になって向かい合うごく一般的な形式をイメージしていた。が、現実は違った。

 これが下見で案内されたテーブル席の図である。5つのテーブルが分散して配置してある。流石にこれはマズイ。特に「○」の部分は完全に孤立しているではないか。

(店長)「掘りごたつのご希望には添えられませんでしたが、こちらでしたら当初よりも広い面積なのでゆったり座ることが出来るかと思います」

 二度目の下見を終え外に出た僕は落ち着いて考え直した。面積の問題ではない。この配置では、サプライズのバースデーケーキを持ってきた時に、全参加者の視線を集中させるのは容易ではないし、その後の送別者へのプレゼント贈呈や手紙の拝読にも影響しかねない。

 しかし、この時すでに開催まで10日間を切っていた。他の会場を押さえられる保証は無いし、もし押さえられたとしても、会場変更の案内を全参加者に送信しなければならなくなり、混乱も起こりうる。何より2回も下見に協力していただいたA店をキャンセルすることになってしまう。

 だが問題はそこなのか。本当に大事なのは送別会を成功させることではないのか。もし余興が失敗したらそれはただの飲み会でしかなく、僕の負けということになる。これは誰の送別会か。誰のためのパーティーなのか。

幹事の任務(9):2年前の追憶

 2年前。高校1年のB美は、僕と似ているような気がした。

(僕)「人と話すのは得意ですか?」

(B)「いや、苦手です」

(僕)「頑張って得意になりましょう。人間は分かり合えない生き物です。この世の中、結局は話し上手な人が上手くやっていけるのです」

 あれから2年間、同じ非リアとして僕は彼女を応援し、行く末を見守り続けてきた。本人は未だに話すのが苦手と言うが、いよいよ4月から社会の荒波に揉まれることとなる。僕はただの飲み会の準備をしているのではない。これは就職を前に不安を募らせるB美を前向きに送り出す為の会なのだ。

幹事の任務(10):勇気を出して会場の変更

 もう迷いはなかった。その足で近くのチェーン店、B店にアポなしで訪問。

(僕)「突然すみません。飲み会の会場を探しているんですけど、掘りごたつの個室を見せてもらえますか?」

 案内された個室は少し狭かったが、席の配置は僕の理想とほぼ合致していた。しかも現時点では送別会当日の夜はまだ空いており予約可能という奇跡。問題は金額で、飲み放題コースが3時間で一人4,000円とA店より500円高い。2時間半という丁度良い時間は選択肢に無かった。

幹事の任務(11):会費シミュレーション表の作成

 近くのマクドナルドに入り電卓をひたすら叩いた。会費が複雑になっており、普通の成年参加者は4,100円だが、発案者A男の希望により送別者のB美は無料で招待しなければならない。加えて未成年参加者と遅れてくる人は2,300円。このうち成年参加者の会費を4,300円に値上げしても、僕の負担は高くなる。しかし、ホットペッパーのサイトで割引クーポンを見つけ、その負担も軽減できると判断し、マックの店内ですぐさま電話をかけB店を予約した。

 こうして最悪の事態は回避できた。2時間半を3時間に延ばすのは僕としては不安だが、参加者にとってはプラスだろう。2016年3月4日、ピンチをチャンスに変えた日である。

幹事の任務(12):最終調整

 勇気を出してA店に電話しキャンセルを伝えた。丁重に謝罪した。

 時すでに本番一週間前。気持ちを切り替え残りの準備作業を進めなければならない。バースデーケーキの予約、全参加者へのリマインダーの送信、座席表の作成、各種小道具の準備、プレゼントの購入、乾杯のあいさつカンペの作成、余興台本の修正、そして神社を参拝し成功祈願まで行った。

 しかし、多忙な仕事の合間を縫っての準備作業は困難を極めた。結局、発声練習と台本読みリハーサル、手紙拝読リハーサル、副幹事との最終打ち合わせ、危険予知シミュレーション、場が盛り下がった時に備えての話題ネタ集めは出来ないまま本番当日を迎えてしまった。

幹事の任務(13):本番当日、開始前にやること

 3月12日、『送別会2016春 ~We wish you happiness.~』当日。ここに至る36日間、本当に色々な事があったが、あと一日頑張れば全てが終わる。

 200円で購入した一週間お試しボトルの高級シャンプーで髪を洗い、服を買うお金は無いので全身スーツで決め、いつかの友人の結婚式で購入した真っ白なネクタイを締めた。着るもの全てに衣類用フレグランスをたっぷりと吹きかけた。身だしなみは限られた予算で最大限の努力を尽くした。

 まずは会場近くのケーキ屋で予約済みケーキを受け取り、持ったまま開始30分前に会場入り。プレゼントや余興台本の入ったトートバッグを店員に預け、ケーキは冷やしておいてもらう。そして僕は掘りごたつ個室のテーブルに、座席表をもとにネームプレートを置いていく。

