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声優・水瀬いのり横アリライブに戸惑いと不安を覚えた話

 2021年10月17日、横浜アリーナ。数々の声優のライブを観てきた声ヲタ歴7年の私がこの日、初めて「戸惑い」「不安」を覚えた話をする(当然、ネタバレだらけですのでご注意下さい)。

Inori Minase LIVE TOUR 2021 HELLO HORIZON @ Yokohama Arena

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1.コロナ禍では初の「有観客」

 もちろん水瀬いのり本人にとっては悲願のステージだった。本来なら2020年7月25日、1万7000人ものファンの前に立っているはずだった横アリである。それが1年3ヶ月の時を経てついに実現したのだ。

 コロナ禍以降、私が初めて体験する「有観客ライブ」は、当然ながら不完全な形での開催となった。観客は入場前に検温とアルコール消毒、当然マスクも着用し、隣の客とは1席分離れて着席。本番中は激しい動作どころかコールさえ一言も発せられない。また、これらに伴う「キャパ50%制限」というのも地味に悲しい。

 それもあってか、私はファンクラブ最速先行抽選にも関わらず「座席ガチャ」に外れた。着席したのは3階スタンドの、それも後方。いつもならステージ左右の大画面モニターで見ればそんなの関係ないと割り切れるのだが、この日は本番前から漠然とした不安に満ちていた。様々な制限のあるライブを、しかも後方の席から楽しむことなど出来るのだろうか。

2.OPムービーのロケ映像に「感動」

 そして18時、開演。モニターには恒例のOPムービーが映し出されるのだが、1stや2ndのライブを彷彿とさせる「ドラマ仕立てのロケ映像」だったことに初っ端から感動を覚えた。3rdでは趣向を変えた「バラエティ風」のカウントダウン映像で少し面を食らったが、それ以来の有観客ライブとなる今回でロケ映像が復活したことは素直に良かった。やはりこの、非日常に誘(いざな)われた気分になる世界観のOPムービーから始まるのが水瀬いのりのライブの醍醐味である。

3.1曲目『RSG』の試練に「戸惑い」

 OPムービーの後、ずっと暗かったセンターステージにスポットが当たるや否や水瀬いのりが既にそこに居た。このサプライズ的な登場と共に客席は一斉に立ち上がった。そうか、ここでは立っても良いのか(※コロナ禍以降は終始着席を義務付けられるライブも多数ある)と、思わぬところで嬉しくなった。当然私も立ち上がり、ブレードを水色に光らせる。そして2年ぶりとなる悲願のライブの、大事な大事な1曲目のイントロが流れる。

――『Ready Steady Go!』――

(※引用動画は全て過去のライブの映像、またはMVです)

 OPの感動から一転、私は早くも戸惑った。本来なら大盛り上がりのマストな選曲。しかし今回はコールが禁止されていることが問題だった。RSGこそ「コーレス込みで初めて完成されるライブ曲」(動画参照)だと言えるからだ。タオルを回すことは許されたし、実際盛り上がったのは事実だが、少なくとも1st~3rdのような大盛況とは少し異なっていると感じざるを得なかった。特に2ndのアンコールで満を持してのトロッコからのRSGの光景を今でも忘れられないからこそ比較してしまった私を許して欲しい。

「ライブはやっても良いけど、もう今までのようには盛り上がらねえぞ」と、天のお告げが聞こえた。これは最早「試練のライブ」だ。我々観客は試されている。

4.集大成型ライブへの期待と、2曲目の「不安」

 続く2曲目は『ピュアフレーム』。早くもカップリング曲の登場である。今回私はあえて他公演のセトリを見ずに、事前情報一切なしで参戦したので攻めの選曲に驚かされた。

 声優に限らずアーティストのライブは大きく2つに分けられる。『アルバムベース型』『集大成型』である。前者はライブ開催の数ヶ月前に発売したオリジナルアルバムの収録曲をベースにセトリを組むというもの。後者はこれまでにリリースした音源全てがセトリの候補となる、選曲次第ではライブの定番曲多数の「神セトリ」にもなり得る方式である。『Catch the Rainbow!』以来、もう2年半もアルバムを出していない水瀬にとって今回のライブは当然後者となる。

 それに加えて、町民集会を除けば2019年6月、日本武道館以来の有観客。実に2年以上もファンは水瀬に再び会える日を待ち続けていた。その満を持したライブの2曲目である。『ピュアフレーム』も良曲なのだが、集大成型のライブなのだから他にもっと歌うべき楽曲はあったはず。

5.『Million Futures』で初めての「安堵」

 3曲目は『Million Futures』。良かった。この曲ではコール無しでも確かに2ndや3rdと同様の盛り上がりを見せていた。そうだ、これが私の見たかった光景だ。マスクを着けていようが無言だろうが、キャパが半分だろうが関係ない。いのりんへの愛さえあれば、俺たちはどんな制約下でも盛り上がることが出来る、そのポテンシャルを持っている。それに気付いた時、ようやく私は胸をなで下ろした。

