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教室でお腹が鳴ることに真面目に悩んでいた話

人によっては何てことない些細なこと、何なら笑い話に出来る、たったそれだけのこと。
「それだけのこと」が、不登校のトリガーになった話を聞いて欲しい。


私は当時中学生で、一年生の時に何とか友達が出来たのだが二年生、三年生とことごとく友達とクラスが別れ、人見知り通り越してすっかり変わり者な私はそれでも優しく話かけてくれるクラスメイトにまともな返事が出来ずにチャンスをふいにし続けて孤立に至った。
それでも、昼休みや放課後になれば最初に出来た友達と話すことも出来るし、学校行かなきゃという脳内プログラムに突き動かされるままロボットのように学校に通っていた。
この二年間の記憶はほとんど無い。
ほとんど、ボーっとして過ごしていた。

そんな時にふと、授業中にお腹が鳴ることが気になりだした。

この時はまだ知らなかった。
ソレは、意識すればするほど大きくなるバケモノだということを。

止まれ、鳴るな、と身体をよじる。
無駄な抵抗である。
授業ならまだいいが、テスト中は静か過ぎて全神経がお腹に集中しだす。
四時間目が来るのが嫌だった。

対策として、朝ご飯をたくさん食べた。
少し太っただけだった。
休み時間に水分補給を多めにした。
ぼっちで思春期な私にとって、小さなお菓子をこっそり食べることはハードルが高くて出来なかった。

対策しようが神様にお願いしようが効果はあまりなく、お腹の中でバケモノは暴れ回り、いつしか地鳴りのような爆音で叫ぶようになりはじめた。
ゴゴゴゴゴ…

そして、中学三年生の四時間目音楽の授業。
私は水をがぶがぶ飲み、備えた。
席に着き待っていると、先生が音楽室に来る前にバケモノが短く鳴いた。
すると前に座っていたクラスメイトが
「ちょっと、今の誰ー?」
とニヤニヤしながら振り返った。
頭から血の気が引き、心臓がバクバクと跳ねだす。
斜め後ろにいた、よくいじられている子が名指しされるが笑いながら否定する。
「じゃあ誰ー?」
犯人探しを諦めるつもりはないらしい。
何の為に?
今のお腹の音の犯人が私だと分かったとしたら、しらけるか無駄に気を遣われるだけである。
面白くない解答な上に、気持ち悪い奴というような印象が強まるのではないだろうか。
私にとってこのクラスは、間違って紛れ込んでしまったと思えるほどアウェイでしかなかった。

結局探偵が犯人を見つける事なく、先生が来て事件は有耶無耶になった。
そもそも事件なんて起きていない。
ただお腹が鳴っただけなのだから。
授業中、また鳴るのではないか、次こそバレるのでは無いかと生きた心地がしなかった。

糸はプツリと切れた。
私は次の日の朝、初めて「行きたくない」と言った。
戸惑う母に無理矢理車に詰め込まれ、学校に連れて行かれ、保健室で担任の先生と対峙した。
私は始終俯いていた。
ぽつりぽつりと、クラスに友達がいなくて居づらいことを話した気がする。

しかし、お腹が鳴ることについては「そんなことで⁉︎」と思われるだろうと想像できたので、初めて言葉にして母に伝えたのはもう少し後だった。

母も困ったようだったが、それでも何とかしてやろうと何件か病院へ連れていってくれた。
四時間目になると、ストレスから腹痛も伴うようになっていたので腹痛のこと、そのおまけとしてお腹が鳴るのはどうしたらいいか、母が代わりに聞いてくれた。
病気ではないのだし、画期的な改善策はもらえなかった。
「もっと自分に自信を持ちなさい」と励ましてくれたお医者さんもいた。
自分でもたくさん調べた。
休みがちながら何とか細々と保健室登校をした。
クラスメイトと会わないか怯えながら保健室に息を潜めた。

そんな中、受験が近付いていた。
受験のテストの四時間目、私にとって大きなハードルだった。
しかし、私はついに受験を前にしてお腹を鳴りにくくする方法を見つけた。

[唾をなるべく飲み込まないようにする]

そもそもお腹が鳴るのは、お腹に空気を取り込んでしまうためであるが、私は今まで何かを胃に入れなくてはと唾を飲み込む回数が増えていた。
その度に空気も一緒に飲み込み、お腹が鳴るのを助長させていたようだ。
もちろん、私にとっての対処法であり原因が違う場合は効果があるかは分からない。


受験当日、母から貰ったぐーぴたというお菓子を御守り代わりに(休憩時間に食べる勇気はない)、テスト中は口内に唾液を溜めながら、私はお腹の中のバケモノを手懐けて受験を乗り切ったのである。

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