 あとは店の前で待機。いよいよ参加者が一人、また一人とやってきた。

(僕)「会費の支払いと、今のうちに一杯目を決めて下さい」

 開催前の会費回収は鉄則。そして、すかさず飲み放題メニュー表を見せ、一杯目のドリンクも参加者チェック表に記入

 これで一杯目を決めるときに「生の人手を挙げて!」などと言う必要もなくなり、余計なgdgdを回避できる。このへんは友人を手伝った経験が活きている。メニュー表はこれだけの為にエクセルで手作りする徹底ぶり。

幹事の任務(14):想定外の事態に対処できるか

 まだ2人来ていないが、ほか全員の1杯目が揃ったところで乾杯の挨拶。

「当店としての送別会を約一年ぶり、正確には378日ぶりに開催する運びとなりました」

 ここで笑いが起き、掴みは成功。初幹事であることも正直に伝え、ハードルを下げた。

 あとはひたすら食べること。どうせ幹事という立場上酒を飲めないし(しかも僕はこのあと夜勤を控えていた)(飲みたい場合はせめて2杯くらいに抑えよう)、せめて食べることを楽しまないとここまで頑張る意味が無い。
幹事としては料理を取り分ける、ドリンクを回すことさえしておけば、追加のドリンク注文は各々で勝手にやってくれるし、話題もリア充の皆さんが勝手に出して盛り上げてくれる。しかも僕は電話をするフリをして何度も席を離れた(このへんがコミュ障)。もはやこれくらいは許してほしい。

 やがて仕事の都合による遅刻者も登場し、バックレた一人を除き(ん?)全員揃ったところで店員にこっそりバースデーケーキを用意してもらう。その間僕は通路に隠れ、ケーキ登場と同時に僕も登場。トートから台本を取り出し、いよいよリア充をギャフンと言わせる為の余興を開始。

 一応は順調に進み、参加者たちは事あるごとに拍手までしてくれた。最大の見せ場である手紙の拝読では笑いが起きてあまり感動にならなかったが、最後の集合写真撮影も含め、予定していた5大企画はほぼ構想どおりに完遂した。
 想定外の事態はこの直後に発生。

(副幹事)「このケーキどうするの? ナイフとか取り皿が無いよ?」

 そこまでは考えていなかった。だが落ち着け僕。まずは店員に相談し、ナイフの貸し出しは出来ないことを告げられる。そこで店員に切ってもらうことに。しかし何等分にすべきか。

(僕)「ケーキ食べたい人手を挙げてください!」

 分からないことは勝手に判断せずに確認を取る。テンパりやすい本番では迷ったときこそ基本に戻ることが大事である。

 こうして3時間、いや、正確には店側のご厚意により延長していただき、3時間半にも及ぶ死闘は無事に幕を閉じた。ちなみに延長が決まった場合は当初の終了時刻に「予定通りの時間に帰りたい人はこのタイミングでお帰りください」と伝えるなど、ケツカッチンな人への配慮も忘れずに。終了後、僕は余韻に浸る間もなく夜勤をしに職場へ飛んだ

幹事の任務(15):写真の整理と希望者への送信

 後日、集合写真を希望者に送信して幹事の任務は全て終了。

 しかし、最後の最後に悲劇は2つも起きてしまった。3枚も撮ったはずの集合写真を良く見ると、3枚ともある一人の参加者の顔がほとんど写っていない。他の参加者が重なってしまったのだ。

 そもそも本番の日、用意していたデジカメは充電していたのにも関わらず開始10分でバッテリー切れ(寿命か?)を起こし、予備バッテリーは予算的に用意できず、その後はスマホのカメラ機能で代用していた。

 写っていない当事者に謝罪し許してもらいはしたが、36日間も必死で努力し、会場の変更などピンチにも果敢に対処してきた結果がこれとは、無慈悲な現実にも程がある。適当に準備して適当に進行しているノープラン幹事ですら、カメラのバッテリー切れや写真に写らない人が出てくるなんてそうそう起きないだろう。なのに僕は……もしかして呪われているのではないだろうか。

 コミュ障が大きなトラブルも無くここまで頑張れたこと自体、奇跡なのかもしれない。しかし、いざ終わってみると、大きなリターンがあるわけでも無く、参加者の過半数はお礼のメッセージすら無い。

(A)「アハハハ、それが幹事ってものですよ」

 この男は当日穴が開くシフトに協力してくれた恩人なので、あえて突っ込まないでおく。ついでに言うとB美は非リアではなく彼氏がいることも判明。僕の想像とは大きく違う明るい子で、完全な杞憂であった。とにかくコスパは最悪であり、2次会を5人も同時にキャンセルした謎は不明なまま終わるなど、モヤモヤさえも残る。

 しかし、いつか上司などから強制的に幹事を任されてしまう時に備えて、今から経験として友人同士で良いので一度は幹事を務めたほうが良い。この駄文が一人でも多くの読者に少しでも役に立てたのであれば、三十路貧乏童貞としてはせめてもの救いである。

(Fin.)

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