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6.MCの「年齢アンケート」で引き戻される「現実」

 3曲も歌えばそろそろMCの時間。決められた歌詞とは違う、水瀬いのりの心からの声を初めて聞くこととなる。

「去年同じ横浜アリーナで無観客を行った時には、こんな景色が見られる未来が来ると思っていませんでした」

 そう、水瀬は昨年12月5日(収録は11月)、初めて横アリのステージに単独で立てる喜びと、聴衆が誰一人居ない寂しさの間で揺れながら、複雑な心境で配信ライブをしていた。その後の2月の町民集会でも(当然こちらも配信のみ)「早くファンの目の前でライブをしたい」と嘆いていた。彼女にとって最大の悲願だった有観客ライブ、その聴衆の一員になれたことを誇りに思う。本当に良かったね、いのりん。

 しかし、そんな感激もつかの間。

「じゃあアンケートしまーす。まず10代の人は拍手して下さい!」

 非日常の世界に来ていたはずの私は、開始20分で現実に引き戻された

 拍手の大きさから察するに、10代がそれなりに多く、20代はその倍かと思うほど存在していた。そして30代は10代より少し少ない程度の音量。

 そして私は35歳独身男性である。

 これが現実だ。いや知っていたよ、水瀬ファンは10~20代が圧倒的多数なことを。でもライブの本番中に現実に引き戻されたくは無かった。もちろんこれは無駄に年を取った私が悪いのであって、水瀬本人には何の罪も無いのだが。

 その直後にコール禁止の弊害が。突然自分から回りだす水瀬。観客は「回って!」と言うことが出来ないから仕方ないのだが、これでは自己顕示欲の強い女であるかのように見えてしまう(ここギャグですよ)。

7.安心安全『アイマイモコ』と、バンドメンバー紹介で起きた「革命」

 MCの後は最新シングルのカップリング『Morning Prism』を挟み、出た、『アイマイモコ』である。安心安全アイマイモコ。盛り上がらないはずはない。2度目の安堵の表情を浮かべる私。

 その後に流れたイントロはなんと、

――『Shoo-Bee-Doo-Wap-Wap!』――

 ダンス曲キタ━━━(゚∀゚).━━━!!!

 と思わせてからの、それをBGMにバンドメンバー紹介。水瀬が踊ることは無かった。シュビドゥワ詐欺である。

 しかしそれは置いておく。ここで革命が起きた。モニターに映し出されるバンドメンバーの名前テロップにメンバーカラーが付いたのである。バックバンドの概念を根底から覆した歴史的瞬間である。とどのつまり、いのりバンドのメンバーは「水瀬のサポート」ではなく「水瀬と同じ立ち位置=主役」にいるということだ。水瀬にとっても仲間という感覚なのだろう。その対等な関係性にほっこりした。

8.これはダンス曲なのかという「疑問」

 シュビドゥワこそ踊らなかったものの、白のロングワンピに衣装チェンジした水瀬は『クリスタライズ』『Well Wishing Word』を振り付きで披露した。もしかしてこれが今回のダンス曲扱いなのか。水瀬らしい可愛いダンスではあったが、1stの『コイセヨオトメ』、2ndの『Shoo-Bee-Doo-Wap-Wap!』、そして3rdの『Kitty Cat Adventure』がいずれも偉大過ぎて、残念ながら初見の衝撃はそれらには及ばなかった。

9.初披露曲を歌う「宣言」

 そして迎えた2度目のMC。ここで水瀬は「これまでライブで披露してこなかった曲も歌っていきたい」と宣言した。既に7曲中3曲もカップリングという攻めの選曲は、つまりはそういうことだったのだ。

 しかし、今回が「集大成型ライブ」だと信じて止まない私は、その発言で再び不安になってしまった。私はデビュー曲『夢のつぼみ』や、水瀬で一番好きな曲とも言える『笑顔が似合う日』を聴きたいし、『Starry Wish』『TRUST IN ETERNITY』などの盛り上がる定番曲も欠かさないで欲しい。

10.カップリング連発で辿り着いた「悟り」

 その思いとは裏腹に『思い出のカケラ』『ソライロ』『茜色ノスタルジア』とカップリング曲を3連続披露する水瀬。私は悟った。2つのことに気付いた。

 1つは「2年ぶりの有観客だし、悲願の横アリだし、今後のコロナの情勢次第では次にいつライブが出来るか分からないのだから、水瀬サイドの好きなように歌わせるべきではないか」ということ。ファンの求めるパフォーマンスをするのが芸能人の使命だという考え方はもう古い。コロナ禍真っ只中の令和3年は、送り手と受け手の相互理解が必要不可欠。数多の制約の中で送り手が必死に考え導き出した答えを、受け手のほうが寄り添い、受け入れるべきなのだ。

 そしてもう1つは「そもそも水瀬いのりはカップリングも良曲である」ということ。カップリングもそうだが、アルバムにもハズレ曲が全くと言って良いほど皆無だ。彼女のアーティスト活動には有能なクリエイター達が集まっている奇跡に感謝したい。

