almaのおかげで渋谷に行けました、という話

 それは確か2020年の春先ごろだったはず。Twitterでリスト入りさせていたアカウントが「アイドルのプロデュースをする」と告知してきた。それはわたしの好きなグループであるA応Pの元メンバーであり、その後には放課後プリンセスでも活動されていた水希蒼さんのアカウントであった。
 水希さんはその少し前に「今度は裏方として活動する」というような主旨の発言をされていたと記憶していたので驚きはあまりなかったものの、しかし不安のようなものは少々あった。
 それはプロデューサーとしての手腕が未知数であった点もあるが、当時は「新型コロナ”肺炎”」の流行が騒がれており、あちらこちらのアイドルグループやライブハウスが苦境に立たされていたという、新規グループのスタートアップには不向きなタイミングであったためでもあった。
 そんな状況下で始動するアイドルグループが一体どのようなものなのか。その告知ツイートに添付されていた動画をクリックしたのは、ほとんど野次馬根性の働きだけであったのは間違いない。そこにはメンバー6名によるアカペラ歌唱の様子が収められていた。

「……なんだこれ!」

 油断していたところを思い切りぶん殴られた。上手いのだ。「上手い!」と「すげえ!」に感情を支配されているうちに動画は終わった。とんでもないグループが現れたと思った。それがいつになるとしても、絶対にライブに行かなければならないと感じたそのグループの名前はalmaであった。
 しかしそんな決心してみたところで、世間はコロナで騒がしかった。さらにA応Pを基準にしていた当時の自分は、A応Pが有観客でのライブを再開するまではライブに行く事はないと決めていたのもあり、いつになっても「いつか」は訪れなかった。
 訪れない「いつか」を待っている間にA応Pは無観客ライブを最後に活動を終了し、almaのメンバーは6名から5名になっていた。自分の手元にはダウンロード購入した音源が数曲と、それからライブDVDがあった。2022年、「いつか」は既にやって来ていた。ただ気付いていないだけだった。いや、ひょっとしたら気付かないフリをしていたのかもしれない。しかしどんなに耳をふさいだところでニュースは飛び込んでくるのだ、爆音で。

alma初の東名阪ツアー開催決定

 もはや何の言い訳も許されぬ、馬鹿でもわかる「いつか」がやってきた。東京郊外の典型的住宅街に生まれ育った自分が参加するのは、当然ツアーファイナルの渋谷。驚くべきことに人生初の渋谷。駅から無事に出られる気がしない。不安だ。
 2022年5月14日。不安を振り払おうとストリートビューで予習を試みるも結局渋谷駅の攻略方法はわからず、駅から出ればなんとかなると信じてみたが案の定道を間違え、ついでに会場周辺のラブホ街でも迷いまくった。開演時刻はとうに過ぎている。あと5分探してもわからなかったら諦めようか、そう考え始めた頃になってようやく会場へと辿り着いた。duo MUSIC EXCHANGEである。
 しかし辿り着いたはいいが、このMUSIC EXCHANGEは他にO-EASTやO-WESTなどのライブハウスが隣接しており、つまりは入口がどれなのかよくわからない。多分ここで合ってる、しかし違っていたらどうする?悩める渋谷初心者。だがそんな優柔不断な男の耳を掴んで引きずり込むように、場内から音が漏れ出していた。

「……この歌声は」

 そのパワフルな歌声は扉越しでも間違えるはずがない。almaだ。告知ツイートから2年以上を経て、ようやく辿り着いた場所であった。

 場内はまさに圧倒的。一撃ですべてをぶち抜いていったあの歌唱力を振り回してメンバーたちが舞っていた。ただただカッコよく、ただただかわいく。憧れる事しか許されないような存在感で。自分はその様子を半ば呆然と見上げていた。動画で幾度となく観てきた世界がそこにあった。
 いや違う、動画では決して味わえない世界だ。全身を包み込む爆音も、周囲の人たちの熱気も。そして何より、その熱気の向かう先にいるのは本物の、生身のメンバーたちでありディスプレイなどではない。それは巻き戻しの許されない、たった一度だけの本当の「体験」なのだ。自分はその時、体験を作り上げる一部となっていた。
 こうして終始圧倒されながらライブが終わった。物販で記念にいくつかグッズを購入し、満ち足りた気持ちで帰宅したら身体だけ先に戻ってしまい、心が帰宅するまで数日かかってしまった。それほどの余韻に包まれていた。

 などと語ってみたものの、これでalmaの魅力が伝わるとは思っていない。それはわたし自身の文章の拙さも当然だが、結局のところライブというものは体験であり体感だからだ。仮にわたしが名文と呼ばれるようなものを書いたとしても、それは単なる情報に過ぎない。それもわたしというフィルターを通した上での、だ。
 だからもし、今現在この記事を読んでいるあなたの中にちょっとした好奇心のようなものが芽生えたのなら、一度almaを体験してみてはもらえないだろうか。わたしというノイズの介在していない、本当の体験を。
 それがあなたの人生の中で、光り輝く思い出のひとつとして数えられたのなら、宝物のような体験として感じてもらえたのなら、きっとこの恥ずかしい記事を晒した意味ができるのではないだろうか。

 ところで、ああっ!なんという偶然でしょう!?そんなalmaの単独ライブが来る12月26日に秋葉原で開催されるんですって!!しかもチケット料金は破格の500円!わぁい!!
https://t.livepocket.jp/e/almaonly

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