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『7分で追いつくダイジェストを3分半で見て不安になる』

20240128


 Z世代の人をタイパ世代とも言うらしい。

タイパ世代とは、タイムパフォーマンスを重視する、つまり時間を効率的に使い、成果を出すことを重要視するみたいな意味だという。


 ここ数年、新しい連続ドラマが始まって少し過ぎた頃、動画投稿サイトによく「第一話、7分で追いつくダイジェスト」みたいなものが、各テレビ局の公式チャンネルから挙がっているのを目にするようになった。

 まず、ドラマ1話分が7分にまとめて説明できてしまうことに驚くと同時に、そういう時に限って、初回拡大版で視聴者にお届けされていたりして、矛盾しているのかしてないのかよくわからなくなる。

ただ、1話を見逃してしまったが、2話から見始めるのは気持ち悪いから、1話はダイジェストで大体の内容を把握して2話から本格的に見たいという人のために、あえてダイジェスト版を放送してくれていることは理解できる。

タイパを重視するなら、それはとてもありがたいことだけれど、やっぱり45分くらいある1話を7分で理解させようとしてしまう、その姿勢は少し怖い。


 ドラマ1話分を7分でまとめられてしまうことに、ドラマを制作する立場の人は嫌悪感を抱いたりするのだろうか。ドラマのダイジェストというのは、基本的にナレーションが多いイメージがある。ナレーションが多いということは、俳優の演技を口で説明していることになる。それはもう、ドラマ1話全て見ることが無意味ということなのだろうか、わからない。



 もしも、そのドラマが僕の人生をドラマ化したものだったら、僕はどうしたらいいんだろう。勢いよく学生時代の話が初回拡大版で第1話として放送されて、その一週間後くらいに、第1話の7分で追いつくダイジェストが放送されて、僕の20年くらいの人生が7分で説明されてしまっていたらと考えると恐ろしい。


 いくら、仏の顔も三度までと言っても、僕の中に居座る仏は黙っていないのではないかと思う。

 中学の友達が、僕が落とした制服のボタンを探してくれた時、その子が校庭の地中からボタンを3つも見つけ出したことや、高校の合唱コンクール当日の昼休みに、朝からお腹の調子が悪いことを理由に、コンビニの袋のまま食べられる千切りキャベツをドレッシングもかけずに、袋に直接割りばしを入れて食べ、合唱を全て口パクで乗り切っていた僕の親友の話なんて絶対に入っていないだろう。


 さらに、20年分の僕の人生のドラマの初回ダイジェスト版を、普段から倍速視聴する人が二倍速にして、20年の人生が3分半にコンパクトにまとまってしまったら、もう、生まれた瞬間から20歳まで一気に飛んでコロナの影響で成人式がなくて、特に思うこともなく無表情の自分が天井を見ている、というだけで終わりだろう。


 自分の普段の生活を振り返ると、自堕落な日々がほとんどなので、ダイジェストにまとめられるくらいがちょうどいいのかもしれないとも思った。

ダイジェストにできるほどのイベントが僕の人生に起きていればの話ではあるのだけれど。

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