11.幕間の映像からの『HELLO HORIZON』で得た「カタルシス」

 OPムービーに続き、幕間の映像表現もただただ美しい。物語の分岐点で「2択アンケ―ト」が表示され(例:このあと水瀬が種を植える花は赤か青か)、客席の照らすブレードの色が多いほうの展開に切り替わる面白い演出もあったが、本当の衝撃は終盤だった。一面に青の花が咲き渡り、地平線が現れる。この地平線こそが今回のライブのキーワードだったのだ。

 直後にライブの表題曲『HELLO HORIZON』を披露。HORIZONとはもちろん地平線のこと。これまでの全ての点が線で繋がる瞬間である。


それより前を向けといま 声嗄らし胸が泣いた
失くしたもの一度きりで 元には戻せないのでしょうか

 この曲はただのアニメのOPと言えばそれまでなのだが、歌い出しから水瀬の心情ともリンクしている。2020年、失われた5つのライブ。ファンと会えなかった2年もの月日。ずっと悲しみに明け暮れていた。

信じること 信じたとき ありのままの自分がいた
ハローイエス 頷けばその一歩が
ハローイエス 見たことないあの地平を目指す

 配信ライブと町民集会を経て、ようやく実現した横アリでの有観客ライブ。2年間で感じた全ての思いを詰め込んだ結果が「ありのままの自分で新しい一歩を踏み出す」ことだった。地平線はそれを端的に示唆していたのだ。

 ここで私の解釈は180度変わった。これは『集大成ライブ』ではない、『全く新しい形のライブ』なのだと。ナンバリングをしなかったのも、これは3rd、配信に続く5度目のライブではなく『新しい形での1回目のライブ』だから。コーレスの無いRSGも、カップリング曲の多さも、年齢アンケートで引き戻される現実も、メンバーカラーを付けた「いのりバンド」も、シュビドゥワ詐欺も、あまり印象に残らなかったダンス曲も、全ては「新しいことに挑戦した結果」なのだ。

 幕間の映像と『HELLO HORIZON』で、前半に感じた戸惑いと不安は全て解消され、超特大カタルシスを得た35の秋。

12.終盤は定番曲で怒涛の「畳みかけ」

 もう何も怖くない。何が来ようが100%受け入れるつもりでいた私の耳に入ってきたのはなんと、

――『TRUST IN ETERNITY』――

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 涙が出そうになった。何でも良かったのに、このタイミングで一番来て欲しい曲を響かせてくれた。これまで以上にブレードをぶんぶん振り回す。

 その後のセトリを続けて見て欲しい(MC等の表記は省く)。『Starry Wish』『三月と群青』『Starlight Museum』『アルペジオ』『Sweet Melody』『ココロソマリ』である。熱い、熱すぎる。新しいことに挑戦しつつも、ちゃんと終盤では定番曲で畳みかけることも忘れてはいなかった。アンコール前ラストが自身の作詞した『ココロソマリ』というのも完璧な着地である。水瀬がファンの皆と「重ねた温もりこの手に未来へ」。近い未来に次があることを信じたい(※すぐに町民集会があります)。

13.アンコールラスト『僕らは今』に込められた「想い」

 その後のアンコールは横アリ名物のトロッコで回ってくれた。後方のワイにもチャンス到来。彼女が最接近した時「今後の情勢によっては、これが水瀬を生で拝める最後になるかもしれない」という思いで私は懸命に手を振った(流石に12月の町民集会は中止にはならないだろうけど)。楽曲は『Dreaming Girls』『Catch the Rainbow!』と続き、次がラストとなってしまった。

――『僕らは今』――

 これは、本来なら4thで最後に歌う予定だった幻の曲。結局『夢のつぼみ』は聴けなかったが、水瀬のことを思えば締めはこれ一択である。

14.アンコールの後の「衝撃」

『僕らは今』を歌い上げると「ありがとうございました」と下手に去っていく水瀬いのりwithいのりバンド。最初はどうなるかと思ったが、今は感動の2文字しかない。夢の時間も終わり、規制退場のアナウンスが流れるかと思いきや、

――ダブルアンコール――

 とんでもないことが起きた。客席からのダブルアンコールを受け、水瀬が三度の登場。

 4thアルバム制作決定の新情報解禁の後に披露したのは、

(まさかここで『夢のつぼみ』!?)

♪キリンレモン、キリンレモン……

 2ndでのサプライズ披露以来の『まっすぐに、トウメイに。』である。そう来たか。ここで『夢のつぼみ』や『harmony ribbon』なら完璧だったが、そもそも「新しいことをやる」ライブだった。これもまた今回のライブらしい終わり方だったのだろう。

15.総評

 結構長くなってしまい申し訳ない。直近の配信ライブが「アーティストデビュー5周年の集大成」なら、今回は「新しい一歩を踏み出した歌手・水瀬いのり第二章の幕開け」だったのだろう。色々あって悲喜こもごもだったが、その全てをひっくるめて「楽しめた」「感動した」。そして、そもそもコロナ禍というとても厳しい中で無事に有観客ライブを開催してくれたことへの「感謝」、それしか無い。本当にありがとうございました。そして、お疲れ様でした。

 さあ、次は町民集会だ。ミニライブでのレア曲披露を期待している。

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